はじめに|「仕事が忙しいと親権は取れない?」
離婚を検討している多くの方が抱く不安の一つが、「仕事が忙しいと親権を取ることができないのでは?」という疑問です。特にフルタイムで働いている方や、残業が多い職場で働いている方は、この点について深刻に悩まれることが多いのが現状です。
しかし、実際のところ「仕事が忙しい=親権取得が不利」という単純な構図ではありません。裁判所が親権者を決定する際には、確かに仕事の状況も考慮要素の一つとなりますが、それは数多くある判断要素のうちの一つに過ぎません。最も重要視されるのは「子どもの利益」であり、子どもが安定した生活を送れる環境を提供できるかという総合的な判断が行われます。
現代社会において、共働き世帯は当たり前となっており、裁判所もこの社会情勢を理解しています。そのため、単に仕事が忙しいからといって親権取得が困難になるわけではなく、むしろ重要なのは「どのようにして仕事と子育てを両立させるか」という具体的な計画とその実行能力です。
本記事では、親権争いにおいて仕事がどのような影響を与えるのか、裁判所がどのような点を重視するのか、そして仕事が忙しい場合にはどのような対策を講じればよいのかについて、詳しく解説していきます。
裁判所が親権判断で見る「仕事関連の要素」
裁判所が親権者を決定する際に考慮する仕事関連の要素は、単純に「忙しいか忙しくないか」ではありません。より具体的で多面的な検討が行われます。以下に主要な判断要素をご紹介します。
労働時間と子どもの監護時間
最も重要な要素の一つが、実際に子どもと過ごす時間を確保できるかという点です。裁判所は、平日の帰宅時間、週末の勤務状況、年間の労働時間などを総合的に検討します。例えば、毎日深夜まで働いており、子どもが起きている時間にほとんど接触できない場合は、監護能力に疑問が生じる可能性があります。
ただし、労働時間が長いからといって即座に不利になるわけではありません。重要なのは、限られた時間の中でも子どもとの関わりを持ち、適切な監護を行えているかという実績です。早朝の時間を活用して子どもと過ごしたり、休日に集中的に子どもとの時間を作ったりしている場合は、時間の長短よりも質が評価されることもあります。
勤務形態の柔軟性
現代の働き方は多様化しており、裁判所もこの点を理解して判断を行います。在宅勤務が可能な職種であれば、子どもの急な発熱や学校行事への参加などに柔軟に対応できると評価される傾向にあります。一方で、交代制勤務や夜勤中心の仕事の場合は、子どもの生活リズムとの調整が困難になる可能性があるため、より詳細な検討が必要となります。
フレックスタイム制度を利用できる職場であれば、学校の行事や子どもの通院などに合わせて勤務時間を調整できることをアピールできます。また、有給休暇の取得状況や、子どもの病気の際の休暇取得実績なども、柔軟な働き方ができているかを示す重要な要素となります。
収入の安定性と生活維持能力
親権者として選ばれるためには、子どもの生活を安定して維持できる経済力が必要です。ただし、これは必ずしも高収入である必要はありません。裁判所が重視するのは、継続的に安定した収入を得られるかという点です。
正社員として安定した雇用関係にあることは有利な要素となりますが、契約社員や派遣社員であっても、継続的な雇用が見込まれ、子どもの養育費を賄えるだけの収入があれば問題ありません。また、養育費の受給や児童手当、各種支援制度の活用なども含めて、総合的な生活設計ができているかが評価されます。
就労場所と生活環境
勤務先の場所も重要な考慮要素となります。特に単身赴任が必要な職場で働いている場合や、転勤の可能性が高い職種の場合は、子どもの生活の安定性に影響を与える可能性があります。子どもにとって、学校や友人関係、地域コミュニティとのつながりは重要であり、頻繁な転居を強いられる環境は必ずしも望ましくありません。
ただし、転勤がある職種であっても、子どもの教育環境や生活の質を向上させる転勤である場合や、配偶者の同意が得られている場合は、必ずしも不利にはなりません。重要なのは、転勤に関する具体的な計画と、子どもへの影響を最小限に抑える配慮があるかという点です。
急な対応への柔軟性
子育てには予期せぬ事態がつきものです。子どもの急な病気、学校からの緊急連絡、自然災害による休校など、様々な状況に迅速かつ適切に対応できる体制があるかも重要な判断要素となります。
