
佐々木 裕介(弁護士・第二東京弁護士会)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚、調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。また、離婚ADRや養育費保証サービスを提供する株式会社チャイルドサポートの創業者・代表取締役。
離婚の際、夫婦が築いた共有財産を分け合う「財産分与」は、離婚後の生活設計を左右する重要な手続きです。そして財産分与の請求には期限があります。
2026年4月1日に施行された改正民法により、財産分与の請求期限は従来の「離婚から2年」から「離婚から5年」に延長されました。ただし、適用されるのは2026年4月1日以降に離婚した場合で、それ以前に離婚した方は従来どおり2年のままです。自分がどちらに当てはまるかで取るべき行動が変わるため、正確な理解が欠かせません。
本記事では、改正で何が変わったのか、期限の起算点、期限内に行うべき請求の方法、期限を過ぎてしまった場合の対応まで、実務的な観点から解説します。
財産分与の請求期限は「離婚から5年」【2026年4月〜】
改正で何が変わったか
財産分与請求権は民法第768条に規定された権利で、離婚が成立しても自動的に財産が分割されるわけではなく、当事者が請求する必要があります。同条第2項ただし書は、家庭裁判所への協議に代わる処分の請求について期間制限を定めており、改正民法によりこの期間が「離婚の時から2年」から「離婚の時から5年」に延長されました。
| 改正前 | 改正後(2026年4月1日〜) | |
|---|---|---|
| 請求期限 | 離婚の時から2年 | 離婚の時から5年 |
| 適用対象 | 2026年3月31日以前に離婚した場合 | 2026年4月1日以降に離婚した場合 |
延長の背景には、離婚直後は新生活の立て直しに追われて財産分与の検討まで手が回らない当事者が多く、2年では権利行使の機会として短すぎるという問題意識があります。とりわけ、相手の財産の調査には時間がかかるため、期間の延長は請求する側にとって大きな改善です。
【重要】自分はどちらに当てはまるか
- 2026年4月1日以降に離婚(する・した)方 → 請求期限は離婚から5年
- 2026年3月31日以前に離婚した方 → 請求期限は従来どおり離婚から2年。改正後も遡って延長されません
たとえば2025年10月に離婚した方の期限は2027年10月(2年)まで、2026年5月に離婚した方の期限は2031年5月(5年)までとなります。境目の前後で大きな差が生じるため、施行前に離婚した方は特に注意してください。
期限の法的性質 — 中断・延長はできない
この期間は一般的な「時効」とは異なる除斥期間と解されています。時効と違い、内容証明郵便を送っても期間はリセット(更新)されず、相手が権利を承認しても延長されません。期間の経過によって権利は当然に消滅します。
つまり、5年に延長されたとはいえ「期限内に権利行使を開始する」ことが絶対条件である点は変わりません。期限内に家庭裁判所へ調停を申し立てれば、その後の手続きが期限を超えて続いても問題ありません。
期限の起算点 — 「離婚の時」とはいつか
請求期限は「離婚の時」から起算されます。離婚の方法によって具体的な日が異なります。
| 離婚の方法 | 起算点 | 確認書類 |
|---|---|---|
| 協議離婚 | 離婚届が受理された日 | 戸籍謄本、離婚届受理証明書 |
| 調停離婚 | 調停成立日(離婚届の提出日ではない) | 調停調書、戸籍謄本 |
| 裁判離婚 | 判決確定日(言渡し日ではない) | 判決書、確定証明書、戸籍謄本 |
| 審判離婚 | 審判確定日 | 審判書、確定証明書、戸籍謄本 |
協議離婚では「夫婦間で離婚に合意した日」や「離婚届を書いた日」ではなく、役所に受理された日が基準です。裁判離婚では控訴期間(2週間)の経過などを経て判決が確定した日が基準になります。起算点の立証のため、受理証明書や確定証明書を保管しておきましょう。
なお、外国で離婚が成立した場合の起算点については見解が分かれており、個別の事案ごとに専門家への確認が必要です。
期限内に行うべき「請求」の方法
1. 当事者間の協議
第一段階は当事者間での話し合いです。申入れは口頭でも可能ですが、後日「言った・言わない」の争いを避けるため、内容証明郵便が最も確実です。申入れ書には、民法768条に基づく財産分与を求める旨、対象財産の概要、回答期限、応じない場合は調停を申し立てる旨を明記します。
協議がまとまったら、合意内容を必ず書面化してください。財産分与を含む離婚条件の書面化の方法は、離婚協議書の書き方と無料テンプレートで文例つきで解説しています。なお、財産分与の支払いに強制執行力を持たせたい場合は公正証書の作成が必要です(財産分与は養育費と異なり、先取特権の対象外のため)。
2. 家庭裁判所への調停申立て
協議がまとまらない場合、または相手が協議に応じない場合は、家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てます。期限内に調停を申し立てれば、その後手続きが期限を超えて続いても請求権は守られます。相手との協議が期待できないときは、早めの申立てが最も確実です。
