「共同親権って、結局うちの場合はどうなるの?」
2026年4月1日に改正民法(令和6年法律第33号)が施行され、日本でも離婚後の「共同親権」を選べるようになりました。テレビやSNSで話題になっている一方で、「全員が共同親権になる」「DVがあっても強制される」といった不正確な情報も広がっています。
この記事では、離婚と子どもの問題を専門に扱う弁護士・佐々木裕介が、共同親権の正確な仕組みを、法律の条文と実務の視点からわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 共同親権とは何か、単独親権と何が違うのか
- いつから・誰に適用されるのか(すでに離婚した人への影響も)
- 共同親権か単独親権かは、どうやって決まるのか
- DV・虐待がある場合の扱い
- 共同親権を選んだ場合の日常生活(学校・病院・引っ越し)
共同親権とは?——離婚後も父母双方が親権者になれる制度
共同親権とは、離婚後も父と母の双方が子どもの親権者となることをいいます。
親権とは、子どもの利益のために、身の回りの世話や教育(監護・教育)を行い、進学・医療・住まいといった子どもに関する重要な事項を決定し、子どもの財産を管理する、親の権利であり義務です。
これまでの日本の民法では、離婚の際には必ず父母のどちらか一方だけを親権者に決めなければなりませんでした(単独親権制度)。この仕組みは昭和22年から70年以上続いてきましたが、2026年4月1日施行の改正民法により、離婚後の親権について「共同親権」と「単独親権」を選択できる制度に変わりました。
単独親権との違い
| 単独親権 | 共同親権 | |
|---|---|---|
| 親権者 | 父母の一方のみ | 父母の双方 |
| 重要事項の決定(進学・医療など) | 親権者が単独で決定 | 原則、父母が共同で決定 |
| 日常の行為(食事・習い事・日々の世話など) | 親権者(監護者)が決定 | 監護する親が単独でできる |
| 急迫の事情がある場合 | 親権者が決定 | 一方が単独で親権行使できる |
重要なのは、共同親権を選んでも「すべてを2人で決める」わけではないという点です。詳しくは後述しますが、日常の行為や急迫の事情がある場面では、一方の親が単独で決められる設計になっています。
「共同親権が原則」ではない——選択制です
まず最大の誤解から解いておきます。改正民法は、共同親権を「原則」とはしていません。
協議離婚では、父母の話し合い(合意)によって、共同親権とするか単独親権とするかを選びます。どちらかが「原則」でどちらかが「例外」という上下関係はなく、子どもの利益にとってどちらが良いかを個別に判断する建て付けです。
共同親権はいつから?誰に適用される?
施行日は2026年4月1日
改正民法は2026年4月1日に施行されました。施行日以後に離婚する夫婦は、共同親権・単独親権を選択できます。
すでに離婚した人も「親権者変更」で共同親権にできる可能性
見落とされがちですが、この改正は施行日より前に離婚した方にも関係があります。
改正民法819条6項により、家庭裁判所への申立てによって、単独親権から共同親権への親権者変更(およびその逆)が可能になりました。過去に単独親権で離婚した方でも、「双方で親権を持ちたい」と考える場合、親権者変更を申し立てる道が開かれています。
ただし自動的に認められるわけではありません。裁判所は、子の利益のために必要かどうかを、これまでの協議の経過(DVや暴力の有無、養育費等の取り決めの状況など)、その後の事情の変更などを考慮して判断します(改正民法819条8項)。
なお、今回の改正では、親権者変更の申立権が「子の親族」から「子又はその親族」に広がり、子ども本人も申立てができるようになりました。
共同親権か単独親権かは、どうやって決まる?