職場の理解や支援制度、家族や親族のサポート体制、地域の支援サービスの活用など、多角的なサポート体制が整っているかが評価されます。また、過去にこのような緊急事態にどのように対応したかの実績があれば、それを具体的に示すことで評価を高めることができます。
仕事が親権に影響する典型ケース
実際の親権争いにおいて、仕事の状況がどのように判断に影響するかを、具体的なケースを通して見ていきましょう。
不利になりやすい場合
長時間労働により監護時間が極端に不足するケース
例えば、毎日朝7時に家を出て、帰宅が毎晩午後11時を過ぎるような働き方をしている場合、平日は子どもとほとんど接触できない状況となります。さらに週末も仕事や接待で時間が取れない場合は、継続的な監護が困難と判断される可能性が高くなります。
このような場合でも、完全に不利になるわけではありませんが、どのようにして子どもとの時間を確保し、適切な監護を行うかの具体的な計画を示すことが必要となります。また、現在の働き方を改善する意思と具体的な計画があることを証明することが重要です。
夜勤中心の勤務で日中の監護が困難なケース
看護師、警備員、工場勤務など、夜勤が中心となる職種の場合、子どもが活動している日中の時間帯に睡眠を取る必要があります。このような勤務形態では、学校の送迎、宿題の指導、PTA活動への参加など、通常の子育て活動に支障をきたす可能性があります。
ただし、夜勤勤務だからといって即座に親権取得が不可能になるわけではありません。パートナーとの役割分担、家族や親族のサポート、学童保育や地域の支援サービスの活用など、総合的なサポート体制を構築できれば、十分に対応可能です。
頻繁な出張や単身赴任が必要なケース
営業職や管理職などで頻繁な出張が必要な場合や、転勤により単身赴任が必要な場合は、物理的に子どもとの距離が生じるため、日常的な監護が困難になります。特に単身赴任の場合は、配偶者に子どもの監護を任せることになるため、親権争いにおいては大きな不利要素となる可能性があります。
このような状況では、出張の頻度を減らす交渉を会社と行う、転勤を辞退する、あるいは転職を検討するなど、子どもとの生活を優先する姿勢を示すことが重要となります。
有利になりやすい場合
在宅勤務や時短勤務で子どもとの時間を確保しているケース
新型コロナウイルスの影響もあり、在宅勤務が普及したことで、子どもとの時間を確保しやすくなった方も多いでしょう。在宅勤務の場合、通勤時間が不要になることで、朝の準備や帰宅後の時間を子どもと過ごすことができます。また、子どもの体調不良時にも柔軟に対応できるため、親権争いにおいては有利な要素となります。
時短勤務制度を活用している場合も同様です。特に小学校低学年の子どもの場合、放課後の時間を一緒に過ごせることは大きなメリットとなります。宿題の指導、習い事の送迎、友人との遊びの見守りなど、子どもの成長にとって重要な時間を共有できることが評価されます。
フレックスタイムやシフト調整で学校行事に参加しているケース
フレックスタイム制度を活用して、学校の参観日や運動会、PTA活動などに積極的に参加している実績があることは、親権争いにおいて非常に有利な要素となります。これらの活動への参加は、子どもの教育への関心の高さと、実際に子育てに関わっている証拠となります。
また、子どもの定期健診や病院受診にも柔軟に対応できることを示せれば、緊急時の対応能力があることも証明できます。これらの実績は記録として残しておき、必要に応じて証拠として提出できるように準備しておくことが重要です。
安定した雇用と適度な労働時間を両立しているケース
正社員として安定した雇用関係にありながら、残業が少なく、ワークライフバランスが取れている職場で働いている場合は、理想的な状況と評価されます。経済的な安定性と子どもとの時間の確保を両立できているため、親権者として適格と判断される可能性が高くなります。
このような環境で働いている場合は、現在の働き方を維持し、さらに子どもとの時間を充実させる計画を示すことで、より有利な立場に立つことができます。
仕事より優先される要素
親権の判断において、仕事の状況は確かに重要な要素の一つですが、それよりもさらに重視される要素があります。これらの要素を理解し、適切にアピールすることが親権取得の鍵となります。
監護の継続性
