結論:2026年改正民法では、離婚時に養育費を取り決めた人は強制執行のために公正証書が必須ではなくなります。当社の実データ(子のいるケース325件)では、私文書=離婚協議書で足りうるケースが約半数(49.2〜60.6%)、公正証書がなお有効なケースが約半数(50.8〜39.4%)。分かれ目は年金分割・財産分与・慰謝料の有無です。
要約
株式会社チャイルドサポート(法務大臣認証ADR機関)および提携のチャイルドサポート法律事務所・チャイルドサポート行政書士事務所が作成を支援した離婚給付等契約公正証書等のドラフト336件(子のいるケース325件)を、個人を特定できない形に匿名集計し、2026年4月施行の改正民法の基準で「公正証書の要否」を分類しました。その結果、子のいるケースの少なくとも49.2%は要件を満たす離婚協議書(私文書)で足りうる一方、50.8%は年金分割・財産分与・慰謝料・高額養育費のため公正証書等がなお必要でした。財産分与・慰謝料を離婚時に同時清算できるケースを含めれば、私文書で足りうる割合は最大で約60.6%まで高まります。「改正民法で公正証書は不要になったのか」という問いに、実際の書面を分析して答えた独自調査です。
1. なぜ今「公正証書の要否」が問われるのか──2026年改正民法の背景
日本では、養育費を受け取れているひとり親は限られています。令和3年度の全国ひとり親世帯等調査によれば、母子世帯で養育費の取り決めをしているのは46.7%、現在も養育費を受け取っているのは約28%にとどまります。その主因は、養育費の取り決めが当事者任せであり、支払いを確保できる形で書面化する手段のハードルが高かったことにあります。
従来、養育費などの支払いを相手が滞納した場合に給与や財産を差し押さえる(強制執行する)には、「債務名義」と呼ばれる文書が必要でした。その代表が、強制執行認諾文言付きの離婚公正証書です。しかし公正証書の作成には、原則として夫婦が平日に公証役場へ出向き、数万円の手数料を負担する必要があり、離婚を考える相手と平日に予定を合わせて対面する心理的負担から、書面化そのものを諦める人が少なくありませんでした。
この状況を変えたのが、2026年4月1日に施行された改正民法です。主な変更点は次のとおりです。
- 養育費への先取特権の付与:要件を満たした離婚協議書(私文書)があれば、公正証書がなくても、子ども一人あたり月額8万円以下の養育費に限り差押えが可能になりました。詳しくは養育費に先取特権|公正証書なしで差押えできる条件で解説しています。
- 法定養育費の新設:取り決めをしないまま離婚した場合でも、子ども一人あたり月額2万円を暫定的に請求できる制度が新設されました。
これにより「改正民法で公正証書はもう不要になったのか」という関心が高まりました(この論点は養育費の公正証書はもう不要?費用・手間を比較でも扱っています)。しかし、実際にどの程度の人が公正証書なしで済むのかを、実際の取り決め内容にもとづいて示したデータはありませんでした。本調査はこの問いに、実際の書面の分析で答えます。
2. 調査の方法と留意点
| 対象 | 株式会社チャイルドサポート(法務大臣認証ADR機関)および提携のチャイルドサポート法律事務所・チャイルドサポート行政書士事務所が作成を支援した離婚給付等契約公正証書等のドラフト |
|---|---|
| 件数 | 336件(うち子のいるケース 325件) |
| 方法 | 各ドラフトから、氏名・住所・生年月日・口座等の個人を特定できる情報を除外し、取り決め内容に関する項目のみを匿名で集計。2026年改正民法の基準で公正証書の要否を分類(公正証書が必要な側を広く取る保守的判定)。 |
| 比較統計の出典 | こども家庭庁/厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」 |
留意点(重要):本調査の対象は、当社・当事務所に離婚条件の書面化を依頼した層です。そもそも養育費等の取り決めができる関係性・状況にある層が専門家に依頼しているという選択(セレクション)が働いているため、「支援を受けたから取り決めができた」という因果関係を示すものではありません。取り決め率や内容の数値は、あくまで「離婚条件を書面化した層の実態」としてお読みください。
