離婚を検討している方の多くが抱える大きな悩みのひとつが、住宅ローンが残っている不動産の扱いです。マイホームは夫婦の大切な資産である一方、多額のローンが残っていることも珍しくありません。このような状況で離婚する場合、財産分与はどのように行われるのでしょうか。
本記事では、住宅ローンがある場合の財産分与について、具体的な計算方法や処理方法、注意すべきポイントまで詳しく解説します。離婚を考えている方、すでに離婚協議を進めている方にとって、適切な財産分与を実現するための参考となれば幸いです。
財産分与と住宅ローンの関係
財産分与の基本的な考え方
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に築いた財産を、離婚の際に公平に分けることです。この財産分与を正しく理解するためには、「プラスの財産」と「マイナスの財産(負債)」の両方を考慮する必要があります。
プラスの財産とは、現金、預貯金、不動産、車、有価証券、退職金、保険の解約返戻金などの資産を指します。一方、マイナスの財産(負債)には、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの未払い金、その他の借金などが含まれます。
財産分与では、これらのプラス財産からマイナス財産を差し引いた正味の財産を分与対象とするのが基本原則です。つまり、単純に資産だけを分けるのではなく、負債も含めて総合的に判断することが重要なのです。
不動産と住宅ローンの特殊性
不動産は財産分与において特に複雑な要素を持ちます。なぜなら、不動産は高額な資産である一方で、多くの場合、長期間にわたる住宅ローンが設定されているためです。
例えば、3,000万円で購入したマンションがあり、現在の時価が2,500万円、住宅ローンの残高が1,800万円だとします。この場合、単純に不動産の価値である2,500万円が分与対象となるわけではありません。ローン残高の1,800万円を差し引いた700万円が、実質的な分与対象財産となります。
この計算式は以下のようになります: 不動産の時価 − ローン残高 = 清算対象財産 2,500万円 − 1,800万円 = 700万円
オーバーローンの場合
しかし、すべてのケースで不動産にプラスの価値があるとは限りません。不動産の時価よりもローン残高の方が多い「オーバーローン」の状態になっている場合もあります。
例えば、現在の時価が2,000万円の不動産に対して、ローン残高が2,500万円残っている場合、差額の500万円がマイナス財産となります。このような場合、不動産は分与対象財産としてはマイナス500万円として計算されることになります。
オーバーローンの場合の計算: 不動産の時価2,000万円 − ローン残高2,500万円 = △500万円(負債)
財産分与における負債の取り扱い
住宅ローンなどの負債が財産分与にどのような影響を与えるかは、その負債の性質によって異なります。
夫婦の共同生活のために負った負債(住宅ローン、生活費のための借入など)は、基本的に夫婦が共同で負担すべきものとして財産分与の対象となります。一方、個人的な目的のための負債(ギャンブルのための借金、個人的な趣味のための借入など)は、原則として負債を負った本人が単独で負担することになります。
住宅ローンは典型的な「夫婦の共同生活のための負債」であり、夫婦が共同で築いた財産から差し引いて計算するのが一般的です。
名義と実質的な負担の関係
住宅ローンや不動産の名義が夫婦のどちらか一方になっていても、実質的にはもう一方の配偶者も住宅ローンの返済に貢献していることが多くあります。
例えば、夫名義で住宅ローンを組み、夫が返済を行っていても、妻が家事や育児を担当することで夫が働けている場合、妻も間接的にローンの返済に貢献していると考えられます。また、妻の収入で生活費を賄い、夫の収入をローン返済に充てているような場合も、夫婦が協力してローンを返済していると評価されます。
このような理由から、住宅ローンの名義人が夫婦のどちらか一方であっても、財産分与では夫婦共同の負債として扱われることが一般的です。
住宅ローン付き不動産の取り扱い方法
住宅ローンが残っている不動産の財産分与には、主に3つの方法があります。それぞれにメリットとデメリットがあるため、夫婦の状況や希望に応じて最適な方法を選択する必要があります。