裁判所が最も重視するのは「監護の継続性」です。これは、現在主に子どもの世話をしているのは誰か、これまで継続的に子どもの監護を行ってきたのは誰かという点です。仕事が忙しくても、実際に子どもの朝の準備を手伝い、夕食を作り、宿題を見て、寝かしつけを行っているなど、日常的な監護を継続して行っている実績があれば、それは仕事の忙しさを上回る重要な要素となります。
監護の継続性を証明するためには、日常の育児記録を付けることが有効です。子どもの起床時間、食事の内容、学校での出来事、体調の変化、習い事や友人関係など、細かく記録しておくことで、実際に子どもの監護を行っている証拠となります。
子どもとの愛着関係
子どもがどちらの親により強い愛着を示しているかも重要な判断要素となります。これは単純に「お父さんが好き」「お母さんが好き」という表面的な感情ではなく、より深い信頼関係や安心感を基準とした判断が行われます。
子どもが体調を崩したときに誰に甘えるか、悩み事があるときに誰に相談するか、日常的にどちらの親とより多くの時間を過ごし、より密接なコミュニケーションを取っているかなどが考慮されます。仕事で忙しい中でも、質の高い時間を子どもと過ごし、深い関係性を築いていることを示すことが重要です。
生活リズムの安定性
子どもにとって規則正しい生活リズムは健康的な成長のために欠かせません。朝起きる時間、食事の時間、学校への登校、帰宅後の過ごし方、就寝時間など、一日の流れが安定していることは重要な評価ポイントとなります。
仕事の都合で不規則な生活を強いられる場合でも、子どもの生活リズムは可能な限り一定に保つ努力をしていることを示すことが大切です。例えば、自分の帰宅が遅くても、子どもの食事や就寝時間は一定に保つ、週末は子どもと規則正しい生活を心がけるなどの配慮があることをアピールできます。
心身の健康状態
親権者として子どもを適切に監護するためには、親自身の心身の健康が重要です。過度のストレスや過労により体調を崩しがちな場合や、精神的に不安定な状態が続いている場合は、子どもの監護に支障をきたす可能性があるとみなされます。
仕事が忙しい中でも、適切な健康管理を行い、定期的な健康診断を受け、必要に応じて医師の診察を受けるなど、健康維持に努めていることを示すことが重要です。また、ストレス解消の方法を持ち、精神的な安定を保つ努力をしていることもアピールポイントとなります。
親族や第三者のサポート体制
現代の子育ては、両親だけで完結するものではありません。祖父母、親族、地域のサポート体制、保育サービスなど、様々な支援を活用することが一般的となっています。裁判所もこの点を理解しており、適切なサポート体制が整っているかを重要な判断要素としています。
仕事が忙しい場合でも、信頼できるサポート体制があることを証明できれば、それは大きな強みとなります。祖父母の協力が得られる場合はその旨を、ベビーシッターや学童保育を利用している場合はその詳細を、地域のママ友ネットワークがある場合はその関係性を、具体的に示すことが重要です。
仕事が忙しい場合の対策
仕事が忙しい状況であっても、適切な対策を講じることで親権取得の可能性を高めることができます。以下に具体的な対策をご紹介します。
サポート体制の構築と証明
最も重要なのは、信頼できるサポート体制を構築し、それを具体的に証明することです。まず、家族や親族からの支援を整理しましょう。祖父母が近くに住んでいる場合は、緊急時の対応や定期的な子どもの世話について協力を得られるかを確認し、具体的な支援内容を文書化しておくことが重要です。
プロのサポートサービスの活用も有効です。ベビーシッターサービス、学童保育、ファミリーサポートセンター、病児保育サービスなど、様々なサービスを事前に調査し、必要に応じて登録や契約を行っておきます。これらのサービスを利用する際は、利用記録を残し、子どもがサービスを利用する際の様子や満足度も記録しておくことが大切です。
地域のコミュニティとのつながりも重要なサポート体制の一部となります。近隣の家族との相互協力関係、学校のPTAネットワーク、地域の子育て支援グループなど、様々な人的ネットワークを構築し、それらを活用して子育てを行っていることを示すことができれば、単独での子育ての限界を補完できていることを証明できます。
スケジュール管理と勤務調整の計画
