「もう、会わせない」――その判断は、誰のためでしょうか?
面会交流は、いつの間にか相手への「武器」になりがちです。でも、その判断で傷つくのは――たいてい、子ども自身です。
この記事では、法務省認証ADR機関である株式会社チャイルドサポートが、弁護士・佐々木裕介監修のもと、2026年4月施行の改正民法で「親子交流」へと名称変更された面会交流について、子の権利という視点、武器化の3パターン、そしてDV・虐待時の安全配慮まで、法律と心理の両面から解説します。
なぜ「主語の転換」が必要なのか
面会交流について話すとき、多くの方が「親が、子に会う権利」というイメージを持っています。
しかし、本当の原則は、「子が、両親とつながる権利」です。主語は、親ではなく、子どもです。
この視点の転換は、改正民法と国連子どもの権利条約という2つの法的根拠によって、明確に位置づけられています。シリーズで繰り返しお伝えしてきた「これは、子のため?それとも、自分のため?」という問いが、この回でも中心になります。
ポイント1:面会交流(親子交流)は「誰のための」権利か
国連 子どもの権利条約 第9条
国連の子どもの権利条約 第9条は、こう定めています。
父母から離れて暮らす子どもは、定期的に両親と直接会い、関係を保つ『権利』を持つ。
つまり、子が両親とつながることは、子に保障された人権です。親が「会いたいかどうか」「会わせたいかどうか」よりも、子の権利が優先される、というのが国際標準の考え方です。
改正民法(2026年4月施行)
日本でも、2026年4月1日施行の改正民法によって、この国際標準が法律レベルで明確化されました。
- 「面会交流」→「親子交流」に名称変更
- 「子の利益を最も優先する」ことが、法律で明文化
- 試行的親子交流の制度化
これにより、日本の家族法も、子の権利を主軸とする国際標準に近づきました。
「親の権利」から「子の権利」への転換
❌ これまでの誤解:「親が、子に会う権利」 ✅ 本当の原則:「子が、両親とつながる権利」
この主語の転換は、面会交流に関するすべての判断の出発点になります。
詳しくは別記事「忠誠葛藤とは何か — 子どもの心の中で起きていること」もあわせてご覧ください。
事例:「お金を払わないなら、会わせない」と判断したHさん
ここで、ある親子の話を紹介します(複数のご相談を組み合わせたフィクションですが、似た状況のご家庭は本当に多いのです)。
Hさん(40歳)は、小学生のお子さんを持つお母さんでした。元夫が、約束した養育費を払ってくれません。腹が立ったHさんは、「お金を払わないなら、子どもには会わせない」と、面会を断りました。
Hさんは、これを当然の対抗手段だと思っていました。「払わないなら会わせない」――感情的にはわかる発想です。
でも、養育費の問題と、子どもが親に会う権利は、本来、別の問題でした。
しばらくして、お子さんがぽつりと言ったそうです。
「ぼくが、いい子じゃないから、パパに会えないの?」
この一言で、Hさんは気づいたそうです。面会を止めて傷ついたのは、相手ではなく、子ども自身だったと。
子は、両親に会うことが「自分の権利」であり、自分の状態と関係なく保障されるべきものだ、ということを、本能的に求めていました。それを止められたとき、子は「自分のせい?」と自責に向かいます。
養育費の不払いには、法定養育費制度(2026年4月施行)や強制執行といった別のルートで対処すべきで、面会を取引材料にすることは、子の権利を侵害する行為になります。
ポイント2:面会交流の「武器化」— 3つの形
面会が「武器」になってしまう形は、3つあります。多くの場合、悪意なく行われてしまうことに、注意が必要です。
①人質型
「お金を払わないなら、会わせない」――養育費や条件と引き換えに、面会を取引材料にする形です。
しかし、お金と、子が親に会う権利は、別の問題です。Hさんの事例の通り、子は自分の状態と関係なく親に会う権利を持っています。
②罰則型
「あんな人に、会わせるものか」――相手を罰するために、面会を拒否する形です。
罰せられているのは、実は子どもです。子は「親と会う」という自分の権利を、親同士の対立のために失います。
③代弁型
「子どもが、会いたくないって言ってる」――子の言葉を盾にして、面会を止める形です。
しかし、その言葉は本心でしょうか?それとも、忠誠葛藤の表れでしょうか?子は同居親に気を遣って、別居親に「会いたくない」と言うことがよくあります。