(1)売却して精算する方法
最も分かりやすく、トラブルが少ないのが売却精算の方法です。この方法では、不動産を売却し、売却代金からローンを返済して、残った金額(または不足額)を夫婦で分けます。
売却精算のメリット
明確な清算ができる 売却により現金化されるため、財産分与の金額が明確になります。不動産の評価額について争いが生じることもありません。
将来的なトラブルを回避できる 離婚後に不動産やローンに関して元配偶者と関わることがないため、将来的なトラブルを避けることができます。
新生活をスタートしやすい それぞれが新しい住まいで新生活をスタートできるため、精神的にも区切りをつけやすくなります。
売却精算のデメリット
住み慣れた家を失う 長年住み慣れた家を離れる必要があり、特に子どもがいる場合は転校などの影響もあります。
売却時期によっては不利になる可能性 不動産市場の状況によっては、希望する価格で売却できない場合があります。急いで売却する場合は、市場価格よりも安くなってしまう可能性もあります。
仲介手数料などの費用がかかる 不動産売却には仲介手数料、登記費用、税金などの諸費用がかかり、これらの費用を考慮する必要があります。
売却精算の具体的な流れ
- 不動産の査定:複数の不動産会社に査定を依頼し、適正な市場価格を把握します。
- ローン残高の確認:金融機関にローン残高を確認し、一括返済に必要な金額を把握します。
- 売却活動:不動産会社と媒介契約を結び、販売活動を開始します。
- 売買契約:購入者が決まったら売買契約を締結します。
- 決済・引渡し:代金決済と同時にローンを完済し、所有権を移転します。
- 残金の分与:売却代金からローン残高と諸費用を差し引いた残金を分与します。
オーバーローンの場合の売却
売却代金でローンを完済できないオーバーローンの場合は、不足分を現金で補填する必要があります。この不足分を夫婦でどのように負担するかを事前に決めておくことが重要です。
例えば、2,000万円で売却できたが、ローン残高が2,300万円の場合、300万円の不足が生じます。この300万円を夫婦で折半して、それぞれ150万円ずつ負担するという方法が考えられます。
(2)一方が住み続けるケース
子どもの学校の都合や住環境を変えたくないという理由で、夫婦のどちらか一方が住み続けるケースもあります。この場合、いくつかのパターンが考えられます。
パターンA:ローン名義人が住み続ける場合
夫名義でローンを組んでおり、離婚後も夫が住み続ける場合です。この場合、比較的手続きは簡単ですが、妻への代償金の支払いを考慮する必要があります。
代償金の計算例
- 不動産時価:2,500万円
- ローン残高:1,800万円
- 清算対象財産:700万円
- 妻への代償金:350万円(700万円÷2)
夫は住み続けることができますが、妻に対して350万円の代償金を支払う必要があります。ただし、他にプラス財産がある場合は、その分と相殺することも可能です。
パターンB:ローン名義人以外が住み続ける場合
夫名義でローンを組んでいるが、離婚後は妻と子どもが住み続けるケースです。この場合、いくつかの課題があります。
ローンの返済責任 ローンの契約者は夫であり、離婚後も返済義務は夫にあります。妻が住んでいても、ローンの滞納があれば夫の信用情報に影響します。
所有権の問題 不動産が夫単独名義の場合、法的には夫の所有物です。将来、夫が不動産を売却したいと考えた場合や、夫に相続が発生した場合などに問題が生じる可能性があります。
これらの問題への対処法
- 所有権の移転:離婚時に妻に所有権を移転し、同時にローンの名義も変更する(金融機関の承諾が必要)
- 公正証書の作成:夫がローンを返済し続けること、妻が住み続けられることを公正証書に明記する
- 連帯債務への変更:夫婦両方がローンの債務者となる(金融機関の承諾が必要)
代償金の考慮事項
一方が住み続ける場合、住み続けない配偶者に対する代償金の支払いが問題となります。代償金の額は、不動産の時価からローン残高を差し引いた清算対象財産の半分が基本となりますが、以下の要素も考慮されることがあります。
居住利益の考慮 住み続ける側は家賃を支払わずに住むことができるという「居住利益」を得ます。この利益分を代償金の計算に反映させる場合があります。
