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法的要件を満たした離婚協議書とは?先取特権で養育費不払い時に給与等を差し押さえる条件【2026年民法改正】

2026 6/07
婚姻費用 養育費
2025年8月28日2026年6月7日
佐々木裕介 写真
この記事の監修者

佐々木 裕介(弁護士・第二東京弁護士会)

「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚、調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。また、離婚ADRや養育費保証サービスを提供する株式会社チャイルドサポートの創業者・代表取締役。

「養育費の取り決めは、公正証書にしないと意味がない」——少し前まで、これは離婚実務の常識でした。

しかし、2026年4月1日に施行された改正民法により、養育費に「先取特権」が認められ、要件を満たした離婚協議書(夫婦間の合意文書)があれば、公正証書を作らなくても、子ども1人あたり月額8万円以下の養育費について給与や財産の差押えが可能になりました。

一方で、どんな書面でもよいわけではありません。差押えができるのは「要件を満たした文書」に限られます。この記事では、法務大臣認証のADR機関である株式会社チャイルドサポートが、先取特権の仕組みと「要件を満たした離婚協議書」の条件、差押えの流れ、そして先取特権では対応できないケースまでを解説します。
離婚協議書そのものの書き方・文例・無料テンプレートは、離婚協議書の書き方と無料テンプレート【2026年民法改正対応】にまとめています。

目次
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養育費の先取特権とは?【2026年4月施行】

先取特権の意味 — 「裁判所のお墨付き」なしで差押えできる権利

先取特権とは、法律で定められた特定の債権について、他の債権者に優先して弁済を受けられる権利(法定担保物権)です。2026年4月1日に施行された改正民法により、養育費などの子の監護費用に「一般先取特権」が付与されました。

これが画期的なのは、強制執行のハードルを大きく下げた点です。先取特権に基づく差押えでは、判決や調停調書、公正証書といった「債務名義」がなくても、養育費の取り決めを証明する文書を裁判所に提出すれば、差押えを申し立てられます。

改正前との違い — 公正証書が事実上必須だった時代

改正前改正後(2026年4月1日〜)
離婚協議書(私文書)だけの場合強制執行は不可。改めて調停・裁判が必要要件を満たせば、子1人あたり月額8万円以下の養育費は差押え可能
強制執行に必要な書面公正証書(強制執行認諾文言付き)・調停調書・審判書・判決など左記に加え、要件を満たした合意文書(私文書)でも可

改正前は、夫婦で離婚協議書を作っていても、不払いが起きたら調停を申し立てるか、事前に公正証書を作成しておくしかありませんでした。公正証書の作成には費用と数週間の時間がかかるため、「書面はあるのに執行できない」家庭が多数生まれていたのです。

施行前に離婚した人も使える?

使えます。先取特権は、施行前(2026年3月31日以前)に離婚・取り決めをしたケースでも、2026年4月1日以降に支払期限が到来する養育費分については行使できます。「もう離婚してしまったから関係ない」ということはありません。過去に作成した離婚協議書をお持ちの方は、次章の要件を満たしているか確認してみてください。

※なお、取り決めをせずに離婚した場合に子1人あたり月額2万円を請求できる「法定養育費」は、2026年4月1日以降に離婚した場合のみ適用されます(後述)。


先取特権を行使できる「要件を満たした文書」とは

ここが本記事の核心です。先取特権による差押えには、養育費の取り決めを証明する文書が必要であり、その内容には条件があります。

文書の3つの条件

  1. 父母双方の署名があること — 一方だけが作成したメモや、相手の同意が確認できない文書は対象外です。電子署名による締結も認められます
  2. 養育費の金額が特定されていること — 「月額3万円」のように金額が明確であること。「学費は応分に負担する」のような曖昧な定めは執行の対象になりません
  3. 支払期間・支払先が特定されていること — 「令和◯年◯月から満20歳に達する月まで」「◯◯銀行◯◯支店の口座へ」のように、いつからいつまで・どこに支払うかが読み取れること

要件を満たさないNG例

  • 口約束だけ — 文書がなければ先取特権は行使できません(この場合は法定養育費の請求を検討)
  • LINEやメールのやり取りだけ — 合意の証拠にはなり得ますが、執行のための文書としては署名・特定性の面で不十分なケースが多く、確実とはいえません
  • 金額が曖昧 — 「生活に必要な額を支払う」「大学の費用は話し合って決める」など
  • 一方のみの署名・日付なし — 双方の合意文書であることが確認できない

すでに離婚協議書をお持ちの方は、この基準でセルフチェックしてみてください。要件に不安がある場合、夫婦間で合意が取れるなら作り直し(再締結)も選択肢です。

対象となる金額の上限 — 子1人あたり月額8万円

先取特権の対象は、法務省令で定める「子の監護に要する費用として相当な額」に限られ、子ども1人あたり月額8万円以下とされています。

たとえば取り決めた養育費が月10万円(子1人)の場合、先取特権で差し押さえられるのは8万円までで、超過分の2万円には従来どおり公正証書等の債務名義が必要です。取り決め額が月8万円以下なら、全額が先取特権の対象になります。


先取特権による差押えの流れ

手続きの概要

不払いが発生した場合、相手の財産(給与・預貯金など)の所在地を管轄する執行裁判所(地方裁判所)に、先取特権に基づく差押えを申し立てます。一般的な必要書類は次のとおりです。

  • 要件を満たした合意文書(離婚協議書等)
  • 差し押さえの申立書と添付書類(裁判所の様式)
  • 離婚および子との関係を証明する書類(戸籍謄本や住民票など)
  • 差押え対象の財産を特定する情報(相手方の勤務先・銀行口座など)

