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【30年の研究が示す本当の答え】離婚そのものより、何が子どもを傷つけるのか

2026 6/12
離婚と子どもの心理学
2026年6月11日2026年6月12日
穏やかな朝の光が差し込む和の住空間で、本と一杯の茶 — 静かに研究を読み解く時間を象徴するイメージ

「離婚すると、子どもは絶対に傷つく」――そう思い込んでいる方は、まだ多くいらっしゃいます。

しかし、この前提自体が、海外の30年に及ぶ研究で繰り返し否定されてきました。本当に子どもを傷つけるのは「離婚という事実」ではなく、もっと別のものだったのです。

この記事では、法務省認証ADR機関である株式会社チャイルドサポートが、弁護士・佐々木裕介監修のもと、Wallerstein の25年追跡研究、Booth & Amato の12年研究、Cummings & Davies の認知モデルなど、現在の家族心理学を支える主要研究を参照しながら、「離婚そのものより、何が子どもを傷つけるのか」を明らかにしていきます。

目次
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なぜ「離婚 vs 対立」を分けて考える必要があるのか

多くの親御さんが、離婚を考えるとき、最も心配されるのは「子どもがどれだけ傷つくか」です。そしてその不安から、対立が激しいまま結婚を継続したり、逆に、対立を残したまま急いで離婚を決めたりするケースが少なくありません。

しかし、研究が示す事実は、私たちの直感とは少し異なります。子どもの心にとって本当に重要なのは「親が結婚しているかどうか」ではなく、「家庭の中で対立がどう扱われているか」です。

このシリーズ「Families In Transition」では、海外で30年以上蓄積されてきた離婚と子どもの心理学を、日本の家族の文脈に合わせて解説していきます。今回は、シリーズ全体の科学的基盤となる「30年の研究が示した真実」を3つの研究から明らかにします。

ポイント1:Wallerstein 25年追跡研究が示したこと

世界的に有名な縦断研究

アメリカの心理学者 Judith Wallerstein は、1980年代から離婚を経験した家族を25年間追跡する、世界的にも有名な縦断研究を行いました。彼女が研究を始めた当時、離婚と子どもへの影響に関する長期データはほとんど存在せず、この研究は家族心理学の礎を築きました。

研究で見えてきたのは、子どもに本当にダメージを与えるのは「離婚という事実そのもの」ではなく、「離婚に至るまでの過程、そしてその後の、親同士の対立の継続」だということでした。

具体的に何が分かったか

Wallerstein の追跡データから、いくつかの重要な発見が報告されています。

まず、離婚から数年経過した後の子どもの精神的健康は、親同士の対立の度合いと強く相関していました。離婚から時間が経っても親同士の関係が険悪なままの家庭では、子どもの不安症状や行動問題が長期にわたって持続しやすかったのです。

一方で、離婚を経験しても、親同士が一定の協力関係を保てた家庭の子どもは、成人期に至るまで比較的良好に適応していました。子どもにとって決定的に重要だったのは「両親が同じ屋根の下にいるかどうか」ではなく「両親が協力的に関わり続けてくれるかどうか」だったのです。

詳しくは、シリーズ次回の記事「子どもが見せる10のサイン — 本当はSOSかもしれない」もご覧ください。

事例:「離婚しないほうが、子どものため」と耐えていたBさん

ここで、ある親子の話を紹介します(複数のご相談を組み合わせたフィクションですが、似た状況のご家庭は本当に多いのです)。

Bさん(41歳)は、中学1年生のお子さんを持つお母さんでした。夫との関係はもう何年も冷え切っていましたが、「離婚すると子どもが傷つく」と信じ、表面的に穏やかな結婚を維持していました。

夫婦間の会話はほぼなく、互いを無視するような状態。それでも、Bさんは「子どもにケンカを見せないために我慢している」と自分に言い聞かせていました。

ところが、中学に入った頃から、お子さんが急に不眠と頭痛を訴えるようになりました。心療内科を受診すると、医師に言われたそうです。「お子さんは、ずっと家庭の張り詰めた空気を感じ取ってきたようです」と。

Bさんに足りなかったのは「我慢」ではなく「家庭の対立を子から見えないようにする工夫」、もしくは「対立から子を解放する選択肢」でした。仲が悪い両親が一緒にいることが、必ずしも子どもの幸せにつながるとは限らないのです。

Booth & Amato の研究が示すように、激しい対立を抱えた結婚の維持は、子どもの精神的健康にむしろマイナスに作用することがあるのです。

ポイント2:Booth & Amato 12年追跡が見つけた驚きの発見

「離婚は悪、結婚継続は善」という前提を覆した研究

社会学者 Alan Booth と Paul Amato が2001年に Journal of Marriage and Family 誌に発表した論文は、家族心理学に大きな影響を与えました。彼らは約2,000家族を12年間にわたって追跡し、離婚を経験した子どもとそうでない子どもの長期的な適応を比較しました。

その結果、驚くべきことが分かりました。

激しい対立のある夫婦の子どもは、離婚したほうが、むしろ精神的に健康になる傾向があったのです。一方、表面的には穏やかな夫婦の子どもは、離婚で大きく傷つく傾向がありました。

なぜそうなるのか

研究者たちは、この結果を以下のように解釈しています。

高対立家庭の子どもにとって、離婚は「日常的な緊張と不安からの解放」を意味します。離婚により親同士が物理的に離れることで、家庭の中の対立が減少し、子どもは安心できる環境を取り戻せます。

一方、低対立家庭の子どもにとって、離婚は「予期せぬ悲劇」として体験されます。表面上は穏やかだった家庭が突然崩壊するため、子どもは「自分のせいではないか」「世界は信じられない」といった深い混乱を経験しがちです。

