
佐々木 裕介(弁護士・第二東京弁護士会)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚、調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。また、離婚ADRや養育費保証サービスを提供する株式会社チャイルドサポートの創業者・代表取締役。
「先月から養育費の振込が止まった」「催促のLINEは既読のまま返事がない」「電話番号が変わっていて連絡が取れない」――。
この記事を開いたあなたは、いま、そういう状況かもしれません。最初にお伝えしたいのは、泣き寝入りする必要はないということです。2026年4月の民法改正で、養育費を回収するための法律の仕組みは、これまでになく受け取る側の味方になりました。
養育費・離婚の実務に携わってきた弁護士として、①不払いが起きたとき最初にやること、②改正で何ができるようになったか、③ケース別の具体的な動き方、④そもそも不払いを起こさせない備え方、を順に解説します。
養育費が止まったら最初にやること(結論先出し)
パニックになる前に、次の3つを確認・実行してください。
- 取り決めの「形」を確認する:公正証書か、合意書か、口約束か――。持っている文書の種類で、使える手段が変わります(後述のフローチャートへ)
- 記録を残す:不払いの開始月、催促の日時と内容(LINE・メールはスクリーンショット)。感情的な連絡は避け、事実だけを淡々と残します
- 早く動く:不払いは放置するほど回収が難しくなります。「数ヶ月様子を見る」は、相手に「払わなくても何も起きない」と学習させる期間になりがちです
まだ取り決めを書面にしていない方へ:相手と連絡が取れるうちが最後のチャンスです。
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Before:これまで不払いの回収が難しかった理由
受給率2割台という現実と「債務名義の壁」
国の調査では、母子世帯で現在も養育費を受け取れている世帯はおおむね2割台にとどまります。取り決め自体をしている世帯も46.7%(厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」)。半分以上の家庭が、約束の書面すら持たないまま離婚しているのが現実です。
回収が難しかった最大の理由は、差押え(強制執行)に「債務名義」――強制執行認諾文言付きの公正証書、調停調書、判決など――が必要だったことです。
口約束やただの合意書しかない場合、不払いが起きてから、まず家庭裁判所の調停や審判で債務名義を取るところから始めなければなりませんでした。申立てから成立まで数ヶ月、相手が争えばさらに長期化。その間も生活費は待ってくれません。「手続の途中で力尽きて諦めた」――これが、改正前に何度も繰り返された光景です。
2026年改正でできるようになったこと
合意書があれば:先取特権による差押え
2026年4月1日施行の改正民法で、養育費債権に「先取特権」(民法306条3号・308条の2)が認められました。
これにより、要件を満たした父母間の合意書(当事者・子・金額・始期終期・支払条件が特定され、本人の署名が客観的に示せるもの)があれば、公正証書がなくても、裁判所に差押え(担保権の実行)を申し立てられるようになりました。調停・裁判で債務名義を取る数ヶ月を、スキップできる場合があるということです。
相手が会社員なら給与の差押えが典型です。勤務先に裁判所から通知が行き、給与から直接回収する形になります。
取り決めがない場合の「法定養育費」月2万円
「口約束すらしないまま離婚してしまった」という方のために、法定養育費制度(民法766条の3)も新設されました。取り決めがなくても、子1人あたり月額2万円を法律上当然に請求できる仕組みです(2026年4月1日以降に離婚したケースが対象)。
十分な金額ではありませんが、「取り決めゼロ=請求の根拠ゼロ」だった時代から、最低限のセーフティネットができました。
給与差押えは2分の1まで可能(一般債権との違い)
養育費のための給与差押えは、改正前からある強力な優遇も使えます。通常の借金などの債権では給与(手取り)の4分の1までしか差し押さえられませんが、養育費は2分の1まで差押えが可能です(民事執行法152条3項)。子どもの生活を支える債権として、法律が特別扱いしているのです。
【誤解に注意】差押えの限界と現実
ここで、過度な期待を持たせないために、限界も正直にお伝えします。
- 上限があります:私的合意書による先取特権の実行は、子1人あたり月額8万円(法務省令で定める範囲)まで。超える部分の執行には債務名義が必要です
- 相手に財産がなければ回収できません:差押えは、相手に給与・預金などの財産があることが前提です。無職・転職直後で勤務先が不明、という場合はまず財産・勤務先の調査が必要になります(裁判所の財産開示手続・第三者からの情報取得手続という制度もあります)
- 自動ではありません:先取特権があっても、申立てをするのはあなた自身(または依頼を受けた専門家)です