仕事と子育ての両立には、効率的なスケジュール管理が欠かせません。まず、現在の勤務スケジュールを詳細に分析し、子どもとの時間をどのように確保できるかを検討しましょう。早朝の時間を活用した朝食作りや登校の見送り、帰宅後の短時間でも質の高い時間を過ごすための工夫、週末の集中的な子どもとの時間など、限られた時間を最大限活用する計画を立てます。
勤務先との調整も重要な要素となります。上司や人事部門と相談し、子育てとの両立のためにどのような配慮を得られるかを確認しましょう。時短勤務制度の利用、フレックスタイム制度の活用、在宅勤務の導入、有給休暇の計画的取得など、会社の制度を最大限活用する計画を立てることが大切です。
また、将来的な勤務形態の改善計画も重要です。現在は忙しい状況であっても、子どもの成長に合わせて勤務時間を調整する意向があること、より子育てに適した部署への異動を希望していること、必要に応じて転職も検討していることなど、子どもの利益を最優先に考えて働き方を調整する意思があることを示すことが重要です。
育児関与の実績記録
仕事が忙しい中でも、実際に子育てに関わっている実績を具体的に記録し、証明することが重要です。日常的な育児活動を詳細に記録しておきましょう。朝の準備のサポート、食事の準備と後片付け、宿題の指導、習い事の送迎、病院への付き添い、学校行事への参加など、すべての活動を時間と内容を含めて記録します。
写真やビデオも有効な証拠となります。子どもと一緒に料理をしている様子、公園で遊んでいる様子、宿題を見ている様子、学校の行事に参加している様子など、実際に子育てに関わっている証拠を残しておくことが大切です。ただし、子どもの顔が写っている画像を法的な手続きで使用する際は、子どものプライバシーに配慮する必要があります。
学校や習い事の先生からの評価も重要な証拠となります。PTA活動への参加状況、学校行事でのボランティア活動、先生との面談の頻度と内容、子どもの様子について先生と相談した記録など、第三者からの客観的な評価を得られるような活動を積極的に行い、その記録を残しておくことが重要です。
休暇制度や時短制度の活用意向
現在の勤務状況が忙しくても、将来的に子育てとの両立を図るために、会社の制度を活用する意向があることを明確に示すことが重要です。育児休業制度、時短勤務制度、子の看護休暇、PTA活動等への参加のための特別休暇など、子育て支援に関する制度を調査し、それらを活用する具体的な計画を立てましょう。
勤務先の理解と協力を得ることも重要です。上司や同僚に対して、子育ての状況を適切に伝え、理解と協力を求めることで、働きやすい環境を整備します。また、業務の効率化を図り、同じ成果をより短時間で上げられるよう努力することで、子どもとの時間を確保する工夫も必要です。
制度の利用については、単に権利として主張するのではなく、子どもの利益を最優先に考えた結果として必要な措置であることを説明し、会社への影響を最小限に抑えるための配慮も示すことが大切です。代替要員の確保、業務の引き継ぎ体制の整備、緊急時の対応方法など、責任ある利用方法を提示することで、会社の理解を得やすくなります。
実務上のアドバイス
親権争いにおいて仕事の状況をどのように扱うかについて、実務上重要なポイントをご紹介します。
将来の勤務改善計画の重要性
裁判所は現在の状況だけでなく、将来的な改善計画も考慮に入れます。現在は仕事が忙しく、十分な時間を子どもとの関わりに割けない状況であっても、具体的で実現可能な改善計画があれば、それは重要な評価要素となります。
改善計画は具体的で実現可能なものでなければなりません。「将来的に時間を作る」という抽象的な表現ではなく、「来年度から時短勤務制度を利用し、午後4時に退社して子どもの迎えを行う」「現在の部署での業務が一段落する半年後には、より子育てに配慮できる部署への異動を申請する」など、時期と具体的な内容を含んだ計画を提示することが重要です。
また、改善計画を実現するために既に取っている具体的な行動があれば、それも併せて示すことが効果的です。上司との相談記録、人事部門への相談履歴、関連する研修の受講、転職活動の状況など、計画を実現するための努力を具体的に証明できる資料を準備しておきましょう。
改善計画には段階的なアプローチも有効です。immediate(即座に実行できること)、short-term(3-6ヶ月以内に実現すること)、long-term(1年以内に実現すること)というように、時期を分けて具体的な改善ステップを示すことで、現実的かつ計画性のある取り組みをアピールできます。
