「悪いのは、いつも相手」――そう思っていませんか?
高葛藤離婚に陥った親の多くは、自分のことを「冷静なほう」だと思っています。これは責めるべきことではありません。でも、気づくことには、大きな意味があります。
この記事では、法務省認証ADR機関である株式会社チャイルドサポートが、弁護士・佐々木裕介監修のもと、Janet Johnston らによる「高葛藤離婚(High Conflict Divorce, HCD)」研究の知見をベースに、HCDの正体、3つの形、そして責めるためではなく気づくための5つの自己診断をお届けします。
シリーズ第二部のスタートです。視点を「子の理解」から「親自身の自己認識」へ転換します。
なぜ「自己認識」が必要なのか
シリーズ第一部(Ep 1〜4)では、子どもの心の中で何が起きているかを学んできました。
しかし、子どもを守るには、それだけでは不十分です。子どもに影響を与えているのは、ほかでもない「親自身の言動」です。そして、その言動の多くは、親が無意識にやってしまっているものです。
特に「高葛藤離婚」と呼ばれる状態に陥った家庭では、当事者の親たちは「自分は冷静だ」「悪いのは相手だ」と信じています。だからこそ、自分の対立行動に気づきにくく、改善が難しい。
しかし、ここで重要なのは、高葛藤は「特別な悪い人」だけの話ではないということです。研究は、誰でもなりうる現象として、HCDを定義しています。
ポイント1:高葛藤離婚(HCD)の正体
定義と発生率
高葛藤離婚(HCD)は、別居や離婚の後も続く、持続的で激しい対立のことを指します。一度のケンカではなく、「終わらない敵意」と言ってもよいでしょう。
数字で見ると、興味深いことが分かります。
- かつての推計では離婚の約10%とされていた
- より広い定義では、20〜40%が高葛藤化するとされている(Johnston et al.)
- 家庭裁判所のリソースの最大90%を高葛藤事案が占めている
つまり、HCDは決して「特別な人」だけの現象ではなく、誰にでも起こりうるものなのです。
対立の3つの次元
カナダ司法省の報告書でも引用されている Janet Johnston の整理によれば、対立には3つの次元があります。
①ドメイン次元(何で争うか):養育費・財産・親権・面会など、争いの対象。 ②タクティクス次元(どう争うか):回避・言葉の攻撃・威圧など、争いの方法。 ③態度的次元(どれだけ敵意があるか):表面化している敵意、隠れている敵意の強さ。
この3つが重なると、誰でも高葛藤に陥りうるのです。詳しくは別記事「当事者間・ADR・調停 — 協議離婚の3つの進め方」でも触れています。
事例:「自分は冷静な被害者」だと思っていたFさん
ここで、ある親子の話を紹介します(複数のご相談を組み合わせたフィクションですが、似た状況のご家庭は本当に多いのです)。
Fさん(42歳)は、小学生のお子さんを持つお父さんでした。離婚協議が進む中で、相手とのやり取りはどんどん険悪になっていました。
「もめているのは、全部あちらのせい。自分はいつも冷静に対応している」――Fさんはそう信じていました。
しかし、よく振り返ってみると、こんなことに気づいたそうです。
相手からのメッセージには、いつも長文で「正論」を返していた。子どもにも、つい「お母さんは約束を守らない人だ」と話していた。SNSでも、間接的に元配偶者を批判する投稿をしていた。
ある日、Fさんはお子さんに、こう言われたそうです。
「パパも、ママのこと、悪く言うよね」
この一言で、Fさんは初めて、自分も対立の一方の当事者だったのだと気づきました。Fさんは「冷静」だったのではなく、「冷静な攻撃型」だったのです。
「正論で追い詰める」も、立派な高葛藤行動の一つです。
ポイント2:高葛藤が出る3つの形
Johnston の「タクティクス次元」を、家庭での観察に役立つ形で整理すると、3つのパターンに分けられます。多くの人は、状況により複数を併せ持ちます。
①攻撃型 — 直接ぶつける
罵倒、批判、責める。そして、Fさんのように「正論」で相手を追い詰めるのも、ここに入ります。
一見「冷静」に見えるけれど、相手に逃げ場を与えない論理的攻撃も、子の前では非常に強い対立として映ります。
②回避型 — 遮断する
無視、冷戦、連絡拒否。一見おだやかですが、子は家庭の張り詰めた空気を敏感に感じ取っています。
シリーズ第2回でも触れた通り、Cummings らの認知モデルは「言葉のないケンカ」も子に「脅威」として届くことを示しています。
③巻き込み型 — 周囲を引き込む
子、親族、SNS、職場など、対立を周囲に拡散して味方を増やそうとするパターンです。
子は、両親の対立だけでなく、その周囲のすべての関係者の対立に巻き込まれることになります。
ポイント3:5つの自己診断 — 責めるためではなく、気づくために
