2026年4月1日施行の改正民法により、離婚後の親権は「共同親権」と「単独親権」の選択制になりました。
選択肢が生まれたことは前進ですが、離婚を考えている方にとっては新しい悩みでもあります。「うちはどちらを選ぶべきなのか」——この問いに、法律の基準と実務の視点から答えるのがこの記事です。
離婚・親権問題を専門とする弁護士・佐々木裕介が解説します。
この記事でわかること
- 共同親権・単独親権はどうやって決まるのか(協議と裁判所の判断基準)
- 必ず単独親権になるケース
- 家庭のタイプ別・向き不向きの考え方
- 選ぶ前に確認すべきチェックリスト
- 決めた後に変更できるのか
大前提——「どちらが原則」でもない選択制
まず正確に押さえたいのは、改正民法は共同親権を「原則」とも「推奨」ともしていないことです。
協議離婚では、父母の合意によって共同親権・単独親権のどちらかを選びます。合意ができなければ家庭裁判所が定めます。基準はただひとつ、「子の利益」です。世間の流行や相手への感情ではなく、「この子にとってどちらの形が良いか」から出発するのが正しい順序です。
(共同親権の基本的な仕組みは共同親権とは?の解説記事をご覧ください)
家庭裁判所はどう判断するのか——民法819条7項の枠組み
父母の意見が一致しない場合、家庭裁判所は次の枠組みで判断します(改正民法819条7項)。
考慮するもの:子の利益のため、①父母と子との関係、②父と母との関係、③その他一切の事情
①は、それぞれの親がどれだけ子どもの養育に関わってきたか、子どもとの愛着・信頼関係。②は、父母が離婚後も子どものために協力し合える関係かどうか。日常的な連絡ができるか、意見が割れたとき話し合いで解決できるか、です。
そして、条文は必ず単独親権を定めなければならない場合を明記しています。
- 父母の一方が子に虐待等をするおそれがあるとき
- 父母の一方が他方からDV等(心身に有害な影響を及ぼす言動)を受けるおそれがあるなど、父母が共同して親権を行うことが困難と認められるとき
ポイントは「おそれ」で足りることです。現に暴力が続いていなくても、過去の経緯からおそれが認められれば、単独親権が定められます。DVがある場合の詳細はDV・モラハラがある場合の親権の解説記事で説明しています。
もうひとつ実務上重要なのは、共同親権を定める場合でも、親権者と定められることと子と同居することはイコールではないことです。子の居所や監護の在り方は、親権の形とは別に検討されます。「共同親権=生活が半分ずつになる」わけではありません。
タイプ別に考える——あなたの家庭はどちら向きか
実務の感覚として、次のように整理できます。
共同親権が機能しやすい家庭
- 離婚の原因が「夫婦関係の破綻」であって、親子関係や養育への信頼は残っている
- 別居後も、学校行事・病気・費用などについて事務的な連絡が取れている
- 双方が養育費・親子交流の取り決めに前向き
- 進学や医療など大きな決定について、意見が割れても対話で着地できた経験がある
このタイプの父母にとって、共同親権は「離婚後も双方が親であり続ける」ことの法的な裏付けになります。別居親の養育参加が制度的に保障されることで、養育費の支払い継続や親子交流の安定につながることも期待できます。
単独親権を選ぶべき家庭
- DV・虐待またはそのおそれがある(そもそも裁判所は共同親権を定められません)
- 連絡を取ること自体が一方の強い精神的負担になる
- 意見対立のたびに話し合いが停止し、子どもに関する決定が滞るおそれが強い
- 相手の養育への関心が乏しく、共同親権が形骸化する見込みが高い
ここで強調したいのは、単独親権を選ぶことは「相手を親でなくすること」ではないということです。単独親権でも、親子交流を充実させ、養育費を通じて養育責任を果たしてもらう設計は十分に可能です。「単独親権+充実した親子交流+確実な養育費」は、多くの家庭にとって現実的で子の利益にかなう選択肢です。
迷ったときの判断軸
「共同にするか単独にするか」で行き詰まったら、問いを変えてみてください。
「進学・医療・住まいについて、離婚後も2人で決めることが、この子にとってプラスか、リスクか」