①まずは父母の協議(話し合い)
協議離婚の場合、父母の合意で決めます。合意ができれば、共同親権・単独親権のどちらも選択可能です。
②合意できなければ家庭裁判所が判断
協議がまとまらない場合や、裁判離婚の場合は、家庭裁判所が親権者を定めます。このとき裁判所は、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮します(改正民法819条7項)。
そして、条文上、次の場合には裁判所は必ず単独親権を定めなければならないとされています。
- 父母の一方が子に虐待等をするおそれがあるとき
- DVなど心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれ等があり、父母が共同して親権を行うことが困難なとき
DV・虐待がある場合は単独親権になる
「DVがあっても共同親権を強制されるのでは」という不安の声は多くありますが、上記のとおり、DV・虐待の事案で単独親権を定めるべきことは条文に明記されています。
また、共同親権になった後でも、DVや虐待から避難(転居を含む)する必要がある場合は、「子の利益のため急迫の事情があるとき」として、一方の親が単独で親権を行使できます。避難に相手の同意は必要ありません。
共同親権を選んだら、生活はどう変わる?
日常の行為は、これまでどおり一方の親だけでできる
共同親権というと「習い事ひとつ決めるにも元配偶者の同意が必要になるのか」と心配される方が多いのですが、そうではありません。
改正民法では、監護や教育に関する「日常の行為」は、共同親権であっても一方の親が単独で行えるとされています。共同での決定が求められるのは、進学先の決定や重大な医療行為など、子どもの人生に関わる重要事項です。
学校や行政の手続も、基本は今までどおり
法務省が公表しているQ&A資料(行政手続・支援編)では、学校の申請書などは、一方の親権者の署名によって他方の同意を推定して手続を進めることは改正法の趣旨に反しない、と整理されています。「共同親権になった瞬間、あらゆる書類に2人分のサインが必要になる」わけではありません。
また、監護者(主に子どもの世話をする親)と定められた親は、監護・教育に関して単独で決定でき、転校などの手続も単独で行えます。監護者でない親権者と意見が食い違った場合は、監護・教育の範囲では監護者の意向が優先します。
意見が対立したときの解決手段も用意されている
特定の事項(進学先など)について父母の意見がどうしても一致しない場合には、家庭裁判所がどちらが決めるかを指定する「親権行使者の指定」という手続が新設されました。また、監護や教育の事項の一部を一方の親が担う「監護の分掌」を取り決めることもできます。
共同親権のメリット・デメリット
メリット
- 離婚後も父母双方が子の養育に法的な責任と関与を持ち続けられる
- 「親権の取り合い」という対立構図を避けやすくなり、離婚協議の負担が減る場合がある
- 別居親の養育への関与が制度的に保障されることで、養育費の支払い意欲や親子交流の継続につながることが期待される
デメリット・注意点
- 重要事項の決定に他方の関与が必要なため、父母の関係が悪い場合は意思決定が滞るリスクがある
- 「何が日常の行為で、何が重要事項か」の線引きを理解しておかないと、トラブルの火種になる
- 取り決めが曖昧なまま共同親権を選ぶと、かえって紛争が増える可能性がある
つまり、共同親権が向くのは「離婚後も子育てについては協力できる関係」を維持できる父母です。形だけの共同親権は、子どもにとってプラスになりません。大切なのは共同か単独かのラベルではなく、養育費・親子交流・監護の分担を含めた取り決め全体の設計です。
共同親権を選ぶ場合の手続と、取り決めておくべきこと
協議離婚で共同親権を選ぶ場合、離婚届に父母双方を親権者と記載します。ただ、実務家として強くお伝えしたいのは、親権の形だけ決めて離婚するのは危険だということです。
最低限、次の事項をセットで取り決め、書面(できれば公正証書)にしておくべきです。
- 子どもの監護者を定めるか、監護をどう分担するか(監護の分掌)
- 養育費の金額・支払方法・終期
- 親子交流(面会交流)の頻度と方法
- 進学・医療など重要事項の決め方(連絡方法・協議の手順)
- 財産分与・年金分割などお金の清算
2026年の改正で選択肢が大きく広がった分、「何をどう取り決めるか」の設計の難易度は上がりました。書き方が不十分な合意書は、いざというときに役に立ちません。
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共同親権を選ぶ前のチェックリスト
