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  4. 婚姻費用を払わない相手へどう対処するか|実務的な手続きと法的措置

婚姻費用を払わない相手へどう対処するか|実務的な手続きと法的措置

2025 10/01
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2025年9月30日2025年10月1日
目次
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1. 導入:婚姻費用未払いがもたらす影響と本記事の目的

別居中であっても、収入の多い配偶者は少ない配偶者に対して生活費を分担する義務があります。これが「婚姻費用」です。しかし、現実には約束した婚姻費用が支払われないケースが少なくありません。

婚姻費用の未払いは、受け取る側の生活に直結する深刻な問題です。家賃や子どもの学費、日々の食費など、生活の基盤が揺らぐことになります。感情的な対立が背景にあることも多く、当事者は冷静さを失いがちですが、ここで重要なのは「感情ではなく手続き」に沿った対応です。

法律は婚姻費用の支払いを受ける権利を保護しており、適切な手順を踏めば未払い分を回収できる可能性があります。一方で、間違った方法で対応すると、かえって解決を遠ざけたり、自分が法的な問題を抱えることにもなりかねません。

本記事では、婚姻費用が支払われない場合の初動対応から、家庭裁判所での手続き、最終的な強制執行まで、実務的な流れを段階的に解説します。「何から始めればいいのか」「どの時点でどんな手続きが必要か」を具体的に理解することで、適切な対処ができるようになるでしょう。

婚姻費用の未払いに直面している方、これから請求を考えている方にとって、この記事が実践的な指針となることを目指しています。

2. 未払いが起きる主な理由と初動確認事項

婚姻費用が支払われない理由は、ケースによって大きく異なります。対処法を選ぶ前に、まず「なぜ支払われないのか」を冷静に分析することが重要です。

支払い能力の変化による停止

最も多い理由の一つが、相手の経済状況の変化です。失業、転職による収入減、病気や怪我による休職など、支払い能力そのものが低下している場合があります。この場合、相手に支払う意思はあっても、現実的に支払いが困難な状態です。

このようなケースでは、強硬な手段を取る前に、相手の状況を確認し、一時的な減額や支払計画の見直しを検討する余地があります。ただし、本当に収入がないのか、それとも口実なのかを見極める必要があります。

支払い意思の欠如

経済的には支払える状況にありながら、感情的な対立や悪意から意図的に支払わないケースも存在します。「別居した相手に払いたくない」「離婚を有利に進めるための駆け引き」といった理由で、支払いを拒否する場合です。

このような場合は、交渉だけで解決することは難しく、法的手続きを視野に入れた対応が必要になります。相手の支払能力があることを証明するための証拠収集も重要です。

連絡不備や単純ミスの可能性

意外に多いのが、振込先口座の変更を伝えていなかった、振込日を勘違いしていた、といった単純な連絡ミスです。特に別居直後や、口座変更があった際に発生しやすい問題です。

このケースでは、まず冷静に連絡を取り、事実関係を確認することで速やかに解決できます。いきなり法的措置を取ると、かえって関係を悪化させる可能性があります。

初動で必ず確認すべきこと

未払いに気づいたら、まず以下を確認してください。

契約や合意の有無と内容
婚姻費用の支払いについて、どのような取り決めがあるかを確認します。口頭での約束だけなのか、書面での合意があるのか、家庭裁判所での調停調書があるのか、公正証書が作成されているのか――この違いが、その後の対応を大きく左右します。

調停調書や公正証書など、強制執行が可能な「債務名義」があるかどうかは特に重要です。債務名義があれば、後述する強制執行の手続きを直接進めることができます。

支払いの記録
過去にどのように支払われてきたか、いつから未払いになったかを整理します。銀行の振込記録、通帳のコピー、支払いに関するメールやメッセージなど、客観的な記録を集めておきましょう。

相手の連絡先と所在
相手と連絡が取れる状態か、現住所は把握できているかを確認します。連絡が取れない、所在不明といった状況では、対応方法が変わってきます。

初動の確認作業を丁寧に行うことで、その後の対応がスムーズになり、無駄な時間やコストを削減できます。

3. 初期対応:まずやるべき3つのこと

婚姻費用の未払いに気づいたら、感情的に動く前に、以下の3つのステップを着実に進めることが重要です。

1)支払い状況を整理して記録を保存する

まず、支払いの履歴と未払いの状況を正確に把握します。

  • いつから支払われていないのか
  • 当初の約束ではいくら、いつ支払われるはずだったのか
  • これまでに支払われた金額と時期
  • 未払い分の合計額

これらを時系列で整理し、証拠となる資料を保存します。具体的には、銀行の振込明細、通帳のコピー、支払いに関するメールやLINEのやり取り、当初の合意書や調停調書などです。

スマートフォンのスクリーンショットや写真だけでなく、可能であれば原本やコピーを保管しておきましょう。将来的に調停や訴訟になった場合、これらの記録が重要な証拠となります。

また、未払いが続いている間も、記録を継続的に更新していきます。「○月○日時点で△△円の未払い」といった形で、定期的に状況を記録しておくと、後の手続きがスムーズです。

2)内容証明郵便で正式に請求する

口頭やメールでの催促だけでは、法的には「正式な請求」として弱い場合があります。そこで、内容証明郵便を使って書面で請求することをお勧めします。

内容証明郵便とは、「いつ、誰が、誰に、どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる制度です。配達証明をつけることで、相手に確実に届いたことも証明できます。

内容証明には、以下の内容を記載します。

  • 婚姻費用の支払い義務があること(合意や調停調書などの根拠)
  • 未払いの金額と期間
  • 支払いを求める期限(例:本書面到達後7日以内)
  • 支払先の口座情報
  • 支払いがない場合の法的措置の予告