プラスと言い切れるなら共同親権を検討する価値があります。リスクが頭をよぎるなら、単独親権をベースに、関与の形を親子交流や情報共有のルールで設計するほうが安全です。
選ぶ前のチェックリスト——親権の「形」より取り決めの「中身」
どちらを選ぶにせよ、親権の形だけ決めて離婚するのは危険です。次の項目をセットで取り決めてください。
- 監護者を定めるか:共同親権の場合、主に監護する親を定めるかどうかは重要な設計ポイントです。監護者は監護・教育について単独で決定でき、意見が割れた場合は監護者の意向が優先します
- 監護の分掌:教育はこちら、医療はそちら、という分担を定めることもできます(詳しくは急迫の事情・監護の分掌の解説記事)
- 重要事項の決め方:連絡手段、返答期限、合意できないときの手順(ADR・調停の利用など)
- 養育費:金額・支払方法・終期。強制執行を見据えた書面にすること
- 親子交流:頻度・方法・受け渡しのルール
- 財産分与・年金分割:お金の清算も同時に
この設計は、離婚後の数年間の生活の質を左右します。そして、取り決めの質は「いざ揉めたとき」に効いてきます。
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共同親権か単独親権かの判断は、ご家庭ごとの事情——お子さんの年齢、父母の関係、住まい、仕事——によって答えが変わります。当事者だけの話し合いでは、感情的になって前に進まないことも少なくありません。
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実例で考える——同じ「共同親権希望」でも結論は分かれる
ケースA:共働き夫婦。離婚原因は性格の不一致。別居後も子どもの学校行事には両方が参加し、LINEでの事務連絡は機能している。
共同親権が機能しやすい典型です。監護者を母と定めて日常は母が回し、進学・医療は共同決定、費用分担と長期休暇の過ごし方を分掌で明確化——という設計が考えられます。この場合の共同親権は、父の「親であり続ける実感」と母の「決定責任の分担」の両方に資する可能性があります。
ケースB:離婚原因は父の浪費と借金。連絡すると口論になり、子どもの学費用の口座にも手を付けた過去がある。父は「共同親権でなければ離婚しない」と主張。
共同親権にすると、重要事項のたびに対立が再燃し、子どもに関する決定が滞るリスクが高い事案です。財産管理の面でも不安が残ります。単独親権を基本に、親子交流で父子関係を維持する設計が子の利益にかなうでしょう。「共同親権にしないなら離婚しない」という圧力に合意で応じる必要はなく、調停・裁判では子の利益を基準に判断されます。
共同親権の「落とし穴」3つ——選ぶ前に知っておく
落とし穴①:連絡コストを見積もっていない
共同決定には連絡が必要です。「誰が・何を・いつまでに・どの手段で」を決めていないと、進学シーズンのたびに消耗します。
落とし穴②:再婚・転居のときに問題が顕在化する
将来の転居(居所の変更)や再婚後の生活は、共同親権下では他方との調整が必要になり得る典型場面です。数年後のライフイベントまで想像して選んでください。
落とし穴③:「対等の証」として親権の形にこだわる
共同親権は勝ち負けの証明ではありません。形にこだわって取り決めの中身(養育費・交流・分担)が疎かになるのは、本末転倒です。
決めた後でも変更できる——ただし裁判所の手続が必要
「一度決めたら一生そのまま」ではありません。家庭裁判所への申立てにより、共同親権→単独親権、単独親権→共同親権のいずれの変更も可能です(改正民法819条6項)。
ただし、変更には裁判所が「子の利益のため必要」と認めることが要件で、離婚時の協議の経過や取り決めの状況も考慮されます。「とりあえず決めて、ダメなら変えればいい」と安易に考えるのではなく、最初の取り決めを丁寧に行うことをおすすめします。変更の詳細は親権者変更の解説記事をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 相手が「絶対に共同親権」と譲りません。どうすればいいですか?