働き方の柔軟性を示すことの重要性
現代の働き方は多様化しており、裁判所もこの現実を理解しています。重要なのは、子どもの必要に応じて働き方を柔軟に調整できることを示すことです。完全に仕事を辞める必要はありませんが、子どもの利益を最優先に考えて働き方を調整する意思と能力があることを証明することが重要です。
具体的には、リモートワークの活用、フレックスタイム制度の利用、有給休暇の計画的な取得、業務時間の調整、出張や残業の制限など、様々な調整方法があります。これらの方法を実際に活用している実績があれば、それを具体的に示すことで柔軟性をアピールできます。
また、緊急時の対応能力も重要な評価ポイントとなります。子どもの急な発熱、学校からの緊急連絡、自然災害による休校など、予期せぬ事態に対してどのように対応できるかを具体的に説明できることが大切です。過去にこのような状況に実際に対応した経験があれば、その詳細を記録しておくことをお勧めします。
技術の活用も現代的なアプローチとして評価されます。ビデオ通話を使った子どもとのコミュニケーション、学習アプリを使った宿題のサポート、GPS機能を使った安全確認など、テクノロジーを活用して距離や時間の制約を克服する工夫があることも、柔軟性の証明となります。
養育計画書の重要性
親権争いにおいては、養育計画書の作成が非常に重要となります。これは、親権を取得した場合に、どのように子どもを養育していくかの具体的な計画を示した書面です。仕事と子育ての両立については、この養育計画書の中で詳細に説明する必要があります。
養育計画書には、平日と週末の具体的なスケジュール、勤務時間と子どもとの時間の配分、サポート体制の詳細、教育方針、健康管理の方法、経済計画など、子育てに関するあらゆる側面を含める必要があります。特に仕事との両立については、時間単位の詳細なスケジュールを示し、どの時間に誰が子どもの世話をするかを明確にすることが重要です。
養育計画書の作成においては、以下の要素を必ず含めるようにしましょう。
日常生活のスケジュール 平日と週末、学校がある日とない日それぞれについて、起床から就寝までの詳細なスケジュールを記載します。親の勤務時間、子どもの学校時間、習い事、食事、宿題、入浴、就寝など、すべての活動について時間と担当者を明確にします。
教育計画 子どもの現在の学習状況、将来の進学希望、習い事の継続、新たな学習機会の提供など、教育面での具体的な計画を示します。仕事が忙しい中でも、子どもの教育に積極的に関わる意思と具体的な方法を説明することが重要です。
健康管理計画 定期健診の受診、予防接種のスケジュール、病気やケガの際の対応方法、精神的なケアの方法など、子どもの健康管理に関する具体的な計画を記載します。仕事の都合で同席できない場合のサポート体制も含めて説明します。
経済計画 子どもの養育に必要な費用の詳細な試算と、それを賄うための収入計画を示します。教育費、生活費、医療費、習い事費用など、項目別に詳細な計算を行い、安定した経済基盤があることを証明します。
証拠資料の準備
親権争いにおいては、主張を裏付ける客観的な証拠資料の準備が不可欠です。仕事と子育ての両立に関しては、以下のような資料を準備しておくことをお勧めします。
勤務に関する資料 雇用契約書、給与明細、勤怠記録、有給休暇取得記録、在宅勤務の実績、時短勤務制度の利用記録などがあります。また、上司や人事部門との面談記録、子育て支援に関する会社の制度の詳細、職場の理解度を示すメールや文書なども有用です。
子育てに関する資料 日常の育児記録、写真やビデオ、学校や習い事での活動記録、PTA活動への参加記録、病院への付き添い記録、子どもとの外出記録などが重要です。また、子ども自身が作成した絵や作文、日記などで、親子の関係性を示すものがあれば、それも有効な証拠となります。
サポート体制に関する資料 祖父母や親族からの協力に関する書面、ベビーシッターサービスとの契約書、学童保育の利用記録、地域の子育て支援サービスの利用実績、近隣住民との相互協力に関する記録などを準備しておくことが重要です。
これらの資料は、日頃から継続的に収集・整理しておくことが大切です。親権争いが始まってから慌てて準備するのではなく、日常的な記録の習慣を身につけることで、より説得力のある証拠を準備できます。
