
佐々木 裕介(弁護士・第二東京弁護士会)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚、調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。また、離婚ADRや養育費保証サービスを提供する株式会社チャイルドサポートの創業者・代表取締役。
離婚を考え始めたとき、親権、住まい、仕事、子どもの学校――決めることが多すぎて、養育費の取り決めは「離婚が成立してから、落ち着いて決めればいい」と後回しにされがちです。
弁護士として先にお伝えします。それが、いちばん多い後悔のパターンです。
養育費の取り決めには、明確な「適齢期」があります。離婚が成立する前、相手との関係がまだ完全に断たれていない時期です。この記事では、①なぜ離婚前なのか、②いくらが妥当なのか(相場と算定表)、③別居中でも対面せずに合意書を作る方法、④離婚前にやることリスト、を順に解説します。
結論:養育費の取り決めは「離婚前」が決定的に有利な理由
理由はシンプルで、離婚後は相手が話し合いに応じる動機がなくなるからです。
離婚前は、相手にも「離婚を成立させたい」という動機があります。条件の話し合いは、その動機があるうちがいちばん進みます。ところが離婚が成立した瞬間、相手にとって養育費の書面化は「応じても自分には何のメリットもない手続」に変わります。連絡がつかなくなる、後回しにされる、再婚を機に拒否される――こうして書面化の機会は失われていきます。
さらに2026年4月の民法改正で、「離婚前に作っておいた合意書」の価値は跳ね上がりました。要件を満たした私的な合意書があれば、公正証書がなくても、不払い時に給与等の差押え(先取特権の実行・民法306条3号/308条の2)を申し立てられるようになったからです。
離婚前のいま作る合意書が、5年後・10年後のお子さんの生活を守る武器になる――これが改正後の新しい現実です。
※改正の全体像は【2026年4月施行】養育費に先取特権をご覧ください。
話し合いの前に、合意書がどんな内容になるか無料で確認しておくとスムーズです。
→(テキストCTA)無料で養育費合意書のイメージを作成する
養育費はいくらが妥当?(算定表の使い方・相場)
金額の話し合いで基準になるのが、裁判所が公表している養育費算定表です。家庭裁判所の調停・審判でも実際に使われており、「お互いの年収」と「子どもの人数・年齢」から標準的な金額帯が分かります。
使い方は3ステップです。
- 支払う側・受け取る側それぞれの年収を確認(給与所得者は源泉徴収票の「支払金額」、自営業者は確定申告書の「課税される所得金額」をベースに)
- 子どもの人数と年齢(0〜14歳/15歳以上)に対応する表を選ぶ
- 縦軸(支払う側の年収)と横軸(受け取る側の年収)の交点を読む
例えば、支払う側が年収500万円・受け取る側が年収200万円・子1人(10歳)なら、月4〜6万円の幅に収まるケースが多い、といった形です(個別事情により変動します)。
ポイントは、算定表を「交渉の武器」ではなく「共通の土台」として使うことです。客観的な基準があると、感情的な綱引きではなく「裁判所基準でこのくらいだね」という冷静な話し合いがしやすくなります。なお、無理に高い金額で合意しても、相手の支払いが続かなければ意味がありません。続けられる金額で、確実にが原則です。
Before:「離婚後でいいや」が招く典型的な後悔
取り決め率46.7%・受給率2割台のデータが示すもの
厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子世帯で養育費の取り決めをしている割合は46.7%。そして現在も実際に受け取れている世帯は、おおむね2割台にとどまります。
取り決めをしなかった理由の上位には「相手と関わりたくない」「交渉がわずらわしい」が並びます。つまり多くの場合、養育費を諦めた理由はお金の問題ではなく、相手と向き合う心理的負担だったのです。
離婚後に相手が応じてくれない現実
実務では、こんな相談が後を絶ちません。
- 「離婚のとき『毎月払う』と口約束したが、半年で振込が止まった。書面は何もない」
- 「離婚後に書面化をお願いしたら、『今さら何だ』と拒否された」
- 「相手が引っ越して、連絡先も勤務先も分からなくなった」
こうなってから動くには、家庭裁判所の調停・審判で取り決めを作るところから始めることになり、時間も気力も必要です。離婚前なら1通の合意書で済んだことが、離婚後には数ヶ月がかりの手続になる――この差が「適齢期」の意味です。
※すでに不払いが起きている方は養育費が払われないときの対処法をご覧ください。
別居中でも大丈夫:対面せずに合意書を作る方法
「離婚前が大事なのは分かった。でも、もう別居していて、顔を合わせたくない」――実は、それが普通です。そして2026年の今は、対面ゼロで法的効力を意識した合意書を作る手段があります。
紙の郵送・印鑑証明交換が不要になる仕組み
従来、別居中の夫婦が書面を交わすには、紙の合意書を郵送し合い、署名・押印し、印鑑証明書を交換する必要がありました。公正証書なら、平日に2人で公証役場へ出向くことになります。この負担が、書面化を諦めさせる最大の原因でした。
電子署名を使えば、この往復が一切なくなります。チャイルドサポートサイン(弁護士・筆者監修)の場合、
- フォーム入力で合意書のイメージを無料作成(強制執行を見据えた必須要素を自動で網羅)
- 内容に双方が納得したら申込み(電子署名費用2,900円・税込のみ)
- 双方のスマホに署名依頼が届き、メール・電話番号の2段階認証+本人確認書類のアップロードを経て電子署名(電子署名法3条を踏まえ、本人性を客観的に担保)
