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法定養育費とは?取り決めなしでも子1人月2万円を請求できる新制度を弁護士が解説【2026年4月施行】

2026 7/05
2026年法改正 養育費
2026年7月5日
法定養育費とは?取り決めなしでも子1人月2万円を請求できる新制度を弁護士が解説【2026年4月施行】

「養育費の取り決めをしないまま離婚してしまった。もう請求できないのでは……」

そう思って諦めていた方に、知ってほしい制度ができました。法定養育費です。

2026年4月1日に施行された改正民法により、養育費の取り決めをせずに離婚した場合でも、子ども1人あたり月額2万円の養育費を、法律に基づいて当然に請求できるようになりました。

この記事では、離婚と養育費の問題を専門に扱う弁護士・佐々木裕介が、法定養育費の仕組み・対象者・請求方法・注意点を解説します。

この記事でわかること

  • 法定養育費とは何か、金額はいくらか
  • 誰が対象になるのか(いつ離婚した人から適用されるか)
  • いつからいつまでもらえるのか、未払い分は遡って請求できるのか
  • 相手が払わない場合に差押えができるのか
  • 「月2万円」で満足してはいけない理由
目次
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法定養育費とは——「取り決めがない」を理由に諦めなくていい制度

法定養育費とは、父母が養育費(子の監護に要する費用の分担)の取り決めをしないまま協議離婚をした場合に、取り決めができるまでの間、法律の規定に基づいて当然に発生する養育費です(改正民法766条の3)。

これまでの法律では、養育費の取り決めがなければ、別居親に具体的な支払義務は発生しませんでした。ひとり親家庭の半数以上が養育費の取り決めをしておらず、「取り決めていないから1円も受け取れない」という構造が、ひとり親家庭の貧困の大きな要因と指摘されてきました。

法定養育費は、この構造を変えるために創設された、いわば法律が用意した最低限のセーフティネットです。

金額は「子1人あたり月額2万円」

法定養育費の額は、法務省令により子1人あたり月額2万円と定められています。

  • 子ども1人 → 月額2万円
  • 子ども2人 → 月額4万円
  • 子ども3人 → 月額6万円

この金額は、子どもの最低限度の生活の維持に要する標準的な費用、実際の裁判・協議で取り決められている養育費の額、生活保護の生活扶助基準の考え方などを踏まえて定められたものです。子どもの年齢による区別はなく、シンプルに人数×2万円で計算します。

支払時期は毎月末。離婚の日から発生する定期金(毎月支払われるお金)として扱われます。

誰が対象?——3つの条件

法定養育費が発生するのは、次の条件を満たす場合です。

  1. 2026年4月1日(施行日)以後に離婚が成立したこと
  2. 養育費の取り決めをしないまま協議離婚したこと
  3. 離婚のときから引き続き、子どもの監護を主として行っていること(請求できるのは監護親)

逆に、次の場合には法定養育費は発生しません、または終了します。

  • 離婚と同時に養育費の合意が成立している場合(→合意した養育費が優先)
  • その後の協議・調停・審判で養育費の額が定まった場合(→その時点で法定養育費は役割を終える)

つまり法定養育費は、取り決めによる養育費の支払いがなされるまでの「つなぎ」としての暫定的・補充的な制度です。取り決めに取って代わるものではありません。

未払い分は後から請求できる

法定養育費は、請求した日からではなく、離婚の日から発生し続けています。まだ受け取っていない過去の分(未受取分)は、後からまとめて請求することが可能です。

たとえば2026年4月に取り決めなしで離婚し、子どもが1人いる方が同年12月に請求する場合、それまでの未受取分(約8か月分=約16万円)と、以後の毎月2万円を請求できるイメージです。

相手が払わないときは——差押え(強制執行)も可能

「請求しても、どうせ無視されるのでは」という不安に対しても、改正法は答えを用意しています。

法定養育費を含む養育費の債権には、一般先取特権という強力な権利が付与されました。これにより、裁判所の調停調書や公正証書(債務名義)がなくても、相手の給与や預貯金の差押えを申し立てる道が開かれています。給与については、手取り額の2分の1まで差押えの対象にできます。

さらに、家庭裁判所が相手に収入情報の開示を命じる「情報開示命令」の制度も新設され、正当な理由なく開示しない場合には過料の制裁があります。「相手の収入がわからないから請求できない」という壁も、低くなりました。

先取特権の仕組みについて詳しくは、養育費の先取特権の解説記事をご覧ください。

ケース別シミュレーション——いくら受け取れる?

ケース1:2026年5月に離婚、子ども1人、取り決めなし、現在まで未受取

2026年12月に請求する場合、法定養育費は離婚の日から発生しているため、5月〜11月分の未受取分(約14万円)に加え、以後毎月2万円を請求できます。さらに、並行して調停等で適正額(父母の収入によっては月4〜6万円等)を取り決めれば、以後はその金額に切り替わります。

ケース2:2026年4月に離婚、子ども2人、相手が「払わない」と拒否

法定養育費は月4万円(2万円×2人)。相手が任意に応じない場合でも、先取特権に基づく給与・預貯金の差押えを検討できます。相手の収入や勤務先が不明でも、裁判所を通じた情報開示・財産調査の手段があります。

ケース3:2026年3月以前に離婚した場合

法定養育費の対象外ですが、打つ手がないわけではありません。家庭裁判所の調停・審判で養育費を取り決めることは従来どおり可能で、取り決め後は改正法の先取特権(施行日以後の支払分)や強化された執行手続を活用できます。

