「これ、お父さんに渡しておいてね」――よく、言っていませんか?
その何気ない一言が、子どもを親同士の「連絡係」に変えてしまいます。前回の記事「忠誠葛藤とは何か」で扱った「三角関係化」の中でも、もっとも頻繁に起きるのが、この「伝言役化」です。
この記事では、法務省認証ADR機関である株式会社チャイルドサポートが、弁護士・佐々木裕介監修のもと、伝言役の3パターン、その代わりの伝え方、そして高葛藤対応で世界的に有名なBIFF法を含む「最小限コミュニケーション5ルール」を、実践レベルでお届けします。
なぜ「伝言役化」が問題なのか
シリーズ第二部の始まり(Ep 05)で扱った「自己診断」を踏まえると、次に必要なのは「行動の変化」です。
子どもを伝言役にしてしまう行動は、悪意なく繰り返されやすいものです。「子どもに頼んだほうが早い」「自分が直接やり取りすると感情的になる」――こうした実利的な理由から、つい子を介してしまいます。
しかし、Buchanan らの研究が示した通り、「板挟みになる感覚」は、子どもの抑うつや行動問題の主要な原因です。たとえ事務的な連絡であっても、子は親の感情を運ぶ役割を担うことで、心理的負担を蓄積させていきます。
ポイント1:「伝言役」の3パターン — 知らずにやっていないか
伝言役には、実は3つの異なるパターンがあります。それぞれ、子どもにとっての負担の質が違います。
①連絡伝達役
「お父さんに『今週末は無理』って言っといて」――事務的な連絡を子に運ばせる、最も気づきにくいパターンです。
「ただの伝言」と思いがちですが、子は「親同士の関係を私が橋渡ししなければならない」というプレッシャーを感じます。特に、伝言の内容が相手の不興を買いそうな場合、子は「届ければ怒られる、届けなければ自分が怒られる」という板挟みに置かれます。
②感情伝達役
「お母さんは怒ってるって、伝えてきて」――親同士の感情・対立を、子に運ばせるパターンです。
子は、敵意の運び手にさせられてしまいます。事務的な情報を運ぶより、はるかに重い心理的負担を背負わされます。
③交渉代理役
「お父さんに養育費のこと、聞いてきて」――お金や予定の交渉を、子に肩代わりさせるパターンです。
子に大人の責任を負わせることになります。前回扱った「親化(parentification)」を強く誘発する行動です。
「板挟みになる感覚」が高い子ほど、抑うつや行動問題が増えるという Buchanan らの研究結果は、この3つのパターンのすべてに当てはまります。
事例:「もう、ぼくに言わせないで」と泣いたGくん
ここで、ある親子の話を紹介します(複数のご相談を組み合わせたフィクションですが、似た状況のご家庭は本当に多いのです)。
Gさん(38歳)は、小学4年生の息子さんを持つお母さんでした。元夫との直接のやりとりがどうしても苦痛で、つい、息子さんに「パパに伝えておいて」とお願いしていました。
悪気はなかったそうです。でも、息子さんは、お父さんに会うたびに「今日は、ママの言うことを、ちゃんと言わなきゃ」と緊張するようになっていきました。
ある日、息子さんがこう言って泣いたそうです。
「もう、ぼくに言わせないで」
Gさんはその時初めて、自分が息子さんを「連絡係」にしていたことに気づきました。Gさんは決して悪い親ではありません。むしろ、子を大切に思う気持ちが強かったからこそ、自分が苦痛な配偶者とのやり取りを避けて、結果的に子に負担を移してしまっていたのです。
ポイント2:言い換えの技術 — その一言を、こう変える
ここからは、今日からすぐに使える「言い換え」の実例を3つ、お見せします。
言い換え例①
❌ 「お父さんに『週末は無理』って言っといて」 ✅ 親が直接、共同養育アプリやメールで連絡する
言い換え例②
❌ 「お父さん、養育費ちゃんと払ってる?」 ✅ お金の話は、子の前で一切しない(大人同士の問題)
言い換え例③
❌ 「お母さんは、何て言ってた?」 ✅ 相手の様子を、子から聞き出さない(必要なら直接確認する)
ポイントは、たったひとつ。「これは、子どもに言うことか?それとも、親が直接やることか?」――一度、立ち止まって考えるだけで、ほとんどは防げます。
ポイント3:「最小限コミュニケーション」5つのルール
親同士の連絡を、子を介さず、最小限で回す方法を整理します。
01. 連絡は、親同士で直接
子を介さない。これが大原則です。
02. 手段を一つに決める
共同養育専用アプリ(OurFamilyWizard、TalkingParents、Co-Parenterなど)、または専用メールアドレスなど、連絡手段を一本化します。LINE、メッセージ、電話、SMSなどが入り乱れると、感情的な衝突が増えやすくなります。
03. BIFFで書く
高葛藤対応の世界的権威 Bill Eddy(High Conflict Institute)が提唱するBIFF法を使います。