文面は冷静かつ明確に、感情的な表現は避けます。弁護士に依頼して作成してもらうことも可能ですし、自分で作成することもできます。

内容証明を送ることで、相手に「真剣に請求している」という意思を示すとともに、後の法的手続きで「請求したことの証拠」として使えます。

3)相手の事情を確認し、仮の支払計画を提案する

内容証明を送った後、可能であれば相手と連絡を取り、支払いがない理由を確認します。ただし、直接会うのではなく、メールや電話など記録が残る方法が望ましいです。

相手が本当に失業や病気などで支払い能力が低下している場合、全額を即座に支払うことは困難かもしれません。その場合は、以下のような現実的な提案を検討します。

  • 一時的な減額(例:月10万円の予定を月5万円に)
  • 分割払い(例:未払い分20万円を5万円×4回で)
  • 支払い開始時期の猶予(再就職後からなど)

こうした合意ができた場合は、必ず書面化します。口約束だけでは後でトラブルになる可能性が高いため、簡単なものでも構わないので、合意内容を文書にして双方が署名・押印し、各自が保管します。

ただし、相手が単に支払いたくないだけで、正当な理由がない場合は、交渉を長引かせても無駄になることがあります。その見極めも重要です。

この初期対応の3ステップを踏むことで、話し合いで解決できる可能性がある場合は早期解決につながり、法的措置が必要な場合はその準備が整います。

4. 書面化と証拠整備の重要性

婚姻費用の未払い問題を解決する上で、最も重要なポイントの一つが「書面化」と「証拠の整備」です。これらが不十分だと、後の法的手続きで不利になったり、回収が困難になったりします。

債務名義の確認と取得

「債務名義」とは、強制執行(差押えなど)を行うための法的な根拠となる文書のことです。婚姻費用の場合、主に以下が債務名義になります。

調停調書
家庭裁判所で婚姻費用分担請求の調停が成立した際に作成される文書です。調停で合意した内容が記載されており、裁判所が認めた公的な文書として、そのまま強制執行の根拠になります。

審判書・判決
調停が不成立になった場合、審判や訴訟に移行します。その結果として出される審判書や判決も債務名義となります。

公正証書(執行認諾文言付き)
公証役場で作成する公正証書に「執行認諾文言」(支払いがない場合に強制執行されても異議を述べない、という条項)がついている場合、これも債務名義になります。

当事者間の合意書だけでは不十分
よくある誤解ですが、当事者同士で作成した合意書や念書は、それだけでは債務名義になりません。合意書がある場合でも、未払いが発生したら、それを根拠に家庭裁判所で調停や審判を申し立て、債務名義を取得する必要があります。

現時点で債務名義がない場合は、後述する家庭裁判所での手続きを通じて取得することを最優先に考えましょう。

支払い請求と未払いの記録保管

法的手続きでは、「いつ、何を、どのように請求したか」「相手がどう対応したか」が重要な証拠となります。以下のような記録をすべて保管しておきましょう。

送付した文書
内容証明郵便のコピー、配達証明の記録、その他の請求書や催促状など。

相手とのやり取り
メール、LINE、SMS、手紙など、婚姻費用に関するすべてのコミュニケーション記録。スクリーンショットだけでなく、可能であれば元データも保存します。

振込記録・未入金の記録
銀行の振込明細、通帳のコピー、入金予定日と実際の入金の有無を記録したメモなど。

相手の収入や資産に関する情報
給与明細、源泉徴収票、不動産登記簿、預金通帳など、相手から提供されたもの、または合法的に入手できたもの。これらは相手の支払能力を証明する重要な資料になります。

証拠の整理方法

証拠が大量にある場合、時系列で整理してファイリングすることをお勧めします。例えば、

  1. 当初の合意(調停調書・合意書など)
  2. 支払い履歴(振込記録を時系列で)
  3. 未払い発生後の請求(内容証明など)
  4. 相手とのやり取り(日付順)
  5. 相手の収入・資産に関する資料

といった形で分類しておくと、弁護士に相談する際や、裁判所に提出する際にスムーズです。

デジタルデータはバックアップを複数取り、紙の書類はコピーを作成して別々に保管するなど、紛失に備えた対策も重要です。

書面化の実務的なポイント

相手と何らかの合意ができた場合、必ずその内容を書面に残します。簡単なもので構いませんが、以下の要素は含めましょう。

  • 日付
  • 当事者双方の氏名
  • 合意内容(金額、支払方法、期日など)
  • 双方の署名・押印

可能であれば、2通作成して各自が保管します。

また、口頭での約束や電話での会話についても、会話後にメールで「本日の電話で○○について合意しました」といった確認メッセージを送ることで、記録として残せます。

書面化と証拠整備は地味な作業ですが、後の法的手続きの成否を左右する極めて重要な作業です。手間を惜しまず、丁寧に進めましょう。

5. 当事者間での交渉方法:現実的な手順

法的手続きに進む前に、まず当事者間での交渉を試みることは、時間とコストの節約につながります。ただし、交渉には限界もあるため、適切なタイミングで次のステップに進む判断も必要です。

話し合いによる分割払いや猶予の合意

相手に支払う意思がある場合、または経済的に困窮しているが誠実に対応しようとしている場合は、現実的な支払計画を再設定することで解決できる可能性があります。

分割払いの提案
未払い分が一定額に達している場合、一括払いは相手にとって負担が大きく、かえって支払いが滞る原因になります。例えば、未払い分30万円を月5万円ずつ6回払いで合意する、といった柔軟な対応が現実的です。

ただし、分割払いの期間中も、新たに発生する毎月の婚姻費用は別途支払ってもらう必要があります。「過去の未払い分の分割+今月分」という二重の支払いになる点を、相手が理解しているか確認しましょう。

一時的な減額や猶予
相手が失業中で再就職を目指している、病気で療養中など、一時的に支払能力が低下している場合は、期間限定での減額や支払猶予を検討することもあります。

例えば、「3か月間は月5万円に減額し、再就職後は当初の月10万円に戻す」「2か月間は支払いを猶予し、その後まとめて支払う」といった条件です。

書面化は必須
これらの合意ができた場合、必ず書面にして双方が署名・押印します。口約束だけでは、後で「そんな話はしていない」と言われるリスクがあります。

書面には、具体的な金額、支払日、支払方法、期間、合意が守られなかった場合の取り決めなどを明記します。専門的な文書である必要はありませんが、内容が明確であることが重要です。