ローン返済の負担 住み続ける側がローンの返済を続ける場合、その負担を代償金の計算に考慮することもあります。
その他の事情 子どもの養育費、双方の収入状況、その他の財産の状況なども総合的に考慮されます。
(3)共有名義を解消せず継続する方法
離婚後も不動産の共有名義を維持し、ローンも連帯債務のまま続ける方法もありますが、この方法は多くのリスクを伴うため、一般的には推奨されません。
共有名義継続のリスク
返済トラブルのリスク 一方が返済を滞らせた場合、もう一方に督促が来ます。元配偶者の返済状況に常に不安を抱えることになります。
売却時の問題 将来不動産を売却したい場合、共有者全員の同意が必要になります。元配偶者と連絡が取れない、意見が合わないなどの理由で売却できない可能性があります。
相続時の複雑化 共有者のどちらかに相続が発生した場合、その相続人も共有者となり、関係者が増えてさらに複雑になります。
新たな借入への影響 連帯債務が残っていると、新たな住宅ローンを組む際に影響する可能性があります。
それでも共有名義を続ける場合の注意点
やむを得ず共有名義を続ける場合は、以下の点を明確にしておく必要があります。
- 返済分担の明確化:どちらがどの程度返済するかを明確にする
- 居住権の確定:どちらが住むか、家賃の支払いはどうするかを決める
- 売却時の取り決め:将来的な売却についての条件を決める
- 連絡方法の確保:重要な事項について連絡を取れる手段を確保する
各方法の比較と選択の指針
どの方法を選択するかは、夫婦の状況や希望によって異なりますが、以下のような指針があります。
売却精算が適している場合
- 双方が新しい環境でスタートを切りたい
- 子どもの転校に支障がない
- 不動産市場の状況が良い
- 将来的なトラブルを完全に避けたい
一方が住み続けるのが適している場合
- 子どもの学校や環境を変えたくない
- 住み続ける側に十分な収入がある
- 代償金の支払いに問題がない
- 金融機関の承諾が得られる
共有名義継続は基本的に避けるべき 特別な事情がない限り、将来的なトラブルのリスクが高いため推奨されません。
住宅ローンの種類による違い
住宅ローンの種類によって、離婚時の取り扱いが異なることがあります。主なローンの種類と、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
単独名義ローン
夫婦のどちらか一方のみがローンの契約者となっている場合です。最も一般的な形態で、契約者のみが返済義務を負います。
離婚時の対応
- 契約者が住み続ける場合:比較的問題が少ない
- 契約者以外が住み続ける場合:金融機関との相談が必要
- 売却する場合:契約者の判断で進められる
連帯債務
夫婦が共同でローンの債務者となる契約形態です。両者が返済義務を負い、どちらかが返済できなくなった場合、もう一方が全額を返済する必要があります。
離婚時の対応 連帯債務の場合、離婚後も両者に返済義務が残ります。一方を連帯債務から外すためには、金融機関の承諾が必要で、多くの場合、以下の条件が求められます。
- 残る債務者の収入審査:単独でローンを返済できる収入があるか
- 担保の見直し:必要に応じて追加担保の提供
- 保証人の追加:収入が不足する場合は保証人が必要
連帯保証
主債務者(通常は夫)がローンの返済義務を負い、配偶者(通常は妻)が連帯保証人となる契約形態です。
離婚時の対応 連帯保証人を外すためには、連帯債務と同様に金融機関の承諾が必要です。また、連帯保証人としての責任は、離婚によって自動的に消滅するものではないため、適切な手続きを行わないと、元配偶者の債務について責任を負い続けることになります。
ペアローン
夫婦がそれぞれ単独でローンを組み、お互いの連帯保証人となる契約形態です。実質的には2つのローンが存在することになります。
離婚時の対応 ペアローンの場合、それぞれが自分のローンの主債務者であると同時に、相手のローンの連帯保証人でもあります。離婚時には以下の対応が必要です。
- 各自のローンの整理:どちらがどのローンを引き継ぐか
- 連帯保証人の変更:お互いの連帯保証人から外れるための手続き
- 不動産の持分整理:それぞれの持分をどうするか
