「籍は入れないけれど、夫婦として生きていく」——事実婚を選ぶカップルは増えていますが、法律婚との違いを正確に知らないまま過ごすと、相続や税金の場面で思わぬ不利益を受けることがあります。結論からいえば、事実婚は生活面の権利義務では法律婚に近い保護を受けられる一方、「相続」と「税金」では大きな差があり、この差は契約書・遺言などの備えで埋めていく必要があります。この記事では、事実婚と法律婚の違いを分野別に整理し、損をしないための備えを弁護士監修のもとで解説します。
事実婚(内縁)とは
事実婚(内縁)とは、婚姻届は出していないものの、婚姻の意思を持って夫婦としての共同生活を送っている関係をいいます。単なる同棲との違いは「夫婦として生活する意思と実態」があるかどうかです。裁判実務では、内縁は「婚姻に準ずる関係」として一定の法的保護を受けるという考え方が確立しています。
事実婚であることを対外的に示す方法としては、住民票で世帯を合併し、続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」と記載する方法が代表的です。この記載は、社会保険の手続きなどで事実婚の証明として広く使われています。詳しくは住民票の続柄「妻(未届)」とは?書き方と効果をご覧ください。
法律婚とほぼ同じ扱いを受けられるもの
事実婚でも、夫婦としての実態があれば、次のような場面では法律婚に近い保護が及ぶと考えられています。
- 同居・協力・扶助義務、貞操義務:夫婦間の基本的な義務は事実婚にも準用されると解されており、婚姻費用(生活費)の分担も請求できます。
- 不当な破棄への慰謝料:正当な理由なく一方的に関係を破棄された場合、慰謝料請求が認められることがあります。第三者(不貞の相手方)への慰謝料請求も同様です。
- 関係解消時の財産分与:事実婚を解消する際、法律婚の財産分与の規定(民法768条)を類推適用するのが裁判実務です。詳しくは事実婚の財産分与・生活費はどうなるで解説しています。
- 社会保険:健康保険の被扶養者、国民年金の第3号被保険者、遺族年金の受給権者となる「配偶者」には、事実上婚姻関係と同様の事情にある人が含まれます。生計維持関係の証明(住民票の「未届」記載など)が求められます。
- 各種の法的保護:DV防止法の保護対象、労災の遺族(補償)給付、公営住宅の入居資格など、多くの制度で事実婚の配偶者が対象に含まれています。
法律婚と大きく異なるもの:ここで「損」が生じる
1. 相続権がない(最大の違い)
事実婚のパートナーには、相続権が一切ありません。何十年連れ添っても、遺言などの備えがなければ、パートナーの財産は法定相続人(子・親・兄弟姉妹など)に渡り、残されたパートナーは自宅からの退去すら迫られかねません。この点は遺言・生命保険などで必ず備えておくべき部分です。具体策は事実婚の相続対策:遺言・生命保険受取人の指定で詳しく解説しています。
2. 税制上の優遇が受けられない
税法上の「配偶者」は法律婚の配偶者に限られるため、事実婚では次の優遇が受けられません。
- 所得税の配偶者控除・配偶者特別控除
- 相続税の配偶者の税額軽減や、贈与税の配偶者控除(居住用不動産の贈与の特例)
- 遺贈で財産を受け取る場合の税負担も重くなりがちです(基礎控除の計算に入らない、税額の2割加算の対象になるなど)
一方、前述のとおり社会保険(健康保険・年金)では事実婚も「配偶者」に含まれます。「税金は法律婚のみ、社会保険は事実婚もOK」と覚えておくと整理しやすいでしょう。
3. 子どもに関する扱い
事実婚カップルの間に生まれた子どもは、法律上当然には父との親子関係が生じず、父の認知が必要です。認知により扶養義務や相続権が発生します。また、親権は原則として母の単独親権ですが、2026年4月施行の改正民法により、認知後に父母の協議で共同親権を選択できるようになりました。子どもに関する備えは事実婚の子どもと認知・養育費の取り決めで詳しく解説しています。
4. その他の違い
- 氏が変わらない:夫婦別姓を保てるのは事実婚のメリットでもあります。
- 姻族関係が生じない:相手の親族との法律上の関係(扶養等)は生じません。
- 医療同意・手術の立会い:法律上の家族でないことを理由に、病状説明や面会で困る場面が生じ得ます。運用は医療機関によるため、パートナーシップ合意書や医療に関する意思表示書面を備えておくと安心です。
- 嫡出推定がない:法律婚のような嫡出推定(民法772条)は働きません。