弁護士を通じた交渉の効果

当事者同士の交渉が難航する場合、弁護士を代理人として立てることで状況が変わることがあります。

心理的圧力
弁護士からの正式な文書が届くことで、相手は「これは本気だ」「法的措置に進むかもしれない」と認識し、それまで無視していた支払いに応じることがあります。

法的根拠に基づく交渉
弁護士は法的な根拠を明確に示しながら交渉するため、感情的な対立を避け、冷静な話し合いが可能になります。

内容証明郵便の発送
弁護士名義で内容証明郵便を送ることで、単なる催促ではなく、正式な法的請求としての重みが増します。

ただし、弁護士に依頼するには費用がかかります。未払い金額が少額の場合、弁護士費用が回収額を上回ってしまうこともあるため、費用対効果を考慮する必要があります。

初回相談は無料や低額で受けられる弁護士事務所も多いので、まずは相談してみることをお勧めします。

支払能力が本当に低い場合の対応

相手の支払能力が本当に低下している場合、強硬な手段を取っても回収できない可能性があります。この場合は、以下のような現実的な対応を検討します。

減額交渉
家庭裁判所に婚姻費用の減額調停を申し立てるよう促す、または自分から事情を考慮した減額に応じることで、支払いを継続してもらう方が、全く支払われないよりは良い場合があります。

支払計画の再設定
相手の収入状況に合わせて、無理のない支払計画を再設定します。少額でも継続的に支払ってもらうことが重要です。

公的支援の活用
自分自身が生活に困窮している場合は、相手からの支払いを待つだけでなく、生活保護や児童扶養手当など、利用できる公的支援制度を並行して検討します。

見極めが重要
ただし、相手が本当に支払能力がないのか、それとも隠し財産があるのか、支払いたくないだけなのかを見極める必要があります。

相手の生活状況や収入について、可能な範囲で情報を集めましょう。SNSで派手な生活をしている、新しい車を購入しているなど、支払能力がありそうな兆候がある場合は、安易に減額に応じるべきではありません。

交渉の限界と次のステップへの判断

交渉を続けるべきか、法的手続きに進むべきかの判断は難しいものです。以下のような状況では、交渉を切り上げて次のステップに進むことを検討しましょう。

  • 何度請求しても無視される、連絡が取れない
  • 支払う意思が全くない、または不誠実な対応が続く
  • 約束した支払いが何度も守られない
  • 相手が「払う」と言いながら、実際には時間稼ぎをしているだけ
  • 未払い期間が長くなり、金額が大きくなっている

交渉が長引くほど、未払い金額は増え続けます。適切なタイミングで法的手続きに移行することが、最終的な回収成功につながります。

6. 家庭裁判所での手続き:調停・審判の活用

当事者間の交渉で解決しない場合、家庭裁判所での手続きに進みます。これは決して「最終手段」ではなく、適切な時期に利用すべき正式な解決方法です。

婚姻費用分担請求調停の申立て

家庭裁判所での最初のステップは、通常「婚姻費用分担請求調停」の申立てです。

調停とは
調停とは、裁判官と調停委員(民間から選ばれた専門家)が間に入って、当事者同士の話し合いを進める手続きです。訴訟のように勝ち負けを決めるのではなく、双方が納得できる解決を目指します。

申立ての方法
相手の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てます(ただし、合意があれば別の裁判所でも可)。申立てには以下の書類が必要です。

  • 婚姻費用分担請求調停申立書(裁判所の書式)
  • 夫婦の戸籍謄本
  • 収入に関する資料(源泉徴収票、給与明細など)
  • その他、未払いを証明する資料

申立ての際には、収入印紙(1200円程度)と郵便切手(数千円程度)が必要です。費用は比較的低額です。

調停の流れ
申立てから1~2か月後に第1回期日が設定されます。その後、月1回程度のペースで期日が開かれ、双方が交互に調停室に入って調停委員と話をします。

調停では、双方の収入、生活状況、子どもの有無や年齢などを考慮して、適切な婚姻費用の額を話し合います。未払い分についても、どのように支払うかを協議します。

調停委員は中立の立場で、双方の主張を聞きながら、妥当な解決案を提示してくれます。法的な視点からのアドバイスも得られるため、感情的にならずに現実的な解決を目指せます。

調停成立と調停調書の効力

双方が合意に達すると、調停が成立します。合意内容は「調停調書」という公的な文書にまとめられます。

調停調書の強力な効力
調停調書は、確定判決と同じ効力を持ちます。つまり、これがあれば、後で相手が支払わなかった場合に、すぐに強制執行(給与差押えなど)の手続きができます。

調停調書には、例えば以下のような内容が記載されます。

  • 「相手方は申立人に対し、令和○年○月から離婚成立まで毎月末日限り婚姻費用として金10万円を支払う」
  • 「相手方は申立人に対し、未払い分として金30万円を令和○年○月末日限り一括で支払う」

この記載が、そのまま強制執行の根拠になります。

調停のメリット
調停のメリットは、訴訟に比べて手続きが簡易で、費用も安く、解決までの時間も比較的短いことです。また、双方が納得して合意するため、その後の履行率も比較的高いと言われています。

調停不成立の場合:審判への移行

調停で話がまとまらず、不成立になった場合はどうなるのでしょうか。

自動的に審判手続きへ
婚姻費用分担請求の場合、調停が不成立になると、自動的に審判手続きに移行します(他の民事調停と異なり、訴訟ではなく審判になる点が特徴です)。

審判とは
審判では、裁判官が双方の主張と証拠を検討して、職権で婚姻費用の額を決定します。当事者の合意は必要なく、裁判官が判断を下します。

審判では、双方の収入、生活費、子どもの数や年齢などを基に、一般的には「婚姻費用算定表」を参考にして金額が決められます。算定表は裁判所が公表している基準で、双方の年収と子どもの数・年齢によって標準的な婚姻費用額が分かります。