財産分与における不動産の評価方法
住宅ローン付き不動産の財産分与を適切に行うためには、不動産の正確な評価が不可欠です。不動産の評価方法にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる価格が算出される可能性があります。
不動産評価の重要性
不動産の評価額によって、財産分与の金額が大きく変わるため、適正な評価を行うことが重要です。評価額が100万円違えば、財産分与額も50万円変わることになります。
主な評価方法
時価(実勢価格)
実際の取引で成立すると考えられる価格で、最も実態に近い価格です。以下の方法で調べることができます。
不動産会社による査定 複数の不動産会社に査定を依頼することで、おおよその時価を把握できます。査定は無料で行ってもらえることが多く、最も手軽な方法です。
不動産鑑定士による鑑定 より正確な評価を得たい場合は、不動産鑑定士による鑑定評価を受けることができます。費用はかかりますが、法的な証明力があります。
周辺の取引事例調査 国土交通省の「土地総合情報システム」や不動産取引価格情報などを参考に、周辺の類似物件の取引価格を調査する方法です。
固定資産税評価額
市町村が課税のために決定する評価額で、一般的に時価の70%程度とされています。固定資産税納税通知書や固定資産評価証明書で確認できます。
路線価
国税庁が相続税や贈与税の課税のために定める土地の価格で、一般的に時価の80%程度とされています。建物については別途評価が必要です。
評価額の決定方法
夫婦間で不動産の評価額について争いがある場合は、以下の方法で決定します。
協議による決定 夫婦で話し合い、合意できる評価額を決定します。この場合、必ずしも最も高い評価額や最も低い評価額である必要はなく、双方が納得できる金額であれば問題ありません。
調停での決定 協議で合意できない場合は、家庭裁判所の調停で決定します。調停では、不動産鑑定士による鑑定が行われることが多くあります。
審判での決定 調停でも合意に至らない場合は、家庭裁判所の審判で決定されます。審判では、客観的な証拠に基づいて評価額が決定されます。
マンションの評価における注意点
マンションの場合、以下の点に特に注意が必要です。
管理費・修繕積立金の滞納 管理費や修繕積立金に滞納がある場合、その分を評価額から差し引いて計算することがあります。
大規模修繕の予定 近い将来に大規模修繕が予定されており、修繕積立金の不足が予想される場合、その影響を評価に反映させることがあります。
築年数と設備の状況 築年数が古い場合や、設備の更新が必要な場合、その分を考慮した評価を行います。
戸建て住宅の評価における注意点
戸建て住宅の場合、土地と建物を分けて評価することが一般的です。
土地の評価 立地、形状、面積、接道状況などを総合的に考慮して評価します。
建物の評価 築年数、構造、設備、維持管理状況などを考慮して評価します。木造住宅の場合、築年数による減価が大きいことに注意が必要です。
税務上の注意点
住宅ローン付き不動産の財産分与には、いくつかの税務上の注意点があります。適切な税務処理を行わないと、予期しない税負担が生じる可能性があります。
財産分与に関する税金の基本
財産を渡す側(分与者) 原則として所得税はかかりませんが、不動産の時価が購入価格を上回っている場合は、譲渡所得税がかかる可能性があります。
財産を受け取る側(受益者) 財産分与で受け取った財産に対しては、原則として贈与税はかかりません。ただし、分与された財産が多すぎる場合や、離婚が税金を逃れるためのものと認められる場合は、贈与税がかかることがあります。
住宅ローン控除への影響
住宅ローン控除を受けている場合、離婚による財産分与によって控除が受けられなくなる可能性があります。
所有権移転による影響 不動産の所有権を移転した場合、新しい所有者がローンの債務者でないと、住宅ローン控除を継続して受けることができません。
対処法 所有権の移転と同時にローンの名義も変更するか、連帯債務にすることで、住宅ローン控除を継続できる場合があります。ただし、金融機関の承諾が必要です。
登録免許税
不動産の名義変更には登録免許税がかかります。財産分与による所有権移転の場合、固定資産税評価額の2%(土地は1.5%)の登録免許税が必要です。
不動産取得税
