同性のカップルがともに生きていくうえで、現在の日本の法制度には大きな空白があります。同性同士の法律婚は本記事執筆時点で認められておらず、婚姻に伴う相続権・税制優遇・法定の身分保障は自動的には得られません。結論からいえば、この空白を埋める現実的な手段が「パートナーシップ契約(合意書)」を核とした契約・書面の組み合わせです。この記事では、同性パートナーシップ契約の作り方と効力、あわせて整えるべき書面を弁護士監修のもとで解説します。
前提:同性カップルを取り巻く法制度の現在地
同性婚をめぐっては高等裁判所の判断が分かれ(違憲5件・合憲1件)、2026年3月に最高裁判所が大法廷での統一判断に向けて審理に入りました(判決時期は未確定)。現時点で法律上は同性婚が認められていないため、パートナーシップ合意書・任意後見契約・遺言などによる備えが引き続き重要です。また、多くの自治体がパートナーシップ宣誓制度を設け、証明書の交付を受けられるようになりました。
ただし、現時点で押さえておくべきなのは次の2点です。
- 自治体の宣誓制度は法律上の婚姻の効果(相続権・税制など)を生じさせるものではないこと
- 法改正の動向にかかわらず、いま使える備えは「契約と遺言」であること
制度の状況は変わり得るため、最新の動向はその都度ご確認ください。以下では、現行制度のもとでできる備えを解説します。
パートナーシップ契約でできること・できないこと
契約で「できる」こと
- 関係の確認:婚姻に準ずるパートナーとして共同生活を営む意思の確認。関係性を対外的に示す資料にもなります。
- 生活費・財産のルール:生活費の分担、財産の帰属、共同購入した住居・家財の持分の取り決め。
- 医療時の対応:入院・手術時のキーパーソン指定、医療情報開示への同意。
- 関係解消時の清算:財産の清算方法、住居からの退去ルールなど。同性カップルの関係解消に法律婚の財産分与の規定がそのまま適用されるかは確立していないため、契約で清算ルールを定めておく意義は事実婚以上に大きいといえます。なお近年は、同性カップルの関係にも内縁に準じた法的保護を認めた裁判例が現れています。
契約では「できない」こと
- 相続権を作ること:相続人の範囲は法律で決まっており、契約では変えられません。→ 遺言・生命保険で備えます。
- 婚姻に伴う身分効果:配偶者としての税制優遇、姻族関係、共同での特別養子縁組など、法律婚固有の効果は契約では生じません。
契約の作り方:ステップと実務ポイント
ステップ1:ふたりで決める(条項の設計)
盛り込む内容は、①関係の確認、②生活費の分担、③財産の帰属・管理、④医療時の対応、⑤解消時の清算・住まい、⑥死亡時の取り扱い(遺言との連携)、⑦見直し条項が基本セットです。条項ごとの書き方はパートナーシップ合意書に書くべき10項目で詳しく解説しています。
ステップ2:公正証書にする
私製の契約書でも有効ですが、公正証書にすることで、①合意の真正性への疑いを封じ、②金銭債務(生活費など)について強制執行認諾文言を付ければ不払い時の差押えが可能になり、③原本が公証役場に保管されるという大きな利点が得られます。医療機関や金融機関に関係性を示す場面でも、公正証書は私製の書面より信頼されやすいのが実情です。
ステップ3:自治体の宣誓制度と組み合わせる
お住まいの自治体にパートナーシップ宣誓制度があれば、利用を検討しましょう。公営住宅の入居、病院での面会、自治体サービスなどで「使える場面」が広がっています。民間でも、生命保険の受取人指定や携帯電話の家族割、住宅ローンのペアローンなどで、宣誓制度の証明書や公正証書を要件に同性パートナーを認める例が増えています。
契約とあわせて整えるべき書面
パートナーシップ契約は「生きて、判断能力があるうち」のルールです。人生の全期間をカバーするには、次の書面との組み合わせが欠かせません。
- 遺言(公正証書遺言推奨):同性パートナーには相続権がないため、財産を残すには遺言が事実上必須です。遺留分(相手方の親など)への配慮も必要です。考え方は事実婚の相続対策:遺言・生命保険受取人の指定と共通します。
- 生命保険の受取人指定:同性パートナーを受取人として認める保険会社が増えています(宣誓制度の証明書等が求められることがあります)。
- 任意後見契約:将来、判断能力が低下したときに、パートナーを後見人として財産管理・身上保護を任せる契約です。公正証書で作成します。
- 死後事務委任契約:葬儀・埋葬、入院費の精算、住居の引き払いなど、死後の手続きをパートナーに託す契約です。親族との対立が想定される場合には特に重要です。
なお、パートナーと養子縁組をして法律上の親子になる方法が使われた時代もありますが、関係の実態と異なる親子関係を作ることには、縁組意思をめぐる法的リスクや、婚姻の可能性への影響など慎重に検討すべき点があります。安易な利用はおすすめできません。
効力を保つための運用
- 実態と書面を一致させる:住民票の世帯合併、家計の共同管理など、契約に書いた共同生活の実態を伴わせることが、いざというときの説得力になります。
- 節目ごとに見直す:転職・住宅購入・親の介護・法制度の変更など、前提が変わったら条項を見直しましょう。
- 書面一式の保管場所を共有する:契約書・遺言・保険証券の保管場所と連絡先(公証役場・専門家)を互いに把握しておきましょう。
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まとめ
同性カップルには法律婚による自動の保障がない分、パートナーシップ契約(公正証書)を核に、遺言・生命保険・任意後見・死後事務委任を組み合わせて、生活から死後までを自分たちで設計する必要があります。裁判所や自治体・民間サービスの動きは着実に広がっており、書面の備えが「使える場面」も増え続けています。おふたりの関係と財産に合わせた設計は、同種の案件に対応している専門家へ相談しながら進めることをおすすめします。
よくある質問
Q. 自治体のパートナーシップ証明があれば、契約書は不要ですか?
A. 宣誓制度は対外的な証明として有効ですが、財産・生活費・清算・医療などの権利義務は定められません。証明は宣誓制度、権利義務の設計は契約書と役割が異なるため、併用がおすすめです。
Q. パートナーシップ契約を結べば、パートナーの財産を相続できますか?
A. できません。相続人の範囲は法律で定められており、契約では変えられないためです。財産を残すには遺言(遺贈)や生命保険の受取人指定が必要です。
Q. 同性カップルでも、別れるときに財産分与を請求できますか?
A. 近年は同性カップルの関係にも内縁に準じた保護を認めた裁判例がありますが、法律婚や事実婚ほど確立しているとはいえません。だからこそ、契約で清算ルールを定めておくことが最も確実な備えになります。
Q. 将来同性婚が法制化されたら、作った契約は無駄になりますか?
A. 無駄にはなりません。契約や遺言は法制化までの空白を埋める現実の備えですし、法制化後も財産管理や医療などの合意として意味を持ち得ます。制度が変わった時点で内容を見直せば十分です。
第二東京弁護士会所属/弁護士登録番号 48715/チャイルドサポート法律事務所 代表
家族の法律問題(離婚・養育費・再婚・事実婚・相続)を専門に取り扱う。