審判の効力
審判が確定すると、審判書が作成されます。これも調停調書と同様に債務名義となり、強制執行が可能です。

審判に不服がある場合は、2週間以内に即時抗告(不服申立て)ができますが、抗告審でも判断が覆らない場合、審判は確定します。

家庭裁判所手続きのポイントと注意点

証拠の提出
調停や審判では、自分の主張を裏付ける証拠を提出することが重要です。収入を証明する書類、未払いの記録、生活費の実態を示す資料などを準備しましょう。

婚姻費用算定表の活用
裁判所は原則として婚姻費用算定表を基準に判断します。事前に算定表を確認し、自分のケースではおおよそいくらが妥当かを把握しておくと、交渉や主張がしやすくなります。

ただし、算定表はあくまで標準的なケースの目安であり、特別な事情(多額の住宅ローン、医療費、私立学校の学費など)がある場合は考慮される可能性があります。

弁護士の活用
調停や審判は本人だけで対応することも可能ですが、法的な知識がないと不利な条件で合意してしまったり、主張すべきことを主張できなかったりする可能性があります。

可能であれば弁護士に依頼する、少なくとも事前に相談してアドバイスを受けることをお勧めします。法テラスなどを利用すれば、経済的に余裕がない場合でも弁護士の支援を受けられます。

申立てのタイミング
婚姻費用は原則として「申立て時点」から認められることが多く、過去の未払い分すべてが認められるとは限りません。そのため、未払いが発生したら早めに申立てることが重要です。

家庭裁判所での手続きは、公正で客観的な基準に基づいて婚姻費用を決定し、債務名義を取得できる重要なステップです。躊躇せずに利用しましょう。

7. 強制執行の実務:回収手段と条件

調停調書や審判、公正証書などの債務名義を取得したにもかかわらず、相手が支払わない場合、最終的には「強制執行」という法的手段で回収を図ることになります。

強制執行とは

強制執行とは、裁判所の力を借りて、相手の財産を差し押さえて債権を回収する手続きです。債務名義があれば、相手の同意がなくても、裁判所に申立てることで差押えが可能になります。

強制執行は、民事執行法に基づいて行われ、地方裁判所に申立てます(家庭裁判所ではなく、地方裁判所である点に注意が必要です)。

強制執行の申立て条件

強制執行を申し立てるには、以下の条件を満たす必要があります。

債務名義があること
前述の調停調書、審判書、判決、執行認諾文言付き公正証書などが必要です。当事者間の合意書だけでは申立てできません。

債務名義に執行文が付与されていること
調停調書や審判書には通常、そのまま執行力がありますが、場合によっては家庭裁判所で「執行文」という文書を付与してもらう必要があります。

相手に送達されていること
債務名義の内容が相手に正式に送達されている必要があります。調停や審判の場合は通常問題ありませんが、公正証書の場合は送達手続きが必要なことがあります。

主な強制執行の種類と方法

強制執行にはいくつかの種類があり、相手の財産状況に応じて選択します。

給与差押え(債権執行)

最も一般的で実効性が高い方法が、相手の給与を差し押さえる方法です。

手続きの流れ
相手の勤務先が分かっている場合、地方裁判所に債権差押命令の申立てをします。裁判所が命令を出すと、勤務先に直接通知が行き、給与から一定額を差し引いて、こちらに支払うよう命じられます。

差押え可能な範囲
給与の全額を差し押さえることはできません。民事執行法により、手取り額の4分の1まで(ただし手取り額が44万円を超える場合は、33万円を超える部分全額)が差押え可能です。

婚姻費用や養育費など扶養義務に基づく債権の場合は、手取り額の2分の1まで差し押さえることができる特例があります。これは一般の債権よりも保護が厚い扱いです。

給与差押えのメリット
継続的に回収できる点が最大のメリットです。一度差押えをすれば、離婚成立や期限まで、毎月自動的に勤務先から支払われます。

注意点
相手の勤務先が分からない場合や、相手が転職・退職した場合は、給与差押えができなくなります。また、相手が自営業やフリーランスの場合、給与差押えは使えません。

預貯金差押え(債権執行)

相手の銀行口座を差し押さえる方法です。

手続きの流れ
相手が口座を持っている金融機関の支店名まで特定できれば、その預金を差し押さえることができます。裁判所が金融機関に差押命令を出し、口座が凍結されます。

効果と限界
預金がある時点で差し押さえれば、その残高の範囲で回収できます。ただし、差押え時点での残高しか対象にならないため、タイミングが重要です。

また、複数の金融機関に口座がある可能性があり、どこにどれだけの預金があるか分からない場合は、複数の銀行に対して申立てをする必要があります(費用もその分かかります)。

財産開示手続きとの併用
相手の口座がどこにあるか分からない場合、後述する「財産開示手続き」を利用して情報を得ることができます。

不動産差押え(不動産執行)

相手が不動産(土地・建物)を所有している場合、それを差し押さえて競売にかけ、売却代金から回収する方法です。

手続きと効果
登記簿で相手の不動産を特定し、地方裁判所に申し立てます。差押えが認められると、不動産が競売にかけられ、落札代金から債権が配当されます。

実効性の問題
不動産執行は手続きが複雑で、費用も高額(数十万円単位)になります。また、不動産にすでに住宅ローンなどの抵当権がついている場合、そちらが優先されるため、婚姻費用債権まで配当が回ってこない可能性があります。

婚姻費用のような比較的少額の債権では、費用対効果が合わないことが多く、現実的には選択されにくい方法です。

動産差押え(動産執行)

相手の自宅や事務所にある動産(家財道具、貴金属、車など)を差し押さえる方法です。

実効性は低い
実務上、動産執行はほとんど使われません。理由は、差し押さえできる動産が限られる(生活必需品は対象外)、換価価値が低いものが多い、執行官が自宅に立ち入る必要があり手続きが煩雑、といった点です。

婚姻費用の回収手段としては、現実的ではありません。

実効性を高めるポイント:相手の資産・勤務先の特定

強制執行を成功させる最大のカギは、「相手の財産や勤務先を正確に把握すること」です。

勤務先の調査
給与差押えをするには、相手の正確な勤務先(会社名、所在地)を知る必要があります。別居前に把握していた情報、相手から届く郵便物、SNSの投稿、共通の知人からの情報など、あらゆる手がかりを集めます。