財産分与で不動産を取得した場合、不動産取得税がかかることがあります。ただし、財産分与が適正な範囲内であれば、軽減措置や非課税措置が適用される場合があります。
実際の手続きの流れ
住宅ローン付き不動産の財産分与を実際に行う際の手続きの流れを説明します。
1. 情報収集・現状把握
不動産の現状確認
- 登記事項証明書の取得
- 固定資産税評価証明書の取得
- ローン残高証明書の取得
- 管理費・修繕積立金の確認(マンションの場合)
評価額の調査
- 複数の不動産会社による査定
- 周辺相場の調査
- 必要に応じて不動産鑑定士による鑑定
2. 処理方針の決定
夫婦で話し合い、以下のどの方法で処理するかを決定します。
- 売却して精算
- 一方が住み続ける
- 共有名義を継続(非推奨)
3. 金融機関との相談
ローンの取り扱いについて相談
- 名義変更の可否
- 連帯保証人・連帯債務者の変更
- 必要書類や条件の確認
金融機関が求める条件
- 収入証明書
- 財産証明書
- 離婚協議書または調停調書
4. 離婚協議書の作成
財産分与の内容を離婚協議書に明記します。以下の項目を含めることが重要です。
- 不動産の特定(所在、地番、家屋番号等)
- 処理方法(売却・継続居住等)
- 代償金の有無・金額・支払い方法
- ローンの返済責任
- 諸費用の負担方法
5. 公正証書の作成(推奨)
離婚協議書を公正証書にすることで、法的な効力を高めることができます。特に代償金の支払いがある場合は、公正証書にしておくことが重要です。
6. 実際の手続き実行
売却する場合
- 不動産会社との媒介契約
- 販売活動
- 買主との売買契約
- 決済・引渡し
- ローンの完済
- 残金の分与
一方が住み続ける場合
- 金融機関での手続き
- 所有権移転登記
- 代償金の支払い
トラブル事例と対処法
住宅ローン付き不動産の財産分与では、様々なトラブルが発生する可能性があります。実際のトラブル事例と対処法を紹介します。
トラブル事例1:ローンの名義変更ができない
事例 夫名義のローンで購入したマンションに、離婚後は妻と子どもが住み続けることになった。妻への名義変更を希望したが、妻の収入が不足しているため、金融機関が名義変更を承諾しない。
対処法
- 妻の親族に連帯保証人になってもらう
- 一定期間は夫名義のままで、妻の収入が増えた時点で再度相談する
- 売却を検討する
- 夫がローンを返済し続ける代わりに、他の財産で調整する
トラブル事例2:元配偶者がローンを滞納
事例 離婚後、夫が住み続けることになったが、夫がローンを滞納。妻は連帯保証人のため、金融機関から督促を受けている。
対処法
- 夫と連絡を取り、返済を促す
- 妻が代位弁済を検討する
- 不動産の売却を求める
- 法的手続き(調停・審判)を申し立てる
- 弁護士に相談して対応策を検討する
トラブル事例3:不動産の評価額で争いが生じる
事例 夫は「不動産の価値は2,000万円程度」と主張し、妻は「2,500万円はある」と主張。評価額の違いにより、財産分与額に大きな差が生じている。
対処法
- 複数の不動産会社に査定を依頼し、平均値を採用する
- 不動産鑑定士による正式な鑑定を実施する
- 調停で客観的な評価を求める
- 暫定的に中間値で合意し、売却時の実際の価格で精算する
トラブル事例4:オーバーローンが発覚
事例 離婚協議中に不動産を査定したところ、ローン残高よりも評価額が低いオーバーローンの状態が判明。当初予定していた財産分与ができなくなった。
対処法
- 他のプラス財産でオーバーローン分を相殺する
- オーバーローン分を夫婦で分担する
- 任意売却を検討する
- しばらく様子を見て、不動産価格の回復を待つ
トラブル事例5:住み続ける約束が守られない
事例 離婚時に「妻と子どもが住み続けられる」と約束したが、数年後に夫が不動産を売却すると言い出した。
対処法
- 離婚協議書や公正証書の内容を確認する
- 法的手続きによる履行請求を行う
- 所有権移転や賃借権設定を検討する
- 代償金や慰謝料の請求を検討する
専門家への相談の重要性
住宅ローン付き不動産の財産分与は、法律、税務、不動産、金融など様々な専門知識が必要な複雑な問題です。適切な解決を図るためには、専門家への相談が不可欠です。
相談すべき専門家