ここからは、シリーズで最も大事な「自己診断」です。
繰り返しますが、これは責めるためではなく、気づくためのものです。当てはまった数より、「自分を振り返れること」そのものが、もう変化の始まりです。
チェックリスト
- 相手の話を、最後まで聞けないことが多い
- 「変わるべきなのは相手だ」と感じている
- 子どもに、つい相手のことを話してしまう
- 相手から連絡が来るたび、動悸や怒りがこみ上げる
- 自分は「まとも」で、相手が「問題」だと思っている
いかがでしょうか。多くの方が、いくつかは「ドキッ」とされるのではないでしょうか。それは、責めるべき悪いことではありません。むしろ、こうして自分を客観視できる時点で、変化の入り口に立っています。
「ディエスカレーション」という考え方
高葛藤は、多くの場合「2人で」作り出してしまうものです。でも、裏を返せば――どちらか一方が反応を変えるだけで、エスカレートは止められます。
これを「ディエスカレーション(de-escalation)」と言います。
相手を変えることはできなくても、対立の連鎖は、あなたから止められます。具体的には、次回以降の記事で扱う「子どもを伝言役にしない」などの実践がそれにあたります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相手だけが高葛藤の場合は、私はどうすればよいですか?
高葛藤は多くの場合「2人で」作り出してしまうものです。裏を返せば、どちらか一方が反応を変えるだけで、エスカレートは止められます。これを「ディエスカレーション」と言います。相手を変えることはできなくても、対立の連鎖は、あなたから止められます。
Q2. 私は「冷静なほう」だと思っていますが、それも高葛藤の特徴ですか?
高葛藤離婚に陥った親の多くが、自分を「冷静な被害者」だと思っています。これは責めるべきことではありません。しかし、自分も対立の一方の当事者であることに気づくことが、変化の第一歩になります。本記事の5つのチェックリストを試してみてください。
Q3. 高葛藤を避けるために、ADRや調停を使うべきですか?
ADR(裁判外紛争解決手続)は、中立の専門家が間に入って合意形成を支援する仕組みで、感情のヒートを抑え、子に対立を見せにくいというメリットがあります。多くのご家庭で、まず話し合いに行き詰まったらADRから検討することを推奨します。
まとめ:返信する前に「5分だけ」間を置く
ここまでをまとめます。
- 高葛藤離婚は「特別な人」ではなく、誰にでも起こりうるものです。広い定義で離婚の20〜40%が該当します。
- 高葛藤の形は3つ:攻撃型/回避型/巻き込み型。多くは複数を併せ持ちます。
- 自己診断は責めるためではありません。振り返れること自体が、変化の始まりです。
今日からできる一歩としては、相手から連絡が来たとき、返信する前に「5分だけ」間を置いてみる、ということです。それだけで、攻撃型の反応はぐっと減らせます。
参考文献・出典
- Johnston, J. R. (1994). High-conflict divorce. The Future of Children, 4(1), 165-182.
- Johnston, J. R., & Campbell, L. E. G. (1988). Impasses of divorce: The dynamics and resolution of family conflict. Free Press.
- Stewart, R. (2001). The Early Identification and Streaming of Cases of High Conflict Separation and Divorce: A Review. Department of Justice Canada.
- Anderson, S. R., et al. (2010). Patterns of high conflict in divorce. Dept of Justice Canada.
次回の記事
次回は、「子どもを『伝言役』にしないために — 言ってはいけない3つのこと」。
自己診断で気づいた行動を、具体的にどう変えていくか。BIFF法という実務的なツールも紹介しながら、伝言役の3パターンと、その代わりの伝え方をお届けします。
YouTubeでも解説しています
この記事の内容は、YouTubeチャンネル「Families In Transition」でも、弁護士・佐々木裕介と聞き手・ふたばによる対話形式で解説しています。記事と動画を併せてご覧いただくと、より理解が深まります。
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