預金口座の調査
相手がどこの銀行に口座を持っているか、通帳やキャッシュカード、振込記録、クレジットカードの引き落とし口座などから推測します。

財産開示手続きの活用
2020年の法改正により、「財産開示手続き」が強化されました。これは、債務者(相手)を裁判所に呼び出して、財産の状況を開示させる手続きです。

さらに、裁判所を通じて、銀行や市町村、年金事務所などに対して、相手の預金口座、不動産、給与支払者(勤務先)などの情報を照会できる「第三者からの情報取得手続き」も新設されました。

これらの手続きを利用することで、相手が財産を隠していても、ある程度の情報を得ることができるようになりました。

費用と手間
ただし、財産開示手続きや第三者情報取得手続きにも、それぞれ費用と時間がかかります。また、相手が正直に財産を開示しない場合もあります(その場合、過料などの制裁がありますが)。

強制執行の限界と現実

強制執行は法的に認められた強力な手段ですが、万能ではありません。

相手に資産がない場合
無職で収入がなく、預金もなく、不動産もない相手に対しては、差し押さえる対象がないため、強制執行をしても回収できません。

相手が財産を隠している場合
名義を他人に変えたり、現金で持っていたりすると、発見が困難です。財産開示手続きなどで追及はできますが、完全に把握するのは難しい場合もあります。

費用倒れのリスク
強制執行には、申立ての際に予納金(手続き費用)が必要です。給与差押えでも数千円、預金差押えは一金融機関あたり数千円、不動産執行では数十万円単位になることもあります。

回収できる金額が少ない場合や、回収できる見込みが低い場合は、費用倒れになるリスクがあります。

これらの限界を踏まえた上で、相手の状況を見極めて、実効性のある執行方法を選択することが重要です。必要に応じて、弁護士など専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

8. 回収が困難な場合の代替策と現実対応

すべてのケースで婚姻費用を完全に回収できるわけではありません。相手に本当に支払能力がない場合や、強制執行をしても実効性が低い場合は、現実的な代替策を検討する必要があります。

回収困難なケースとは

以下のような状況では、法的手段を尽くしても回収が難しいことがあります。

相手に回収可能な資産がない
無職で収入がなく、預貯金もゼロ、不動産などの資産もない場合、差し押さえる対象がありません。生活保護を受けているケースなども、実質的に回収は困難です。

相手の所在や資産状況が不明
相手と連絡が取れず、どこに住んでいるか、どこで働いているかが分からない場合、差押えの対象を特定できません。財産開示手続きを利用しても、相手が出頭しない、虚偽の申告をする、といったケースもあります。

回収コストが回収額を上回る
強制執行には費用がかかります。特に複数の銀行に預金照会をする、不動産執行をするといった場合、数十万円の費用がかかることもあります。未払い額が少額の場合、費用倒れになるリスクがあります。

分割合意と現実的な妥協

相手に全額を支払う能力がない場合でも、一部でも回収できるなら、それが現実的な解決になることがあります。

減額した金額での合意
例えば、本来は月10万円だが、相手の現在の収入では月5万円が限界、という場合、5万円でも継続的に支払ってもらう方が、ゼロよりは良い場合があります。

ただし、安易に減額に応じるのではなく、相手の収入状況を可能な限り確認し、本当に支払能力がないのかを見極めることが重要です。

現物給付や代替案
金銭での支払いが難しい場合、例えば「子どもの学費を直接支払う」「生活必需品を提供する」といった代替案を検討することもあります。

ただし、これらの方法は後でトラブルになりやすいため、詳細に合意内容を書面化し、記録を残すことが重要です。

公的扶助と支援制度の活用

相手からの支払いが期待できない場合、自分自身の生活を守るために、公的な支援制度を積極的に活用しましょう。

児童扶養手当

18歳未満(18歳到達後の最初の3月31日まで)の子どもを養育しているひとり親家庭などに支給される手当です。所得制限がありますが、婚姻費用が支払われず収入が少ない場合は対象になる可能性があります。

市区町村の窓口で申請します。月額最大44,140円(子ども1人の場合、2024年4月時点)が支給されます。

児童手当

中学校修了前の子どもを養育している人に支給される手当です。所得制限はありますが、多くの家庭が受給できます。別居中でも、子どもと同居している親が受給できます。

生活保護

収入が最低生活費に満たず、他に利用できる資産や制度がない場合、生活保護を受けることができます。婚姻費用の未払いで生活が困窮している場合も対象になり得ます。

福祉事務所に相談します。生活保護を受給している間、受給者に代わって、福祉事務所が相手に婚姻費用を請求することもあります。

住宅確保給付金

離職などにより住居を失うおそれがある場合に、家賃相当額を支給する制度です。一定の要件を満たせば、別居により経済的に困窮した場合にも利用できる可能性があります。

母子父子寡婦福祉資金貸付

ひとり親家庭の経済的自立を支援するための貸付制度です。生活資金、子どもの就学資金などを、無利子または低利で借りることができます。

都道府県・市の窓口に相談します。

法テラスの民事法律扶助

経済的に余裕がない人が法的トラブルを抱えた場合、弁護士費用の立替えや法律相談を無料または低額で受けられる制度です。

婚姻費用の回収に弁護士が必要だが費用が払えない、という場合に活用できます。

生活再建プランの検討

婚姻費用の回収が困難な状況では、相手からの支払いに頼らない生活再建プランを立てることも重要です。

就労支援の活用
専業主婦(主夫)だった場合や、パート勤務だった場合、フルタイムでの就労や収入アップを目指すことが、長期的には生活の安定につながります。

ハローワークでは、就職相談、職業訓練、資格取得支援などのサービスを提供しています。ひとり親向けの就労支援プログラムもあります。

スキルアップと資格取得
より良い条件で働くために、資格取得やスキルアップを目指すことも有効です。看護師、介護福祉士、保育士など、ひとり親家庭の親が資格を取得する際に支援する制度(高等職業訓練促進給付金など)もあります。