ここに関しては、別記事「忠誠葛藤とは何か」でも詳しく扱いました。
ただし、DV・虐待は別
ここは絶対に押さえてください。DV・虐待など、子の安全が脅かされるケースは、これらの「武器化」とはまったく別の問題です。 その場合は、安全が、何よりも最優先になります。
無理に会わせない、監督付き面会という選択肢の活用、第三者機関や弁護士への相談を、躊躇しないでください。
ポイント3:新しい枠組みと、海外スタンダード
改正民法と海外スタンダードから、面会交流の現状を整理します。
日本:改正民法(2026年4月施行)
- 「面会交流」→「親子交流」へ名称変更
- 子の利益を最優先と明文化
- 試行的親子交流を制度化
- まず父母で話し合い、難しければ家庭裁判所へ
海外スタンダード(厳格な運用)
多くの国では、正当な理由のない面会妨害は厳しい対応を受けます。
- 面会妨害は「裁判所侮辱」として扱われることも
- 悪質な場合、親権変更まであり得る
- 子の権利として、司法が迅速に実施
- ハーグ条約(国際的な子の連れ去り)でも国際的に保護
例外:安全が最優先
繰り返しになりますが、例外があります。
- DV・虐待がある場合は、無理に会わせない
- 監督付き面会という選択肢を活用
- 迷ったら、第三者・専門家・弁護士へ相談
よくある質問(FAQ)
Q1. 本当に子どもが「会いたくない」と言っている場合は、どうすればよいですか?
3つに分けて考えてください。①忠誠葛藤:同居親に気を遣い「会いたくない」と言うことがあります。②安全の問題:DV・虐待があるなら、無理に会わせない。安全が最優先です。③一時的な拒否:成長過程の自然な変化のこともあります。迷ったら、第三者やADRを介して、子の本心と安全を丁寧に見極めることです。
Q2. 養育費を払ってくれない相手と、子どもを会わせる必要がありますか?
面会交流(親子交流)と養育費は、本来別の問題です。お金を払わないことの対抗手段として面会を止めると、傷つくのは相手ではなく子ども自身です。養育費の不払いには、法定養育費制度(2026年4月施行)や強制執行など、別のルートで対処してください。
Q3. 改正民法で「面会交流」の名称が変わったのですか?
はい。2026年4月施行の改正民法で、「面会交流」は「親子交流」へと名称変更されました。同時に「子の利益を最も優先する」ことが法律で明文化され、試行的親子交流の制度化など、より子の権利を重視する枠組みに整理されました。
まとめ:『これは子のためか、相手のためか』と問う
ここまでをまとめます。
- 面会交流は「親の権利」ではなく「子が両親とつながる権利」。主語は、子です。
- 武器化には3つの形:人質型・罰則型・代弁型。子を取引材料にしないでください。
- 改正民法は子の利益を最優先。ただしDV・虐待時は、安全が最優先です。
今日からできる一歩としては、面会の判断に迷ったら「これは子のためか、それとも相手のためか」と、自分に問うことです。この問いだけで、多くの「武器化」は避けられます。
そして、親子交流のルール(頻度・受け渡し・連絡方法・特別な行事など)は、離婚協議書にあらかじめ取り決めておくことができます。詳しくは「離婚協議書に必ず入れたい5項目」もご覧ください。
参考文献・出典
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について」〔令和8年4月1日施行〕。
- 児童の権利に関する条約 第9条(外務省)。
- ハーグ条約(国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約)。
- 家庭裁判所 試行的面会交流の実務.
次回の記事
シリーズは第三部(実践編)に入ります。次回は、「子どもへの『離婚の伝え方』ガイド — 年齢別に、いつ・どこで・どう伝えるか」。
多くの方がいちばん悩む「子への離婚の伝え方」を、年齢別のセリフ例まで含めた保存版ガイドとしてお届けします。
YouTubeでも解説しています
この記事の内容は、YouTubeチャンネル「Families In Transition」でも、弁護士・佐々木裕介と聞き手・ふたばによる対話形式で解説しています。記事と動画を併せてご覧いただくと、より理解が深まります。
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