支払う側にも配慮がある制度

なお、法定養育費には支払義務者(支払う側)を保護する仕組みもあります。支払能力を欠くために支払うことができない場合や、支払うことで生活が著しく困窮する場合には、免責等を主張できる制度設計になっています。

「相手に支払能力がないかもしれない」というケースでも、どこまで請求できるかは個別の事情によりますので、専門家に相談することをおすすめします。

法定養育費の請求方法——3つのステップ

STEP1:離婚日と子どもの人数を整理する
法定養育費の金額と未受取分は「離婚成立日」と「子どもの人数」で計算できます。戸籍謄本や離婚届受理証明書で離婚日を確認しましょう。

STEP2:相手方に請求の意思を伝える
内容証明郵便などの書面で、法定養育費の支払いを求める通知を送るのが基本です。金額の根拠(改正民法766条の3・法務省令)を明示すると、任意の支払いにつながりやすくなります。

STEP3:応じない場合は法的手続へ
支払いがなければ、先取特権に基づく差押えや、家庭裁判所での手続を検討します。並行して、本来の適正な養育費(多くの場合、月2万円より高額です)を調停等で取り決めることも視野に入れます。

とはいえ、「元配偶者と直接やり取りしたくない」「書面の作り方がわからない」という方がほとんどだと思います。その場合は、専門家に間に入ってもらうのが現実的です。

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注意点——「月2万円」はゴールではない

弁護士として、この点は強調しておきます。

法定養育費の月2万円は、本来の養育費よりも低い水準に設定された最低ラインです。

本来の養育費は、父母双方の収入や子どもの年齢等をもとに、裁判所の算定表などを参考に決めるもので、多くのケースで月2万円を上回ります。改正法自体が、父母の収入等を踏まえた適切な額をできる限り速やかに取り決めるべきだという立場を明確にしています。

したがって、賢い順序はこうです。

  1. まず法定養育費で足元の生活費を確保する(未受取分の回収も含めて)
  2. 並行して、適正額の養育費を取り決める(協議・ADR・調停)
  3. 取り決めた内容は、強制執行を見据えた書面にする

これから取り決めをする方・取り決めをやり直す方には、電子署名で強制執行を見据えた養育費合意書を作成できる「チャイルドサポートサイン」(合意書作成は無料)もご利用いただけます。

法定養育費でよくある3つの勘違い

勘違い①「請求した日からしか発生しない」
発生は請求日からではなく離婚の日からです。請求が遅れても、未受取分は遡って請求できます。ただし放置する期間が長いほど回収の難易度は上がるので、早めに動くに越したことはありません。

勘違い②「月2万円が新しい養育費の相場になる」
2万円は最低限の暫定額であり、相場ではありません。裁判所の算定表に基づく適正額は、父母の収入によってはこの数倍になります。2万円を受け取って満足してしまうのは、お子さんの権利を狭めることになりかねません。

勘違い③「調停や審判で取り決めた養育費が未払いの場合も法定養育費で請求する」
すでに取り決めがある場合、その未払い分は取り決めに基づいて請求・回収します(先取特権や強制執行の対象です)。法定養育費は「取り決めが何もない」場合の制度です。自分のケースがどちらかを整理することが、正しい請求の第一歩です。

法定養育費に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 2026年3月以前に離婚しました。法定養育費は請求できますか?

A. 法定養育費の制度は、施行日(2026年4月1日)以後に離婚が成立したケースに適用されます。ただし、施行前に離婚した方も、通常の養育費請求(調停・審判)は可能ですし、改正による先取特権や情報開示命令などの恩恵を受けられる場面があります。諦める前に一度ご相談ください。

Q2. 「養育費はいらない」と言って離婚しました。それでも請求できますか?

A. 個別の状況によります。合意の内容や経緯によって扱いが変わり得ますので、専門家にご相談ください。なお、養育費は子どものための権利であり、事情の変更があれば取り決めの変更を求められる場合もあります。

Q3. 法定養育費はいつまでもらえますか?

A. 父母間の協議や調停・審判で養育費の額が定まるまでの間です(定まった時点で法定養育費は終了し、取り決めた養育費に移行します)。取り決めがされない場合の上限は、子が成年に達するまでです。

Q4. 相手の住所や連絡先がわかりません。

A. 弁護士に依頼すれば、戸籍の附票などから現住所を調査して正式な通知を送ることが可能です(調査には別途費用がかかる場合があります)。

Q5. 再婚したら法定養育費はどうなりますか?

A. 再婚や養子縁組などの事情は、養育費の額や支払義務に影響し得ます。個別の事情によって結論が変わるため、専門家にご確認ください。

まとめ

  • 法定養育費とは、取り決めなしで離婚しても子1人あたり月2万円を請求できる制度(2026年4月1日施行)
  • 対象は、施行日以後に取り決めなしで協議離婚し、子を主に監護している親
  • 離婚の日から発生し、未受取分は後から遡って請求できる
  • 先取特権により、債務名義がなくても差押えを申し立てる道がある
  • ただし月2万円は最低ライン。適正額の取り決めをすることがゴール

「取り決めていないから」と諦めていた養育費が、法律で請求できる時代になりました。まずは、あなたが受け取れる金額を確認することから始めてください。

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執筆・監修:弁護士 佐々木裕介(株式会社チャイルドサポート)
典拠:民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)/今津綾子「令和6年改正家族法における養育費制度の概要と展望」家庭の法と裁判60号/民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令

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