家計の見直し
収入を増やすと同時に、支出を見直すことも重要です。自治体や社会福祉協議会などで、家計相談を無料で受けられる場合があります。

心理的サポートの重要性

経済的な困窮は、心理的なストレスも大きくなります。一人で抱え込まず、周囲のサポートを得ることが重要です。

相談窓口の活用
各自治体には、ひとり親家庭向けの相談窓口があります。経済的な問題だけでなく、精神的なサポートも受けられます。

同じ立場の人とのつながり
ひとり親家庭の支援団体や、同じような状況の人たちのコミュニティに参加することで、情報交換や精神的な支えを得ることができます。

回収が困難な状況は辛いものですが、利用できる制度やサポートは意外に多くあります。諦めずに、一つずつ活用していくことが、生活の立て直しにつながります。

9. 未払い対策で注意すべきポイント:違法行為の回避

婚姻費用が支払われない状況では、感情的になり、つい過激な行動に出たくなることもあるかもしれません。しかし、違法な手段を取ると、かえって自分が法的責任を問われたり、今後の調停や裁判で不利になったりする可能性があります。

自力救済の禁止

「自力救済」とは、法的手続きを経ずに、自分の力で権利を実現しようとする行為です。日本の法制度では、原則として自力救済は禁止されています。

やってはいけない行為の具体例

相手の自宅や職場に押しかける
支払いを求めて相手の自宅に押しかけたり、職場に乗り込んだりする行為は、住居侵入罪や威力業務妨害罪に問われる可能性があります。

特に、大声を出したり、暴力的な言動をしたりすれば、脅迫罪や暴行罪になることもあります。

相手の財産を勝手に持ち出す
「婚姻費用を払わないなら、代わりにこれをもらう」と、相手の財産を勝手に持ち出す行為は、窃盗罪に該当します。

別居前の自宅に残してきた自分の私物を取りに行く場合も、相手の許可なく勝手に入ると住居侵入になる可能性があるため、事前に連絡を取るか、第三者(弁護士や警察)の立ち会いのもとで行うべきです。

相手の口座から勝手に引き出す
相手名義の銀行口座やクレジットカードから、勝手にお金を引き出す行為は、窃盗罪や不正アクセス禁止法違反になります。

夫婦であっても、相手名義の財産を無断で処分することはできません。

SNSでの晒し行為や誹謗中傷
「○○(実名)は婚姻費用を払わない最低な人間だ」といった内容をSNSに投稿する行為は、名誉毀損罪や侮辱罪、プライバシー侵害に該当する可能性があります。

たとえ事実であっても、公然と他人の社会的評価を下げる発言をすれば、名誉毀損になり得ます。

子どもを利用した圧力

子どもがいる場合、子どもを利用して相手に圧力をかけることは、子どもの福祉を害するだけでなく、法的にも問題になります。

面会交流の拒否を圧力に使う
「婚姻費用を払わないなら、子どもに会わせない」といった対応は、面会交流権を不当に妨害する行為として、後の調停や裁判で不利になります。

婚姻費用の支払いと面会交流は、それぞれ独立した権利・義務であり、一方を人質にとって他方を強要することは認められません。

子どもに相手の悪口を吹き込む
「お父さん(お母さん)は、私たちにお金を払ってくれない酷い人だ」といった内容を子どもに繰り返し伝えることは、子どもの精神的な健康を害します。

これは「片親疎外(Parental Alienation)」と呼ばれる問題で、後の親権や監護権の判断で不利に働く可能性があります。

プライバシーの侵害

相手の情報を得ようとするあまり、違法な方法を取ってはいけません。

不正な方法での情報取得
相手のメールやSNSアカウントに不正にアクセスする、GPSを無断で設置して位置情報を追跡する、といった行為は、不正アクセス禁止法違反やプライバシー侵害、ストーカー規制法違反になる可能性があります。

相手の勤務先や資産状況を調べる場合も、合法的な範囲で行う必要があります。探偵に依頼する場合も、違法な手段を用いないよう注意が必要です。

法的手続きの正しい利用

権利を実現するためには、必ず法的な手続きを通じて行うことが原則です。

正当な手続きを踏む
内容証明郵便での請求、家庭裁判所での調停・審判、地方裁判所での強制執行といった、法律で定められた手続きを順を追って進めることが重要です。

面倒に感じるかもしれませんが、これらの手続きを踏むことで、法的に保護され、確実に権利を実現できます。

弁護士や専門家の活用
法的知識がない状態で自己判断で行動すると、違法行為に該当してしまうリスクがあります。不明な点があれば、弁護士や法テラスなどの専門家に相談してから行動しましょう。

感情と法律のバランス

婚姻費用が支払われない状況は、感情的に辛く、怒りを感じるのは当然です。しかし、感情に任せて行動すると、自分が不利な立場に陥ったり、法的トラブルを抱えたりすることになります。

冷静さを保つ工夫
感情的になりそうなときは、以下のような工夫が有効です。

  • 信頼できる友人や家族に話を聞いてもらう(ただし、相手の個人情報の扱いには注意)
  • カウンセリングを受ける
  • 一度時間を置いて、冷静になってから行動する
  • すべての対応を弁護士に任せ、自分は直接相手と接触しない

記録を残す習慣
感情的な言動は記録に残ると後で不利になります。逆に、冷静で適切な対応をしていた記録は、自分に有利に働きます。

すべてのやり取りを記録に残し、常に「これが裁判所に提出されても問題ないか」を意識して行動することで、違法行為を避けることができます。

正しい手続きを踏むことは、遠回りに感じるかもしれませんが、最終的には最も確実で安全な方法です。違法行為に走らず、法の枠内で権利を実現しましょう。

10. Q&A:よくある疑問への簡潔な回答

婚姻費用の未払い問題について、よくある質問とその回答をまとめました。

Q1. 公正証書がないと差し押さえできない?

A. いいえ、公正証書がなくても差し押さえは可能です。

調停調書、審判書、判決なども債務名義として強制執行に使えます。ただし、当事者間で作成した合意書だけでは、そのままでは強制執行できません。その場合は、家庭裁判所で調停や審判を経て、債務名義を取得する必要があります。

公正証書を作成する場合は、必ず「執行認諾文言」(強制執行されても異議を述べない旨の条項)を入れることが重要です。

Q2. 相手が無職でも請求できる?