専門家との連携
親権争いは法律的な手続きであるため、弁護士との連携は不可欠です。特に仕事と子育ての両立に関する複雑な状況については、専門的な法的アドバイスを受けることが重要です。弁護士は、あなたの具体的な状況を踏まえて、最も効果的な主張方法や証拠の準備方法についてアドバイスを提供できます。
また、家庭裁判所調査官との面談においても、仕事と子育ての両立について適切に説明できるよう準備が必要です。感情的にならず、冷静かつ具体的に現状と計画を説明できるよう、事前に練習しておくことをお勧めします。
必要に応じて、子育ての専門家(保育士、幼児教育専門家、児童心理士など)からの意見書を取得することも有効です。これらの専門家から、あなたの子育てに対する取り組みや子どもとの関係について客観的な評価を得られれば、それは強力な証拠となります。
まとめ|仕事は親権判断の一要素
親権の決定において、仕事の状況は確かに重要な考慮要素の一つですが、それが全てを決定するわけではありません。最も重要なのは「子どもの利益」であり、子どもが健康で安定した生活を送れる環境を提供できるかという総合的な判断が行われます。
仕事が忙しくても、適切なサポート体制があり、実際に子どもの監護を継続して行っている実績があれば、十分に親権を取得することは可能です。重要なのは、現在の状況を正確に把握し、不足している部分を補うための具体的な対策を講じることです。
現実的な視点での取り組み
親権争いにおいて重要なのは、理想論ではなく現実的で実行可能な計画を示すことです。完璧な親である必要はありませんが、子どもの最善の利益を考え、そのために自分ができる最大限の努力をしていることを証明することが大切です。
仕事を完全に犠牲にする必要はありません。むしろ、経済的な安定性を保ちながら、いかに効率的に子育てとの両立を図るかという現実的なアプローチが評価されます。多くの働く親が直面している課題に対して、具体的で実現可能な解決策を示すことで、裁判所の理解を得ることができます。
継続的な改善努力の意義
親権の判断は一時点での状況だけでなく、継続的な改善努力も考慮されます。現在は理想的でない状況であっても、子どもの成長に合わせて働き方を調整し、より良い環境を提供しようとする意思と実際の行動があれば、それは高く評価されます。
例えば、子どもが小さい頃は保育園に預けて働いていたが、小学校入学を機に時短勤務に切り替えた、子どもの中学受験を機に転職してより時間を確保できる職場に移ったなど、子どもの成長段階に応じた働き方の調整は、親としての責任感と判断力を示すものとして評価されます。
長期的な視点の重要性
子育ては長期的な取り組みであり、親権の判断においても長期的な視点が重要となります。現在の忙しい状況が一時的なものであり、将来的にはより子育てに適した環境を提供できる見通しがあることを示すことが大切です。
キャリアプランと子育て計画を統合的に考え、両方を両立させる長期的なビジョンを示すことで、責任感のある親であることをアピールできます。また、子どもの将来を見据えた教育計画や生活設計があることも、親権者としての適格性を示す重要な要素となります。
社会情勢への理解
現代社会では働く親が増加しており、完全に子育てだけに専念できる親は少数派となっています。裁判所もこの社会情勢を理解しており、働きながら子育てをすることの困難さと、それを乗り越えるための創意工夫を評価します。
重要なのは、社会の変化に適応しながらも、子どもの利益を最優先に考える姿勢を示すことです。新しい働き方や子育て支援サービスを積極的に活用し、時代に即した効果的な子育て方法を実践していることを証明できれば、それは大きな強みとなります。
最後に
親権争いは家族にとって困難な時期ですが、子どもの幸せを第一に考えることで、必ず解決の道は見つかります。仕事が忙しいという現実を受け入れながらも、その中で最大限の愛情と責任感を持って子育てに取り組む姿勢こそが、最も重要な要素なのです。
具体的な準備と計画、そして何よりも子どもへの深い愛情があれば、仕事との両立という課題を乗り越えて、親権を取得することは十分に可能です。一人で抱え込まず、専門家のサポートを受けながら、着実に準備を進めていくことをお勧めします。

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。