- 関係への影響:給与差押えは勤務先に知られるため、相手との関係は決定的に悪化しがちです。まず内容証明等での催促を挟むのが現実的な場合も多くあります
差押えは強力ですが、あくまで「最後の安全網」です。だからこそ、次の章が重要になります。
After:そもそも不払いを起こさせない3層の備え
弁護士として申し上げると、最良の不払い対策は「不払いが起きてから強く戦うこと」ではなく、「不払いが起きにくい仕組みを最初に作ること」です。3つの層で考えてください。
第1層:いざというとき使える合意書
差押えの根拠になる、要件を満たした合意書を作っておく。これが土台です。改正後は、この土台の価値が飛躍的に上がりました。
※具体的な要件は養育費合意書の書き方とテンプレートの落とし穴
第2層:口座振替(自動引き落とし)
毎月「振り込んでくれるかな」と待つこと自体が、精神的な消耗です。口座振替にすれば、支払いが「相手の意思で毎月行う行為」から「自動で続く仕組み」に変わります。払う側にとっても、振込忘れによるトラブルを防げます。
第3層:養育費保証
それでも不払いが起きたとき、保証会社が立替えて支払いを続ける仕組みです。受け取る側は、相手の事情に生活を左右されなくなります。「催促・回収のストレスから解放されたい」という方は検討に値します。
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チャイルドサポートサインでは、合意書の電子署名(2,900円・税込)のタイミングで、口座振替と養育費保証をまとめてオンラインで設定できます(いずれも任意)。3層をワンストップで整えられる設計です。

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ケース別フローチャート:あなたは今どこにいるか
ケースA:公正証書・調停調書がある+不払い発生
→ そのまま強制執行(給与・預金の差押え)を申立て可能。財産が不明なら財産開示手続等を併用。弁護士への相談も有効
ケースB:私的な合意書がある+不払い発生
→ 合意書が要件(当事者・子・金額・始期終期・支払条件の特定、本人性)を満たすか確認 → 満たせば先取特権に基づく差押え申立てを検討(月8万円/子まで)。満たさない場合はケースCへ
ケースC:口約束のみ・取り決めなし+不払い発生
→ ①法定養育費(月2万円/子・2026年4月以降の離婚)の請求を検討 ②並行して、相手と連絡が取れるなら今からでも合意書化 ③応じなければ家庭裁判所の調停へ
ケースD:離婚前・別居中(まだ不払いは起きていない)
→ いまが最大のチャンス。関係が保たれているうちに、使える合意書+口座振替+(必要なら)保証を設定
※離婚前に決めるべき養育費のすべて
よくある質問
Q1. 何ヶ月分の不払いから差押えできますか?
A. 1ヶ月分の不払いからでも法的には手続可能です。また給与差押えでは、すでに発生した未払い分に加えて、将来分についても継続的に差し押さえられる仕組みがあります。
Q2. 相手が転職して勤務先が分かりません。
A. 裁判所の「第三者からの情報取得手続」により、市町村や年金機構等から勤務先情報を取得できる場合があります。預金についても金融機関への照会が可能です。詳しくは弁護士にご相談ください。
Q3. 相手が「収入が減ったから減額したい」と言ってきました。
A. 事情の変更があれば養育費の減額が認められる場合があります。一方的に支払いを止めることは認められませんので、話し合いか調停での解決を求めてください。減額協議に応じる場合も、必ず書面に残しましょう。
Q4. 養育費保証を使うと、相手との関係は悪化しませんか?
A. 保証はむしろ「催促や差押えをあなた自身が行わなくて済む」仕組みです。当事者同士の金銭のやり取りに第三者が入ることで、感情的な衝突が減るケースも多くあります。
Q5. もう何年も前の未払い分も請求できますか?
A. 過去分の請求は可能な場合がありますが、消滅時効(取り決めの形式により異なります)や、取り決め自体がない期間の扱いなど、法的な検討が必要です。早めに専門家にご相談ください。
まとめ:一人で抱え込まず、仕組みに頼る
養育費の不払いは、あなたの交渉力や粘り強さで解決すべき問題ではありません。法律と仕組みに頼っていい問題です。
- すでに不払いが起きている → 取り決めの形を確認し、フローチャートに沿って早めに行動を
- まだ起きていない・これから離婚 → 使える合意書+口座振替+保証の3層を、関係が保たれている今のうちに
2026年の改正は、養育費を「運まかせ」から「仕組みで守るもの」に変えました。その仕組みを、あなたとお子さんのために使ってください。

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※本記事は制度の一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。差押え等の手続は事案により異なります。改正法の運用や法務省令の細目は施行後の実務で固まっていく部分があるため、具体的なご判断の際は最新の情報をご確認いただくか、専門家にご相談ください。
監修:弁護士 佐々木裕介(株式会社チャイルドサポート 代表取締役)