A. はい、請求自体は可能です。

相手が無職であっても、婚姻費用分担義務は消滅しません。家庭裁判所に調停を申し立てることはできますし、相手に資産があれば、それに対して強制執行することも可能です。

ただし、現実問題として、相手が無職で収入も資産もない場合は、回収できる手段が限られます。調停では、相手の就労能力や資産状況を考慮して、現実的な金額が決められます。

また、相手が生活保護を受給している場合などは、実際の回収は極めて困難です。

Q3. 未払い分は遡って請求できるか?

A. 法的には遡って請求できますが、実務上は制約があります。

婚姻費用は、法律上は別居時点から発生していると考えられます。そのため、理論的には別居開始時まで遡って請求できます。

ただし、実務上は「調停や審判の申立て時点」から認められることが多く、それ以前の分については、既に支払いを求めていた証拠(内容証明郵便など)がなければ認められにくい傾向があります。

また、あまりに長期間放置していた場合は、「権利を行使する意思がなかった」と判断される可能性もあります。

対策:
未払いが発生したら、できるだけ早く正式に請求し(内容証明郵便など)、それでも支払われない場合は速やかに家庭裁判所に申し立てることが重要です。

Q4. 相手が自営業の場合、給与差押えはできない?

A. 給与という形では差し押さえできませんが、他の方法があります。

自営業者には給与がないため、給与差押えはできません。しかし、以下の方法で回収を図ることができます。

  • 相手の事業用口座の預金を差し押さえる
  • 相手が取引先から受け取る売掛金(債権)を差し押さえる
  • 事業用の不動産や設備を差し押さえる

ただし、相手の取引先や口座を特定する必要があり、給与差押えよりも難易度は高くなります。

Q5. 相手の勤務先が分からない場合はどうすればいい?

A. 財産開示手続きや第三者情報取得手続きを活用できます。

2020年の民事執行法改正により、以下の手続きが利用できるようになりました。

財産開示手続き:
裁判所が相手を呼び出し、財産や勤務先について陳述させる手続きです。正当な理由なく出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりすると、過料(罰金)が科されます。

第三者情報取得手続き:
裁判所を通じて、市町村、日本年金機構、金融機関などに照会し、相手の勤務先、不動産、預金口座などの情報を取得する手続きです。

これらの手続きには、それぞれ債務名義と費用が必要ですが、相手の所在や資産が不明な場合の有効な手段です。

Q6. 相手が海外にいる場合はどうなる?

A. 手続きは可能ですが、回収は困難な場合が多いです。

相手が海外に居住している場合でも、日本の家庭裁判所に調停を申し立てることは可能です(ただし相手が出席できるかは別問題)。

債務名義を取得しても、日本国内に相手の財産がなければ、日本での強制執行はできません。相手の居住国での執行を考える必要がありますが、国によって法制度が異なり、極めて複雑です。

このようなケースでは、国際的な家事事件に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

Q7. 離婚が成立したら、未払い分はどうなる?

A. 離婚後も請求できます。

婚姻費用は別居時から離婚成立時までの生活費ですので、離婚が成立しても、その間の未払い分を請求する権利は消滅しません。

ただし、離婚が成立すると「婚姻費用」は終了し、以後は「養育費」(子どもがいる場合)の問題になります。未払いの婚姻費用については、引き続き回収を図ることができます。

Q8. 婚姻費用と養育費は別物?

A. はい、別のものです。

婚姻費用:
婚姻中(別居中を含む)に、配偶者と子どもの生活費として支払われるものです。離婚が成立するまでの期間が対象です。

養育費:
離婚後に、子どもを監護していない親が、子どもの生活費・教育費として支払うものです。原則として子どもが成人するまで(または大学卒業まで、など合意による)継続します。

別居中は婚姻費用を請求し、離婚後は養育費を請求する、という流れになります。金額的には、婚姻費用の方が養育費よりも高額になるのが一般的です(配偶者自身の生活費も含まれるため)。

Q9. 一度決めた婚姻費用の額は変更できない?

A. 事情の変更があれば、変更を求めることができます。

調停や審判で決まった婚姻費用でも、その後に大きな事情の変化があった場合は、増額または減額を求めることができます。

増額が認められる可能性があるケース:

  • 相手の収入が大幅に増えた
  • 自分の収入が病気などで大幅に減った
  • 子どもの進学で教育費が増えた

減額が認められる可能性があるケース:

  • 相手(支払う側)が失業や病気で収入が大幅に減った
  • 子どもが成人した、就職した
  • 受け取る側の収入が大幅に増えた

変更を求める場合は、家庭裁判所に「婚姻費用増額(または減額)調停」を申し立てます。

Q10. 弁護士に依頼すべきタイミングは?

A. 以下のような状況では、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

  • 相手が支払いを頑なに拒否している
  • 相手との交渉が感情的になり、冷静な話し合いができない
  • 法的手続き(調停、審判、強制執行)を進めたいが、方法が分からない
  • 相手が弁護士を立ててきた
  • 未払い額が大きく、確実に回収したい
  • DV被害があり、相手と直接接触したくない

初回相談は無料または低額(30分5,000円程度)で受けられる弁護士事務所も多いので、まずは相談してみることをお勧めします。経済的に余裕がない場合は、法テラスの民事法律扶助制度を利用できます。

逆に、未払い額が少額(数万円程度)で、相手との関係も比較的良好な場合は、まず自分で対応してみて、それでも解決しない場合に弁護士を検討する、という順序でも良いでしょう。

Q11. 調停は何回くらいで終わる?

A. ケースによりますが、平均的には3~6回程度です。

第1回から約1か月ごとに期日が設定され、双方の主張を整理し、証拠を検討し、合意点を探っていきます。

争点が少なく、双方が歩み寄る姿勢がある場合は、2~3回で成立することもあります。逆に、収入や生活費について大きく意見が対立している場合は、6回以上かかることもあります。

調停が長引くと、その間の婚姻費用も未払いのまま蓄積していくため、できるだけ早期に解決することが望ましいです。

Q12. 婚姻費用の算定表はどこで見られる?