- Brief(簡潔):1段落程度に収める
- Informative(情報のみ):事実だけを伝える、意見や感情を入れない
- Friendly(友好的):敵意のない言葉を選ぶ
- Firm(毅然):必要なことは明確に伝える
例:相手から長文の批判メッセージが来ても、「ありがとうございます。来週金曜の17時、いつもの公園で受け渡しします」のように、簡潔・情報のみ・友好的・毅然と返します。
04. 子の前で、相手の話をしない
良い話も悪い話も、子の前では控えます。子は、親の口から漏れる相手への評価を、すべて記憶しています。
05. 記録を残す
すべての連絡を文字で残します。「言った・言わない」の争いを防ぎ、感情的なやり取りを減らせます。共同養育アプリには、この記録機能が標準装備されています。
これらは、協議書に明文化できる
実は、これらの連絡ルールは、離婚協議書のなかで「連絡・受け渡し・養育のルール」として明文化できます。あらかじめ仕組みにしておくことで、感情のぶつかり合いがぐっと減ります。
詳しくは別記事「離婚協議書に必ず入れたい5項目」もご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. どうしても直接連絡したくない相手とは、どうすればよいですか?
無理に和やかに話す必要はありません。共同養育の専用アプリ(OurFamilyWizard、TalkingParentsなど)を使えば、感情を挟まず必要な連絡だけができます。さらに、ADRで「いつ・どの手段で・何を連絡するか」を文書化しておけば、揉めにくくなります。子を介さない仕組みを先に作っておくことです。
Q2. BIFF法とは何ですか?
Bill Eddy が開発した、高葛藤の相手とのやり取りに有効なコミュニケーション技法です。Brief(簡潔)・Informative(情報のみ)・Friendly(友好的)・Firm(毅然)の頭文字をとってBIFF。感情ではなく事実のみを、短く、敬意を持って、しかし毅然と伝えるアプローチで、高葛藤の専門機関であるHigh Conflict Instituteが推奨しています。
Q3. 連絡ルールも協議書に書けますか?
はい、書けます。離婚協議書(特に公正証書化する場合)には、養育費や面会だけでなく、親同士の連絡手段、頻度、対応時間などを明文化できます。あらかじめ仕組みにしておくことで、感情のぶつかり合いがぐっと減ります。法務省認証ADR機関のサポートを使えば、専門家が抜け漏れをチェックしてくれます。
まとめ:『これは親が直接言うことだ』と一度立ち止まる
ここまでをまとめます。
- 伝言役には3つの形があります:連絡伝達・感情伝達・交渉代理。すべて子の負担になります。
- 「子に言う」を「親が直接」に変えるだけで、子を解放できます。
- 最小限コミュニケーション5ルール(BIFF含む)。これらは協議書に明文化できます。
今日からできる一歩としては、次にお子さんに頼みそうになったら、「これは親が直接言うことだ」と一度だけ立ち止まる、ということです。それだけで、お子さんを連絡係から解放できます。
参考文献・出典
- Eddy, B. (2011). BIFF: Quick responses to high-conflict people, their personal attacks, hostile email and social media meltdowns. Unhooked Books.
- High Conflict Institute. “How to Write a BIFF Response.”
- Buchanan, C. M., Maccoby, E. E., & Dornbusch, S. M. (1991). Caught between parents: Adolescents’ experience in divorced homes. Child Development, 62(5), 1008-1029.
- OurFamilyWizard, TalkingParents 各社の共同養育サポートツール情報.
次回の記事
次回は、「面会交流を『武器』にしない — 子どもの権利という視点」。
2026年改正民法で「親子交流」へと名称変更された面会交流。その主語は「親」ではなく「子」であるという原則と、武器化を避けるための具体的な視点をお届けします。
YouTubeでも解説しています
この記事の内容は、YouTubeチャンネル「Families In Transition」でも、弁護士・佐々木裕介と聞き手・ふたばによる対話形式で解説しています。記事と動画を併せてご覧いただくと、より理解が深まります。
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