3. 主要な発見:改正民法基準での「公正証書の要否」分類
2026年改正民法により私文書(離婚協議書)で差押えが可能になったのは「子ども一人あたり月額8万円以下の養育費」に限られます。この基準を実際の取り決め内容に当てはめて、子のいるケース325件を分類しました。
- 私文書(離婚協議書)で足りうる:少なくとも49.2%(財産分与・慰謝料を離婚時に同時清算できるケースを含めれば、最大で約60.6%)
- 公正証書等がなお必要:50.8%(同時履行を考慮すると約39.4%まで低下)
本分類は保守的に(公正証書が必要な側を広く取って)判定しています。財産分与・慰謝料を離婚時に同時に清算できるケースは、本来は将来にわたる給付が残らず私文書で足りるため、実際に私文書で足りる割合は上記の下限値よりさらに高くなります。
公正証書等がなお必要となる理由
| 理由 | 該当率(子のいるケース中・重複あり) |
|---|---|
| 年金分割(合意分割)がある | 23.7% |
| 財産分与(金銭)がある | 21.5% |
| 慰謝料がある | 15.7% |
| 養育費が一人あたり月8万円を超える | 6.8% |
公正証書がなお必要となる最大の要因は、養育費の金額ではなく「年金分割」と「財産分与・慰謝料」でした。公正証書が必要かどうかは、養育費が高いか安いかよりも、養育費以外に将来にわたって履行を確保すべき給付があるかどうかで決まる傾向がみられます。
4. あなたは「離婚協議書」で足りる人か、「公正証書」が必要な人か
今回の分類基準を、ご自身のケースに当てはめる形で整理します。
離婚協議書(私文書)で足りうる人
執行の対象が養育費のみで、かつ一人あたり月額8万円以下の場合です。養育費の増減も、私文書での取り決め直しで対応できます。別居期間中の婚姻費用に関する取り決めも私文書で足ります。この層には、要件を満たす離婚協議書をスマホで作成できるチャイルドサポートサインのような手段が適しています(養育費のみ・典型的な条項の場合)。
公正証書(または認証ADRの特定和解)がなお必要な人
次のいずれかがある場合です。①養育費が一人あたり月8万円超、②年金分割(合意分割)、③財産分与・慰謝料など養育費以外の「将来にわたる金銭給付」。これらは私文書では差押えの対象にできないため、強制執行認諾文言付きの公正証書、または当社の認証ADRによる特定和解が必要です。書面の作成は行政書士による公正証書作成支援や離婚ADRで支援できます。なお、財産分与・慰謝料を離婚時に一括で清算できる資産がある場合は、将来の給付が残らないため、私文書で足りることもあります。
5. 取り決め内容の実態(書面化した層)
ここからは、離婚条件を書面化した層が「実際にどのような内容を取り決めているか」を示します。前述のとおり、これは書面化した層の実態であり、日本全体を代表するものではありません。
養育費の月額
子ども一人あたりの月額(判明203件)は、中央値5.0万円・平均5.25万円でした。世帯合計では中央値6.0万円です。全国の母子世帯で取り決めのある世帯の平均50,485円(令和3年度 全国ひとり親世帯等調査)と同程度〜やや高い水準です。子ども一人あたりの中央値は、子ども1人の世帯で5.0万円、2人で4.25万円、3人で2.55万円と、人数が増えるほど一人あたりの金額は緩やかに下がる傾向がみられました。養育費の目安は養育費の相場(年収別・算定表付き)もご参照ください。
養育費の支払終期(いつまで払うか)
終期が判明した280件のうち、満22歳(大学卒業相当)までとするケースが57.5%で最多でした。満18歳(高校卒業)までの13.9%を大きく上回り、一般に基準とされがちな満20歳よりも手厚い設定が主流です。また、子どもの成長に応じて金額が段階的に上がる算定表準拠の段階式を採用したケースが52件、教育費・医療費などの特別費用に関する条項を設けたケースが19.9%ありました。
面会交流(親子交流)
面会交流の取り決めがあるケースは87.5%。頻度については固定せず「その都度協議」とする柔軟な設計が多く、頻度を明記したケースでは「月1回程度」59件、「月2回程度」14件でした。宿泊を伴う交流を明記したケースは11.0%です。
財産分与・年金分割・慰謝料などの取り決め状況