必要書類は、調停申立書、夫婦の戸籍謄本、財産関係資料(通帳コピー・不動産登記事項証明書など)、収入印紙1,200円、連絡用郵便切手です。申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所(または合意した家庭裁判所)です。
調停では調停委員を介して話し合いが行われ、相手方に財産の開示を促してもらえる利点もあります。合意に至らない場合は審判に移行し、裁判官が財産分与の内容を決定します。
期限を過ぎてしまった場合の対応
期限(5年または2年)を経過すると、財産分与請求権は原則として消滅します。ただし、事案によっては別の法的構成で一定の救済を図れる場合があります。
- 慰謝料請求 — 相手の不貞行為やDVが離婚原因の場合、慰謝料請求権(損害及び加害者を知った時から3年等)は財産分与とは別個に行使できます。財産隠しによって適切な財産分与が妨害された場合も、不法行為として慰謝料請求の余地があります
- 不当利得返還請求 — 夫婦共有財産を相手が独占的に取得している場合、不当利得(知った時から5年・行使できる時から10年)として返還を求められる可能性があります
- 合意に基づく請求 — 離婚時に財産分与の合意(離婚協議書等)があった場合、その合意に基づく債権として請求できます。期限はあくまで「協議に代わる処分を家庭裁判所に求める」期間の制限であり、すでに成立した合意の履行請求は別問題です
- 信義則・権利濫用 — 相手の妨害行為により請求が困難だった場合、相手が期限の経過を主張することが制限される可能性があります
いずれも財産分与請求そのものより立証のハードルが高く、完全な救済にはなりません。期限内の権利行使に勝る対策はないことを前提に、早めに専門家へ相談してください。
実務上の注意点
財産調査には時間がかかる — 5年あっても早めに動く
財産分与には、預貯金、不動産、有価証券、保険の解約返戻金、退職金、負債(住宅ローン等)まで、財産の全容把握が必要です。相手名義の口座や親族名義の財産、暗号資産などは調査が難航しがちで、時間の経過とともに証拠は散逸し、財産は移転・費消されていきます。期限が5年に延びても、調査と証拠保全は早いほど有利です。
財産分与の対象範囲は財産分与の対象とは?共有財産と特有財産の違い、具体的な計算手順は財産分与の計算方法で解説しています。
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離婚前に決めておくのが最善
期限の問題が生じるのは「決めずに離婚した」場合です。最善の対策は、離婚届の提出前に財産分与を取り決め、書面化しておくことです。離婚後は相手が話し合いに応じなくなるリスクが急増します。
年金分割の期限も5年に延長(別の手続きに注意)
婚姻期間中の厚生年金記録を分割する年金分割の請求期限も、関連法令の改正により離婚から5年に延長されました(2026年4月1日以降に離婚した場合。同年3月31日以前の離婚は2年)。ただし年金分割は年金事務所での手続きが別途必要であり、財産分与の合意だけでは効力が生じません。詳しくは離婚時の年金分割ガイドをご覧ください。
よくある質問
Q1. 2026年3月より前に離婚しました。期限は5年になりますか?
なりません。5年の期限が適用されるのは2026年4月1日以降に離婚した場合で、それ以前に離婚した方は従来どおり離婚から2年です。期限が迫っている方は、早急に協議の申入れ(内容証明郵便)か調停の申立てを行ってください。
Q2. 期限内に内容証明を送れば、期限は延長されますか?
延長されません。この期間は除斥期間と解されており、時効のような更新(中断)の制度はありません。相手が協議に応じない場合は、期限内に家庭裁判所へ調停を申し立てることが確実な方法です。
Q3. 離婚時に「財産分与はしない」と合意してしまいました。今からでも請求できますか?
清算条項を含む有効な合意がある場合、原則として後から請求することはできません。ただし、合意が強迫による場合や、相手の財産隠しが後から判明した場合などは争える余地があります。個別の事情によるため、専門家にご相談ください。
Q4. 財産分与で受け取るお金にも強制執行力を持たせられますか?
離婚協議書(私文書)のままでは、財産分与には強制執行力がありません(2026年改正で先取特権が認められたのは養育費・婚姻費用のみです)。財産分与の分割払いなど将来の支払いがある場合は、強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことを強くおすすめします。
まとめ
- 財産分与の請求期限は、2026年4月施行の改正民法により離婚から5年に延長された(2026年3月31日以前に離婚した場合は従来どおり2年)
- 起算点は「離婚の時」(協議離婚は離婚届の受理日、裁判離婚は判決確定日)
- この期間は除斥期間であり、中断・延長は不可。協議が難しければ期限内の調停申立てが確実
- 期限経過後の救済(慰謝料・不当利得等)は限定的。離婚前に取り決めて書面化するのが最善の防御策
株式会社チャイルドサポートでは、財産分与を含む離婚条件の整理(離婚の問診票)から、離婚協議書・公正証書の作成支援、ADRによる合意形成まで、状況に合わせたサポートを提供しています。まずは無料ツールとテンプレートからはじめてください。
離婚の条件が固まったら、次は書面に残しましょう。書き方と無料テンプレートはこちらで解説しています。

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。