つまり、「離婚=悪」「結婚継続=善」という単純な構図は、研究の現実とは噛み合っていません。本当に大事なのは、家庭の中で対立がどう扱われているか、そしてその家庭環境が子どもにとって安全かどうかです。

ポイント3:Cummings & Davies の認知モデル — 子どもの心で何が起きているのか

親のケンカを見た時、子どもの頭の中では

心理学者の Mark Cummings と Patrick Davies は、親同士の対立が子どもに与える影響を「子どもの認知プロセス」から解明しました。Grych & Fincham(1990)が提唱した「認知的コンテクスト・フレームワーク」を発展させ、子どもの感情的安全性という観点から多くの研究を蓄積しています。

このモデルによれば、親のケンカを見た子どもは、頭の中で瞬時に2つの判断をします。

1つ目は「脅威認知(Threat Appraisal)」です。「この対立は、家族にとって、自分にとって危険か?」と問います。

2つ目は「自責(Self-blame)」です。「自分が悪いのではないか?」「自分のせいでケンカが起きているのではないか?」と問います。

2つの判断が重なると

この2つの判断が強く働いた子どもは、不安症状、抑うつ症状、行動問題を抱えやすくなることが、多くの研究で示されています。

特に注意したいのは、この心のメカニズムが「言葉のない対立」でも作動することです。無視、冷淡な視線、ため息、急に黙り込むこと――これらも子どもには「脅威」として届きます。「子どもの前ではケンカしていない」と思っていても、子どもは家庭の空気をすべて感じ取っています。

親が無意識にやってしまうこと

シリーズ次回以降で詳しく扱いますが、「忠誠葛藤」(子が両親への愛で板挟みになる現象)、「三角関係化」(親同士の対立に子を引き込む構図)、「親化」(子が親役を担わされる現象)など、親が無意識にやってしまう行動が、子どもの認知システムを直撃します。

詳しくは別記事「忠誠葛藤とは何か — 子どもの心の中で起きていること」もご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. 離婚した家庭の子どもは、必ず精神的に傷つくのでしょうか?

必ずしもそうではありません。海外の30年に及ぶ研究は、子どもの精神的健康に最も強く影響するのは「離婚という事実」ではなく「親同士の対立の継続」であることを示しています。対立が低い家庭では、離婚を経験しても子どもは適応していくケースが多くあります。離婚した後の親同士の関わり方こそが、長期的な子どもの幸せを左右します。

Q2. 離婚しないほうが、子どもにとってよいのでしょうか?

Booth & Amato(2001)の12年追跡研究では、激しい対立がある夫婦の場合、離婚したほうが子どもの精神的健康が向上するケースが多いと示されています。一方、表面的に穏やかな夫婦の離婚は、子どもにとって予期せぬ衝撃になりがちです。判断は「離婚するかどうか」ではなく「対立をどう減らすか」を軸にすることが重要です。

Q3. 離婚を決めた後、子どものために最も大切なことは何ですか?

親同士の対立を子どもに見せない「仕組み」を作ることです。具体的には、伝言役にしない、面会交流を取引材料にしない、相手の悪口を子の前で言わない、などです。完璧な仲直りは必要ありません。対立を見せないことだけで、子どもの心は大きく守られます。

まとめ:「どう離婚するか」が、子どもの未来を決める

ここまでをまとめます。

  • Wallerstein の25年追跡研究が示したのは、子どもを傷つけるのは「離婚という事実」ではなく「親同士の対立の継続」だということです。
  • Booth & Amato の12年追跡研究は、激しい対立のある夫婦の子どもは、離婚したほうがむしろ精神的に健康になる傾向を明らかにしました。
  • Cummings & Davies の認知モデルは、親の対立を見た子どもが「脅威認知」と「自責」という2つの判断によって、不安や抑うつを抱えやすくなる仕組みを示しました。

このシリーズが繰り返しお伝えしたいのは、「離婚するかどうか」ではなく「どう離婚するか」「対立をどう減らすか」こそが、子どもの未来を決めるという事実です。

参考文献・出典

  • Wallerstein, J. S., & Lewis, J. (2004). The unexpected legacy of divorce: Report of a 25-year study. Psychoanalytic Psychology, 21(3), 353-370.
  • Booth, A., & Amato, P. R. (2001). Parental predivorce relations and offspring postdivorce well-being. Journal of Marriage and Family, 63(1), 197-212.
  • Grych, J. H., & Fincham, F. D. (1990). Marital conflict and children’s adjustment: A cognitive-contextual framework. Psychological Bulletin, 108(2), 267-290.
  • Cummings, E. M., & Davies, P. T. (2002). Effects of marital conflict on children: Recent advances and emerging themes in process-oriented research. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 43(1), 31-63.
  • Saini, M., et al. (2024). Educating for change: A meta-analysis of education programs for separating and divorcing parents. Family Court Review, 62(1).

次回の記事

次回は、「子どもが見せる10のサイン — 本当はSOSかもしれない」。

研究で明らかになった「対立が子を傷つけるメカニズム」が、実際にお子さんのどんなサインとして現れるのか。年齢別の典型反応と、見落とされやすい3つのサイン(いい子化・身体症状・親化)を、保存版チェックリストでお伝えします。

YouTubeでも解説しています

この記事の内容は、YouTubeチャンネル「Families In Transition」でも、弁護士・佐々木裕介と聞き手・ふたばによる対話形式で解説しています。記事と動画を併せてご覧いただくと、より理解が深まります。


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