A. 合意ができなければ、最終的には家庭裁判所が子の利益を基準に判断します。その前段として、中立の第三者(ADR・調停)を交えて、お互いの本当の関心事(決定への関与か、交流か、対等性か)を整理すると、突破口が見つかることが多くあります。
Q2. 共同親権にすると養育費は安くなりますか?
A. 親権の形そのもので養育費の算定が変わるわけではありません。養育費は父母の収入や監護の実情等をもとに決まります。「共同親権にするから養育費は不要」という主張は法的に正しくありません。
Q3. 子どもの意見は反映されますか?
A. 裁判所の手続では、子の年齢・発達に応じて意向や心情が考慮されます。家庭裁判所調査官による調査が行われることもあります。協議で決める場合も、子どもの気持ちに耳を傾けることが、機能する取り決めの土台になります。
Q4. 別居中でまだ離婚していません。今の親権はどうなっていますか?
A. 婚姻中は父母の共同親権です。離婚時にどちらの形を選ぶかが今回のテーマであり、別居中の監護・親子交流のルールは別途取り決めることができます。
Q5. 海外では共同親権が主流と聞きました。日本もそうすべきでは?
A. 諸外国では離婚後の共同親権(共同監護)を採用する国が多いのは事実ですが、各国とも運用上の課題(DV事案の扱い、対立の持ち込みなど)を抱え、制度の修正を重ねています。日本の改正法は、選択制と義務的単独親権のルールを組み合わせた設計です。制度の一般論より、あなたのご家庭で機能するかどうかで判断してください。
Q6. 離婚協議中です。親権の合意だけ先にして、他は後回しにできますか?
A. 法律上は可能ですが、おすすめしません。親権の形は、監護・養育費・交流の設計とセットで初めて意味を持ちます。特に「共同親権に合意する代わりに養育費を減らす」といった取引は、後々の紛争と子の不利益につながりがちです。全体をパッケージで合意し、書面化してください。
Q7. 共同親権を選んだ場合、住民票や学校の手続は複雑になりますか?
A. 日常の手続は基本的に従来どおりです。学校の申請書は一方の親の署名で進められることが法務省の資料で整理されており、監護者は転校等の手続を単独で行えます。
迷いは悪いことではない——決め方のプロセスが質を決める
最後にひとつ。共同か単独かで迷っている方は、むしろ健全です。迷いは「子どもにとって何が良いか」を真剣に考えている証拠であり、即断した親権の形より、丁寧なプロセスを経た取り決めのほうが、長持ちします。相手と直接話すのが難しければ第三者を挟む、感情が高ぶったら一晩置く、決める前に専門家の視点を一度入れる——このプロセス自体が、離婚後の共同養育(あるいは単独養育+交流)の予行演習になります。
まとめ
- 共同親権と単独親権は選択制。基準は常に「子の利益」
- DV・虐待のおそれがある場合、裁判所は必ず単独親権を定める
- 共同親権が機能するのは「離婚後も子育ての協力ができる父母」。難しければ単独親権+充実した交流・確実な養育費という設計が現実的
- 親権の形より、監護・養育費・交流・決定ルールの中身が生活を決める
- 決めた後の変更は可能だが裁判所の手続が必要。最初の取り決めを丁寧に
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執筆・監修:弁護士 佐々木裕介(株式会社チャイルドサポート)
典拠:民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)/東京改正家族法研究会「改正家族法の要点と解説Ⅰ 第1章 離婚後の親権者の定め・第3章 監護者の定め、監護の分掌」家庭の法と裁判58号