- あわせて養育費の口座振替・養育費保証も設定可能(任意)
という流れで、最初から最後まで、相手と一度も会わずに完結します。LINEやメールで「この内容でどうか」とリンクを共有し、それぞれが自分のスマホで確認・署名すればよいのです。
※合意書に必要な記載事項の詳細は養育費合意書の書き方とテンプレートの落とし穴へ。公正証書との使い分けは養育費の公正証書はもう不要?費用・手間を比較へ。

→(テキストCTA)無料で養育費合意書のイメージを作成する
【誤解に注意】相手の合意は必要です
大切な注意点をひとつ。合意書は、双方の合意と署名があって初めて成立します。一方的に作って送りつけても、効力は生じません。
「だったら、うちは無理かも」と思った方にこそ、次の2つをお伝えしたいのです。
一方的には作れない/だからこそ「今」話す価値
相手が話し合いに応じる可能性がもっとも高いのは、離婚協議が進んでいる今です。「離婚条件のひとつとして、養育費はきちんと書面にしておきたい。お互いスマホで済む方法がある」と、離婚協議のパッケージの中で提案してください。単独で「書面を作ってほしい」と切り出すより、はるかに通りやすくなります。
どうしても応じてもらえない場合は、家庭裁判所の調停(離婚調停・婚姻費用や養育費の調停)という選択肢があります。
支払う側にもメリットがある
見落とされがちですが、きちんとした合意書は支払う側(義務者)をも守ります。
- 算定表ベースの無理のない金額で合意しておけば、後から過大な請求や「言った・言わない」の蒸し返しを防げる
- 支払いの記録が口座振替で客観的に残るため、「払っていない」と言われるリスクがない
- 曖昧な約束を放置して、ある日突然の調停申立てや差押えに直面する事態を避けられる
養育費の合意書は、相手を追い詰める道具ではなく、お互いが見通しを持って次の生活へ進むための取り決めです。この点は、相手への提案のときにもそのまま伝えていただきたいポイントです。
After:離婚前にやることリスト(時系列チェックリスト)
STEP1:情報を揃える(話し合いの前)
– 双方の年収資料(源泉徴収票・確定申告書)を確認
– 裁判所の算定表で標準的な金額帯を把握
– 子どもの進学予定など、特別費用になりそうな項目を洗い出す
STEP2:話し合う(離婚協議の中で)
– 金額・支払日・支払方法・始期と終期を具体的に決める
– 進学費用・医療費などの臨時出費の扱いも話しておく
– 「書面化はスマホで完結できる」ことをセットで提案する
STEP3:書面化する(合意できたらすぐ)
– 無料で合意書のイメージを作成し、双方で内容確認
– 電子署名(2,900円・税込)で本人性を担保した合意書を完成させる
– 口座振替を設定し、「毎月の催促」が要らない状態にする
– 不安が残るなら養育費保証も検討する
STEP4:離婚成立
– 取り決め済み・仕組み化済みの状態で、新しい生活をスタート
理想は、STEP3まで離婚成立前に終えておくことです。
よくある質問
Q1. まだ離婚するか迷っている段階です。早すぎますか?
A. 早すぎることはありません。算定表で金額感を把握し、無料で合意書のイメージを確認しておくだけでも、その後の話し合いの質が変わります。費用が発生するのは双方が電子署名に進む段階だけです。
Q2. 別居中の生活費(婚姻費用)も決められますか?
A. 離婚成立までの生活費は「婚姻費用」という別の枠組みです。今回の改正では婚姻費用にも先取特権が認められており、チャイルドサポートサインは婚姻費用の合意書にも対応しています。離婚協議が長引きそうな場合は、婚姻費用と養育費をセットで取り決めておくと安心です。
Q3. 相手が「算定表より低くしてほしい」と言っています。
A. 双方が納得すれば算定表と異なる金額での合意も有効です。ただし低すぎる金額は子どもの生活に直結します。住宅ローンの負担など事情がある場合は、終期や特別費用の扱いとセットで調整する方法もあります。迷う場合は弁護士にご相談ください。
Q4. 離婚届を出す直前ですが、間に合いますか?
A. チャイルドサポートサインなら、申込みから当日〜翌営業日に署名依頼が届きます。双方がすぐ署名すれば数日で完了します。なお、合意書は離婚成立後でも作成できますので、間に合わなくても諦めないでください(ただし早いほど確実です)。
Q5. 対面での話し合いがどうしても無理です。
A. 話し合い自体もLINEやメールで進めて構いません。条件が固まれば、合意書の確認も署名もそれぞれのスマホで完結します。どうしても協議が成立しない場合は、家庭裁判所の調停をご検討ください。
まとめ:後回しにした「面倒」は、後で何倍にもなって返ってくる
養育費の取り決めは、離婚準備の中で唯一、後回しにするほど難易度が上がっていく項目です。
- 離婚前なら:1通の合意書、2,900円、スマホで数日
- 離婚後なら:応じない相手との交渉、調停の数ヶ月、回収できない月日
そして2026年の改正は、「離婚前に正しい形で作った合意書」にこそ、最大の追い風を与えました。
お子さんは親の離婚を選べません。その毎日の食事や教科書、習い事を支えるのが養育費です。新しい生活の準備リストの一番上に、この取り決めを置いてください。

→(テキストCTA)まずは無料で、あなたのケースの合意書を確認する
※本記事は制度の一般的な解説であり、個別の事案についての法的助言ではありません。養育費算定表に基づく金額は個別事情により変動します。改正法の運用や法務省令の細目は施行後の実務で固まっていく部分があるため、具体的なご判断の際は最新の情報をご確認ください。
監修:弁護士 佐々木裕介(株式会社チャイルドサポート 代表取締役)