実務家の視点から、共同親権を検討している方に確認してほしいポイントをまとめます。ひとつでも「いいえ」があれば、単独親権+充実した親子交流という設計や、専門家を交えた協議を検討すべきサインです。
- 相手と、子どもに関する事務的な連絡(学校行事・体調・費用など)を感情的にならずにやり取りできるか
- 進学・医療などの重要な決定について、意見が割れたときに話し合いで解決できる見込みがあるか
- 過去に、DV・モラハラ・虐待、またはそのおそれにあたる事情がないか
- 「急迫の事情」「日常の行為」など、単独でできること・できないことの区別を双方が理解しているか
- 意見対立時の解決手順(連絡方法、期限、第三者への相談)を取り決めに盛り込めるか
逆に、これらを満たせる父母にとっては、共同親権は「離婚後も双方が親として関与し続ける」ことを法的に裏付ける、有力な選択肢になります。
手続の流れ——協議離婚で共同親権を選ぶ場合
- 離婚条件の全体を協議する:親権の形だけでなく、監護者・監護の分掌、養育費、親子交流、財産分与をセットで話し合います。
- 合意内容を書面化する:口頭やLINEの合意だけで離婚届を出すのは避けてください。後日の紛争予防と履行確保のため、合意書、できれば公正証書にします。
- 離婚届を提出する:親権者欄に父母双方を記載します(共同親権の場合)。
- 離婚後の運用を確認する:学校・自治体などへの届出や連絡体制を整えます。
合意ができない場合は、家庭裁判所の調停・裁判へ進むのが従来のルートですが、その前段として、中立の専門家が入るADR(裁判外紛争解決手続)で合意形成を試みる選択肢があります。調停よりも日程・進め方が柔軟で、オンラインで完結できる点が特徴です。
共同親権に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 共同親権になると、子どもと半分ずつ暮らすことになりますか?
A. なりません。親権と、子どもがどちらの親と暮らすか(監護)は別の問題です。共同親権でも、主に一方の親が監護する形は当然にあり得ます。生活の本拠や監護の分担は、親権とは別に取り決めます。
Q2. 共同親権だと養育費は減額されますか?
A. 共同親権かどうかで養育費の算定方法が変わるわけではありません。養育費は父母双方の収入や監護の実情等をもとに決めます。なお2026年の改正では、取り決めがない場合でも子1人あたり月2万円を請求できる「法定養育費」制度も始まっています(詳しくは法定養育費の解説記事へ)。
Q3. 相手が「共同親権にしないなら離婚しない」と言っています。
A. 親権の対立で離婚自体が進まない場合、改正法では、家庭裁判所に親権者指定の審判・調停を申し立てたうえで、親権者を定めないまま協議離婚できる仕組みも新設されました(改正民法765条1項2号)。対立が深い場合は、ADRや調停など第三者を交えた話し合いをおすすめします。
Q4. 別居中(離婚前)ですが、今も共同親権ですか?
A. はい。婚姻中は従来から父母の共同親権です。改正はこの点を変えていませんが、別居時の子の監護や親子交流に関するルールが整備されました。
Q5. 共同親権にした後、やっぱり単独親権に変更できますか?
A. 可能です。家庭裁判所に親権者変更を申し立て、子の利益のため必要と認められれば、共同親権から単独親権への変更が認められます(改正民法819条6項)。
まとめ——「共同か単独か」より「どう取り決めるか」
- 共同親権とは、離婚後も父母双方が親権者となる制度。2026年4月1日施行の改正民法で導入された
- 共同親権は「原則」ではなく、単独親権との選択制
- DV・虐待の事案では、裁判所は単独親権を定めなければならない
- 共同親権でも日常の行為は単独でできる。学校等の手続も基本は従来どおり
- すでに離婚した人も、親権者変更の申立てにより共同親権への変更を求められる
- 重要なのはラベルではなく、養育費・親子交流・監護分担を含めた取り決め全体の設計
離婚後の子育ての形に「唯一の正解」はありません。あなたのご家庭にとって何が子どもの利益になるのか、取り決めに漏れがないか、専門家の視点を入れて確認することをおすすめします。
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執筆・監修:弁護士 佐々木裕介(株式会社チャイルドサポート)
典拠:民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)/東京改正家族法研究会「改正家族法の要点と解説Ⅰ〜Ⅲ」家庭の法と裁判58〜60号/法務省Q&A形式の解説資料