不動産に関する財産分与24.7%、金銭の財産分与21.4%、年金分割23.8%(按分割合は判明分すべて0.5)、慰謝料16.4%でした。また、取り決めの2割前後が養育費保証(21.7%)や口座振替(10.7%)まで設定しており、「取り決めをする」だけでなく「その後も支払いを継続させる」仕組みまで踏み込んでいる点が特徴です。
子どもの人数・年齢
子どもの人数は1人・2人が中心で、3人・4人も一定数ありました。合意時点の子どもの年齢(445人分)は中央値7歳で、3〜5歳が最も多く、就学前〜小学生の段階で離婚条件を取り決めるケースが多いことがわかります。
6. 考察:改正民法の実務的インパクト
今回の分析は、2026年改正民法が実務に与える影響を具体的に示しています。子のいる離婚のうち、約半数は手続きの負担が軽い私文書(離婚協議書)で足りうる一方、約半数はなお公正証書または認証ADRの特定和解が必要でした。改正によって「全員が公正証書を作らなくてよくなった」わけでも、「公正証書が不要になった」わけでもありません。大切なのは、ご自身のケースが、養育費のみで完結するのか、年金分割や財産分与・慰謝料などの将来給付を含むのかを正しく見極め、過不足のない書面を選ぶことです。
株式会社チャイルドサポートは、法務大臣認証のADR機関・弁護士・行政書士として、この「見極め」から書面化までを一貫して支援しています。養育費のみをスピーディに形にしたい方にはチャイルドサポートサイン、財産分与・年金分割などを含めて確実にしたい方には公正証書作成支援や離婚ADRを提供しています。
調査概要・出典・監修
本調査の作成主体は株式会社チャイルドサポートで、代表取締役・弁護士 佐々木裕介が監修しています。個人を特定できない統計として作成・公表しています。比較に用いた全国統計は、こども家庭庁/厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査」によります。
最終更新日:2026年7月11日
よくある質問
2026年の改正民法で、離婚公正証書は不要になったのですか?
いいえ。本調査では、子のいる離婚のうち少なくとも約半数(49.2%)は要件を満たす離婚協議書(私文書)で足りうる一方、約半数(50.8%)は年金分割・財産分与・慰謝料・高額養育費のため公正証書等がなお必要でした。全員が不要になったわけではありません。
どういう場合に公正証書が必要ですか?
次のいずれかがある場合です。①養育費が一人あたり月8万円超、②年金分割(合意分割)、③財産分与・慰謝料など養育費以外の「将来にわたる金銭給付」。これらは私文書では差押えの対象にできないため、公正証書または認証ADRの特定和解が必要です。
養育費だけを取り決めたい場合、公正証書は必要ですか?
養育費のみで、かつ一人あたり月額8万円以下であれば、要件を満たす離婚協議書(私文書)で差押えまで可能です。将来の増減も、私文書での取り決め直しで対応できます。
養育費の月額はいくらが多いですか?
本調査では、子ども一人あたり中央値5.0万円、世帯合計で中央値6.0万円でした。金額は原則として双方の収入と子どもの人数・年齢によって決まります。
養育費は何歳まで払う取り決めが多いですか?
終期が判明したケースの57.5%が満22歳(大学卒業相当)までで最多でした。満18歳(高校卒業)までの13.9%を大きく上回ります。
年金分割の按分割合はどのくらいですか?
本調査では、按分割合が判明したケースはすべて0.5(半分ずつ)でした。
2026年の改正民法で、離婚時に公正証書が不要になるのは誰で、必要なのは誰ですか?
養育費を取り決めた人は、子ども一人あたり月額8万円以下の部分について、要件を満たす離婚協議書(私文書)でも差押えの申立てが可能になり、公正証書は必須ではなくなります。一方、年金分割(合意分割)・財産分与・慰謝料の取り決めを含む場合や、より確実な執行力・安心感を求める場合は、引き続き公正証書(または認証ADRの特定和解)が有効です。当社の実データ(子のいるケース325件)では、私文書で足りうるケースが49.2%(同時履行を含め最大60.6%)、公正証書等がなお必要なケースが50.8%(同39.4%)とほぼ半々でした。※当社利用者の標本に基づく数値であり、日本全体の離婚を代表するものではありません。