弁護士
- 財産分与の法的な考え方
- 離婚協議書・公正証書の作成
- 調停・審判の代理
- トラブル発生時の対応
税理士
- 財産分与に関する税務処理
- 譲渡所得税の計算
- 住宅ローン控除への影響
- 節税対策
不動産鑑定士
- 不動産の適正な評価
- 鑑定評価書の作成
- 評価額に関する争いの解決
ファイナンシャルプランナー
- 離婚後の生活設計
- 住宅ローンの返済計画
- 資産運用のアドバイス
相談のタイミング
離婚を考え始めた時点 早期の相談により、適切な準備と戦略を立てることができます。
協議がまとまらない場合 夫婦間の協議が難航している場合は、専門家の助言により解決の糸口が見つかることがあります。
複雑な事情がある場合 オーバーローン、共有名義、事業用不動産など、複雑な事情がある場合は専門家の判断が必要です。
相談時に準備すべき資料
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産税評価証明書
- ローン残高証明書
- 金銭消費貸借契約書
- 団体信用生命保険の内容
- 収入証明書
- その他の財産に関する資料
離婚後の生活設計
住宅ローン付き不動産の財産分与を適切に行うためには、離婚後の生活設計も考慮する必要があります。
住居の確保
新しい住居の準備 売却精算を選択した場合、新しい住居の確保が必要です。賃貸住宅を借りる場合の初期費用や、新たに住宅を購入する場合の資金計画を立てます。
子どもの生活環境 子どもがいる場合は、学校や習い事、友人関係など、子どもの生活環境への影響を最小限に抑える配慮が必要です。
収入と支出の見直し
収入の確保 離婚後の収入を確保するため、就職、転職、副業などを検討します。特に専業主婦だった場合は、早めの準備が重要です。
支出の管理 住居費、生活費、子どもの教育費など、離婚後の支出を詳細に計算し、収入とのバランスを取ります。
資産形成と老後準備
緊急時資金の確保 離婚後は一人で家計を支える必要があるため、病気や失業などの緊急時に備えた資金を確保します。
老後資金の準備 離婚により老後資金の準備が遅れる可能性があるため、早期からの資産形成を検討します。
まとめ
住宅ローンがある場合の財産分与は、単純に資産を分けるだけでなく、負債も含めて総合的に判断する必要があります。不動産の時価からローン残高を差し引いた金額が実質的な分与対象財産となり、この金額をベースに財産分与を行います。
処理方法としては、「売却して精算」「一方が住み続ける」「共有名義を継続」の3つがありますが、それぞれにメリットとデメリットがあります。最もトラブルが少ないのは売却精算ですが、子どもの環境や住み慣れた家への愛着などを考慮すると、一方が住み続ける選択肢も現実的です。ただし、共有名義の継続は将来的なトラブルのリスクが高いため、特別な事情がない限り避けるべきでしょう。
重要なのは、離婚前に十分な準備と検討を行うことです。不動産の正確な評価、ローン残高の確認、金融機関との相談、税務上の影響の検討など、多くの要素を総合的に判断する必要があります。
また、住宅ローン付き不動産の財産分与は、法律、税務、不動産、金融など様々な専門知識が必要な複雑な問題です。適切な解決を図るためには、弁護士、税理士、不動産鑑定士などの専門家に相談することが不可欠です。早期の相談により、より良い解決策を見つけることができるでしょう。
財産分与は離婚における重要な問題のひとつですが、適切な準備と専門家のサポートがあれば、公平で納得のいく解決が可能です。住宅ローンがあるからといって諦めることなく、最適な方法を見つけて新しいスタートを切ってください。
離婚は人生の大きな転機ですが、適切な財産分与により、双方が安心して新しい生活をスタートできるようになります。特に住宅ローン付き不動産の財産分与は複雑な問題ですが、正しい知識と適切な手続きにより、必ず解決できる問題です。
最後に、財産分与は離婚成立前に決めることが原則です。離婚後2年を経過すると財産分与請求権が消滅してしまうため、離婚を検討している段階から早めに準備を始めることをお勧めします。適切な財産分与により、新しい人生のスタートを切ってください。

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。