相手の財産や勤務先が分からない場合

改正にあわせて、財産開示手続や第三者からの情報取得手続も拡充されました。市区町村や年金機構等への照会により相手の勤務先を、金融機関への照会により預貯金口座を調べられる可能性があります。また、執行手続のワンストップ化により、これらの手続きと差押えをまとめて進めやすくなりました。

差押えの具体的な手順や費用、給与差押えの上限額(手取りの2分の1まで)などの詳細は、養育費の強制執行|手続きの流れ・必要書類・回収までの期間で解説しています。

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先取特権の限界 — 公正証書が必要なケース

先取特権は強力ですが、万能ではありません。書面の種類ごとの執行範囲を整理します。

執行したい内容要件を満たした離婚協議書公正証書(執行認諾文言付き)調停調書・審判書
養育費(子1人月8万円以下)○○○
養育費(月8万円超の部分)✕○○
財産分与・慰謝料✕○○
親子交流などの非金銭条項✕✕(執行不可)△(間接強制等)

つまり、高額の養育費を取り決めた場合や、財産分与・慰謝料の分割払いがある場合は、引き続き公正証書の作成が安全です。公正証書の作成手順や費用は公正証書の作り方|手順・必要書類・費用の完全ガイドをご覧ください。

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法定養育費(月2万円)との違い

先取特権と同じ改正で導入された「法定養育費」と混同されがちですが、両者は別の制度です。

先取特権法定養育費
前提夫婦間の合意がある(要件を満たした文書)取り決めをせずに離婚した
金額合意した額(差押えは子1人月8万円まで)子1人あたり月額2万円
対象者施行前の離婚でも利用可(施行後到来分)2026年4月1日以降に離婚した場合のみ
性質合意内容を実現する執行手段最低限の暫定的な請求権(相手に支払能力がない場合等の例外あり)

法定養育費の月2万円は、裁判所基準の養育費(例: 年収500万円の会社員・子1人なら月4〜6万円程度)より大幅に低い最低保障です。きちんと合意して「要件を満たした文書」を作るほうが、子どもが受け取れる金額も執行の確実性も上回ります。


要件を満たした離婚協議書を作る方法

ここまで見たとおり、2026年4月以降の離婚では「要件を満たした離婚協議書を作れるかどうか」が、養育費を確実に受け取れるかの分かれ目になります。

作り方の全体像(書くべき10項目・条項別の文例・無料テンプレート)は、こちらのガイドにまとめています。

離婚の条件が固まったら、次は書面に残しましょう。書き方と無料テンプレートはこちらで解説しています。

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また、「自分で作って要件を満たせているか不安」という方には、当社のチャイルドサポートサインをご用意しています。スマホで養育費の合意内容を入力すると、先取特権の要件を踏まえた書式の離婚協議書が自動生成され、電子署名(GMOサイン)で正式締結まで完了します(作成無料・電子署名の手配2,900円)。

株式会社チャイルドサポート
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よくある質問

Q1. 本当に公正証書なしで給与を差し押さえられるのですか?

はい。2026年4月1日以降は、要件を満たした合意文書があれば、子1人あたり月額8万円以下の養育費について先取特権に基づく差押えを申し立てられます。ただし文書が要件を満たしていることが前提です。不安な場合は専門家にご相談ください。

Q2. 2026年3月以前に離婚しましたが、対象になりますか?

先取特権は対象になります。施行前に作成した離婚協議書でも、要件を満たしていれば、2026年4月1日以降に支払期限が到来する養育費分について行使できます。一方、法定養育費(月2万円)は2026年4月1日以降に離婚した場合のみです。

Q3. 取り決めた養育費が月8万円を超えています。どうすれば?

8万円以下の部分は先取特権で対応できますが、超過分の執行には公正証書(強制執行認諾文言付き)等の債務名義が必要です。高額の取り決めがある方は公正証書の作成をおすすめします。

Q4. 別居中の生活費(婚姻費用)も先取特権の対象になりますか?

はい、対象になります。

2026年4月施行の改正民法により、婚姻費用も先取特権の対象となりました。公正証書などの債務名義がなくても、合意を証する書面があれば優先的に差押えが可能です。

ただし、先取特権が認められる金額には上限があり、子ども1人につき月額8万円(法務省令による)までとなります。この上限枠を超える部分の差押えには、従来通り調停調書や公正証書などの債務名義が必要です。


まとめ

  • 2026年4月施行の改正民法で、養育費に先取特権が付与され、要件を満たした離婚協議書があれば公正証書なしで差押えが可能になった
  • 要件は「父母双方の署名(電子署名可)」「金額・支払期間・支払先の特定」。曖昧な書面や口約束は対象外
  • 対象は子1人あたり月額8万円以下。超過分や財産分与・慰謝料には引き続き公正証書等が必要
  • 施行前に離婚した人も、施行後に支払期限が来る分から利用できる

株式会社チャイルドサポートは、法務大臣認証のADR機関として、要件を満たした離婚協議書の作成(チャイルドサポートサイン)から公正証書支援、ADRによる合意形成まで、状況に合わせた選択肢を提供しています。まずは離婚協議書の書き方ガイドからはじめてください。

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佐々木裕介 写真
この記事の監修者

佐々木 裕介(弁護士・第二東京弁護士会)

「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚、調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。また、離婚ADRや養育費保証サービスを提供する株式会社チャイルドサポートの創業者・代表取締役。

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