事実婚のカップルに子どもが生まれたとき、法律婚と大きく異なるのは「父と子の親子関係が自動では生じない」という点です。結論からいえば、父の「認知」があってはじめて、子どもは父に対する扶養(養育費)や相続の権利を持ちます。認知と養育費の取り決めは、子どもの将来を守るための土台です。この記事では、認知の方法と効果、養育費の取り決め方を弁護士監修のもとで解説します。
なぜ認知が必要なのか
法律婚の夫婦に生まれた子どもは、法律上当然に夫の子と推定されます(嫡出推定)。これに対し、事実婚のカップルに生まれた子どもは、出生の時点では母とだけ法律上の親子関係があり、父とは法律上他人です。父がどれだけ実際に育てていても、認知がなければ次の権利が発生しません。
- 父に対する扶養請求権(養育費)
- 父の相続権
- 父の氏を名乗る、父を親権者にするなどの選択肢
逆にいえば、認知さえしておけば、これらの点で子どもは法律婚の子とほぼ同じ立場に立てます。なお、認知された子(嫡出でない子)の相続分は、平成25年の民法改正により嫡出子と同等です。
認知の方法:3つのルート
1. 任意認知(基本の方法)
父が市区町村に認知届を出す方法です(民法779条)。父母が合意しているなら、出生届とあわせて(または出生後速やかに)認知届を出すのが最もシンプルです。子どもが胎児の間に認知する「胎児認知」も可能で(民法783条)、この場合は母の承諾が必要です。出生前に父子関係を確定させておけるため、事実婚カップルには実務上よく勧められる方法です。
2. 遺言による認知
認知は遺言でもできます(民法781条2項)。ただし、生前に認知しない事情があるケースの手段であり、事実婚として共同生活しているなら、生前の任意認知を先に検討すべきでしょう。
3. 認知の訴え(強制認知)
父が認知に応じない場合、子・母などは認知の訴えを起こすことができます(民法787条)。父の死亡後でも3年以内であれば提起できます。現在はDNA鑑定により父子関係の立証が比較的確実にできるため、認知を拒み続けることは現実的には困難です。訴えの前に、家庭裁判所の調停(認知調停)を経るのが原則です。
認知の効果は出生時にさかのぼる
認知の効力は子どもの出生時にさかのぼって生じます(民法784条)。そのため、認知前の期間分の養育費(監護費用)についても、認知後に分担を求める余地があります。どこまで認められるかは事案によるため、専門家にご確認ください。
認知と親権は別問題——改正民法で選択肢が広がった
誤解されやすいのですが、認知と親権は別の問題です。認知は「法律上の父子関係を作る」手続きであり、認知をしても、親権は当然には父に移らず、原則として母の単独親権のままです。従来は、父母の協議で父を親権者と定める(単独親権の移転)ことしかできませんでしたが、2026年4月施行の改正民法により、認知した父と母の協議で「父母双方を親権者」とする共同親権を選択できるようになりました。事実婚のまま共同で子育てをしたいカップルにとって重要な選択肢です。制度の詳細や届出の運用は施行後の実務によるところがあるため、選択にあたっては最新の情報をご確認ください。
養育費の取り決め方
事実婚の解消に備えて「先に」決めておく
事実婚が続いている間は、父母双方が生活費・養育費を分担しているのが通常です。問題は関係を解消したときで、認知があれば、離婚後の養育費と同じように、父に対して子どもの養育費を請求できます。解消時には養育費のほか財産の清算なども論点になります。全体像は事実婚を解消するときの取り決めと公正証書をご覧ください。金額は、家庭裁判所が公表する養育費算定表の考え方をベースに、双方の収入から算出するのが実務です。
取り決めの手順も離婚時と同様です。
- ①父母間の協議:金額・支払期間・支払方法を合意し、書面化する
- ②強制執行認諾文言付き公正証書にする:不払い時に給与差押えなどの強制執行が可能になります
- ③協議できなければ家庭裁判所の調停・審判:認知済みであれば、婚姻歴がなくても申立てできます
取り決めておきたい項目
- 養育費の月額と支払日・振込先
- 支払いの終期(「満20歳に達する日の属する月まで」「大学卒業まで」など具体的に)
- 進学・病気など特別な出費の分担ルール
- 収入の大きな変動があった場合の見直し条項
- 面会交流の方針(解消後の親子交流)
なお、2026年4月施行の改正民法では、養育費債権に先取特権が付与されるなど、支払確保の仕組みが強化されています。新制度の適用関係はケースによるため、取り決めの際にあわせて確認するとよいでしょう。
パートナーシップ合意書に子どもの条項を入れる
事実婚カップルの場合、子どもに関する取り決めは、関係が円満なうちにパートナーシップ合意書の中で定めておくのが実務的です。認知の時期(胎児認知をするか)、養育方針、教育費の分担、万一関係を解消する場合の養育費・監護のルールなどを書面化しておけば、子どもの生活の安定につながります。合意書に盛り込むべき項目の全体像はパートナーシップ合意書に書くべき10項目をご覧ください。
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まとめ
事実婚の子どもにとって、認知は父との法律上の親子関係をつくる入口であり、養育費・相続などすべての権利の前提です。父母の関係が良好なうちに、胎児認知や出生後速やかな任意認知を行い、養育費や教育費の分担は公正証書で書面化しておくことが、子どもの将来を守る最善の備えになります。2026年施行の改正民法により共同親権の選択も可能になりました。ご家庭の形に合った設計は、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
よくある質問
Q. 認知しないまま父が亡くなったら、子どもは何も相続できませんか?
A. 認知がなければ法律上の親子関係がないため、原則として相続できません。ただし、父の死亡後3年以内であれば認知の訴えを提起でき、認知が認められれば相続権が生じます。遺言による認知という方法もあります。
Q. 認知すると、父の戸籍に子どものことが記載されますか?
A. はい。認知をすると父の戸籍に認知の事実が記載されます。家族に知られたくないという理由で認知をためらうケースもありますが、子どもの権利に直結するため、影響を理解したうえで判断すべき問題です。
Q. 事実婚を解消した場合、養育費はいつまで請求できますか?
A. 認知があれば、離婚後の養育費と同様に、子どもが自立するまでの分担を請求できます。過去の分をどこまでさかのぼれるかは事案により異なるため、早めの取り決めをおすすめします。
Q. 認知してもらう代わりに「養育費は請求しない」と約束させられました。有効ですか?
A. 養育費は子ども自身の生活のためのものであり、母が事前に放棄する合意をしても、子どもの扶養請求権まで消せるものではないと考えられています。約束の効力はケースによりますが、あきらめる前に専門家にご相談ください。
第二東京弁護士会所属/弁護士登録番号 48715/チャイルドサポート法律事務所 代表
家族の法律問題(離婚・養育費・再婚・事実婚・相続)を専門に取り扱う。