違いを埋める3つの備え
事実婚の「弱点」は、次の3点セットでかなりの部分をカバーできます。
- ①パートナーシップ合意書(できれば公正証書):生活費の分担、財産の帰属、医療時の対応、関係解消時の清算などを取り決めます。
- ②遺言:相続権がない以上、パートナーに財産を残すには遺言(遺贈)が事実上必須です。
- ③生命保険の受取人指定・各種手続き:住民票の「未届」記載、健康保険・年金の手続き、生命保険の受取人確認など、使える制度を確実に使う備えです。
事実婚と法律婚の違い(早見表)
| 項目 | 法律婚 | 事実婚 |
|---|---|---|
| 相続権 | 配偶者に相続権あり | 原則なし(遺言・生前対策で備える) |
| 子の親権 | 父母の共同(2026年4月改正で共同親権の枠組み) | 原則は母。父は認知で扶養義務が生じる |
| 氏(姓) | 同一の氏 | それぞれの氏のまま |
| 税の配偶者控除 | 要件を満たせば適用 | 原則適用されない |
| 健康保険の被扶養者・国民年金第3号 | 対象 | 生計維持等の要件を満たせば対象になり得る |
| 遺族年金 | 対象 | 生計維持関係の認定を受ければ対象になり得る |
| 婚姻費用の分担 | あり | 準婚として準用され得る |
| 財産分与(解消時) | あり | 生前解消では類推適用。死別では類推されない |
| 医療の同意・緊急連絡 | 親族として扱われやすい | 合意書・任意後見等で備える |
※ 制度の適用可否は要件・時点により異なります。個別の事情は専門家にご確認ください。
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まとめ
事実婚は、生活上の権利義務・社会保険・関係解消時の清算では法律婚に近い保護を受けられる一方、相続権がないこと、税制上の配偶者優遇がないこと、子どもに認知が必要なことという明確な違いがあります。これらの差は自動的には埋まりませんが、パートナーシップ合意書・遺言・保険や公的手続きの3点セットで計画的に備えることができます。おふたりの生き方に合った備えの設計は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
よくある質問
Q. 事実婚でも「配偶者」として健康保険の扶養に入れますか?
A. 入れる可能性があります。健康保険や年金の制度上の「配偶者」には、事実上婚姻関係と同様の事情にある人が含まれます。住民票の「妻(未届)」「夫(未届)」の記載などで生計維持関係を証明するのが一般的です。
Q. 事実婚のパートナーが亡くなったら、財産は受け取れませんか?
A. 相続権はないため、遺言や生命保険などの備えがなければ原則として受け取れません。遺族年金は事実婚でも対象になり得るなど、制度によって扱いが異なります。生前の備えが重要です。
Q. 事実婚を「証明」するにはどうすればいいですか?
A. 住民票の続柄「妻(未届)」「夫(未届)」の記載が代表的な証明手段です。あわせてパートナーシップ合意書(公正証書)を作成しておくと、婚姻意思と共同生活の実態を示す資料になります。
Q. 事実婚でも夫婦別姓のまま子どもを育てられますか?
A. 可能です。ただし子どもと父の法律上の親子関係には認知が必要で、子どもの氏や親権のあり方には法律婚と異なる点があります。あらかじめ取り決めと手続きを確認しておきましょう。
Q. 住民票の続柄は何と書けばよいですか?
A. ふたりの世帯を合併し、世帯主でない方の続柄を「妻(未届)」「夫(未届)」として届け出るのが一般的です。この記載は健康保険・年金・遺族年金などの手続きで事実婚の証明資料として使われます。書き方と効果の詳細は住民票の続柄「妻(未届)」とは?書き方と効果で解説しています。具体的な手続きはお住まいの市区町村窓口でご確認ください。
Q. 事実婚から法律婚に切り替えた場合、事実婚だった期間は考慮されますか?
A. 場面によります。戸籍上の婚姻期間は届出日から数えられますが、財産分与では婚姻届出前の内縁期間に形成した財産も清算の対象に含めて扱われることが多く、社会保険の生計維持認定などでも同居実態が考慮されることがあります。個別の扱いはご確認ください。
第二東京弁護士会所属/弁護士登録番号 48715/チャイルドサポート法律事務所 代表
家族の法律問題(離婚・養育費・再婚・事実婚・相続)を専門に取り扱う。