A. 裁判所のウェブサイトで公開されています。

「養育費・婚姻費用算定表」で検索すると、裁判所が公表している算定表を見ることができます。

算定表は、双方の年収(給与所得者か自営業者か)と、子どもの数・年齢によって、標準的な婚姻費用額を示したものです。

ただし、算定表はあくまで標準的なケースの目安であり、個別の事情(多額の住宅ローン、特別な医療費、私立学校の学費など)がある場合は、修正される可能性があります。

自分のケースでおおよそいくらが妥当かを知るために、事前に確認しておくと良いでしょう。

11. まとめ:実務チェックリスト

婚姻費用の未払いに対処するための、実務的なチェックリストをまとめます。段階ごとに確認しながら、適切な対応を進めてください。

ステップ1:未払いの確認と記録

□ 支払い予定日と実際の入金状況を確認する
□ 未払いの期間と金額を正確に計算する
□ 銀行の振込記録、通帳のコピーを保存する
□ 当初の合意内容(合意書、調停調書など)を確認する
□ 相手とのやり取り(メール、LINE等)をすべて保存する

ステップ2:初期対応

□ 相手に口頭またはメールで支払いを催促する(記録を残す)
□ 未払いの理由を確認する(失業、病気等の事情があるか)
□ 内容証明郵便で正式に請求する

  • 未払い額と期間を明記
  • 支払期限を設定
  • 支払先口座を明記
  • 法的措置の予告を含める
    □ 配達証明をつけて送付し、記録を保管する

ステップ3:交渉と合意の試み

□ 相手の経済状況を可能な範囲で確認する
□ 分割払いや一時的な減額など、現実的な案を提示する
□ 合意ができた場合は、必ず書面化する

  • 具体的な金額、支払日、方法を明記
  • 双方が署名・押印
  • 各自が原本を保管
    □ 交渉が不調の場合、次のステップへ進む判断をする

ステップ4:家庭裁判所への申立て

□ 相手の住所地を管轄する家庭裁判所を確認する
□ 婚姻費用分担請求調停の申立書を作成する
□ 必要書類を準備する

  • 夫婦の戸籍謄本
  • 収入に関する資料(源泉徴収票、給与明細等)
  • 未払いを証明する資料
    □ 収入印紙と郵便切手を用意して申立てる
    □ 第1回期日の通知を待つ
    □ 調停期日に出席し、主張と証拠を提出する
    □ 調停が成立したら、調停調書の正本を受け取り保管する

ステップ5:債務名義の取得確認

□ 調停調書、審判書、公正証書など、債務名義を取得したか確認
□ 債務名義の内容(金額、支払時期等)を確認
□ 必要に応じて執行文の付与を家庭裁判所で受ける
□ 債務名義の正本を安全に保管する(複数コピーを作成)

ステップ6:債務名義取得後の対応

□ 債務名義に基づいて、改めて相手に支払いを求める
□ 支払われない場合、強制執行の準備を開始する
□ 相手の財産・勤務先の情報を整理する

  • 勤務先の会社名、所在地
  • 預金口座のある金融機関、支店名
  • 不動産の所在
  • その他の資産情報

ステップ7:強制執行の申立て

□ 相手の住所地を管轄する地方裁判所を確認する
□ 強制執行の種類を決定する

  • 給与差押え(相手が給与所得者の場合)
  • 預金差押え(口座が特定できる場合)
  • その他の財産への執行
    □ 債権差押命令申立書を作成する
    □ 必要書類を準備する
  • 債務名義の正本
  • 送達証明書
  • 執行文(必要な場合)
  • 相手の勤務先、金融機関等の情報
    □ 予納金(印紙・郵券)を用意して申立てる
    □ 裁判所から差押命令が発令されるのを待つ
    □ 第三債務者(勤務先、銀行等)から支払いを受ける

ステップ8:財産が不明な場合の追加手続き

□ 財産開示手続きの申立てを検討する
□ 第三者情報取得手続き(勤務先、預金、不動産)の申立てを検討する
□ 各手続きに必要な書類と費用を準備する
□ 取得した情報を基に、改めて強制執行を申し立てる

ステップ9:回収困難な場合の代替対応

□ 相手の支払能力を現実的に評価する
□ 回収可能な範囲での減額合意を検討する
□ 公的支援制度の利用を検討する

  • 児童扶養手当
  • 児童手当
  • 生活保護
  • 住宅確保給付金
  • 母子父子寡婦福祉資金貸付
    □ 就労支援、スキルアップの機会を探す
    □ 家計の見直しと生活再建プランを立てる

全体を通じての注意事項

□ すべての記録を時系列で整理・保管する
□ 感情的な行動を避け、常に法的手続きに沿って対応する
□ 違法行為(自力救済、プライバシー侵害等)を絶対にしない
□ 子どもを利用した圧力をかけない
□ 必要に応じて弁護士に相談・依頼する
□ 長期化する場合は、精神的なサポートも受ける

結び

婚姻費用の未払いは、生活に直結する深刻な問題ですが、適切な手順を踏めば解決の道は開けます。

最も重要なポイント:

  1. 早期対応 – 未払いに気づいたら、すぐに記録を取り、正式に請求する
  2. 証拠の保全 – すべてのやり取りと記録を保存し、書面化を徹底する
  3. 債務名義の取得 – 調停、審判、公正証書などで強制執行可能な文書を得る
  4. 法的手続きの活用 – 感情ではなく、法に基づいた手続きで進める
  5. 専門家の活用 – 困ったときは弁護士や支援機関に相談する

一人で抱え込まず、利用できる制度や専門家のサポートを積極的に活用しながら、一歩ずつ解決に向けて進んでいきましょう。

婚姻費用を受け取ることは、法律で認められた正当な権利です。諦めずに、適切な方法で権利を実現してください。

この記事が、婚姻費用の未払いに悩む方々の実務的な指針となり、問題解決の一助となれば幸いです。

佐々木裕介

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)

「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。

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