配偶者の浮気が発覚したとき、多くの人は大きなショックを受け、感情的になってしまうものです。しかし、離婚を考えるのであれば、冷静に証拠を集め、適切な手続きを踏むことが非常に重要になります。浮気は法律上「不貞行為」と呼ばれ、離婚の正当な理由として認められていますが、それを証明するためには確実な証拠が必要です。本記事では、浮気発覚後の離婚手続きの流れと、効果的な証拠収集の方法について詳しく解説します。
1. 浮気と離婚の法的関係
不貞行為とは何か
浮気は法律用語では「不貞行為」と呼ばれます。民法第770条第1項第1号において、不貞行為は法定離婚原因の一つとして明確に規定されています。この条文により、配偶者が不貞行為を行った場合、もう一方の配偶者は裁判によって離婚を請求することができます。
不貞行為とは、配偶者以外の異性と性的関係を持つことを指します。単なる食事やデート、精神的な親密さだけでは、法律上の不貞行為には該当しないとされています。裁判所が離婚を認めるためには、肉体関係があったことを示す証拠が必要になるのです。
離婚が認められるための要件
不貞行為があったからといって、自動的に離婚が成立するわけではありません。裁判で離婚が認められるためには、以下のような要件を満たす必要があります。
まず、配偶者が自由な意思で不貞行為に及んだことが必要です。例えば、強姦などの被害に遭った場合は不貞行為には該当しません。また、既に夫婦関係が完全に破綻していた後の行為については、不貞行為として認められない可能性もあります。
さらに重要なのが、不貞行為の事実を証明できる証拠の存在です。証拠がなければ、配偶者が否定した場合に立証することができず、裁判で離婚が認められない可能性が高くなります。このため、浮気が発覚した時点で、いかに確実な証拠を収集するかが離婚手続きの成否を左右することになります。
慰謝料請求との関係
不貞行為は、配偶者に対する重大な裏切りであり、精神的苦痛を与える行為です。そのため、離婚とは別に、不貞行為を行った配偶者や浮気相手に対して慰謝料を請求することができます。
慰謝料の金額は、婚姻期間の長さ、不貞行為の期間や回数、子どもの有無、不貞行為によって受けた精神的苦痛の程度などによって変わってきます。一般的には数十万円から300万円程度が相場とされていますが、悪質なケースではそれ以上の金額が認められることもあります。
慰謝料請求においても、不貞行為の証拠は不可欠です。証拠が不十分な場合、慰謝料請求が認められなかったり、金額が大幅に減額されたりする可能性があります。
2. 浮気発覚後にとるべき初動対応
感情をコントロールする重要性
配偶者の浮気が発覚したとき、怒りや悲しみ、裏切られたという感情が一気に押し寄せてきます。しかし、この時点で感情的に行動してしまうと、後の離婚手続きで不利になる可能性があります。
例えば、激高して配偶者に暴力を振るってしまったり、浮気相手に脅迫的な言動をしてしまったりすると、逆にあなたが法的責任を問われることになりかねません。また、証拠を突きつけて問い詰めてしまうと、配偶者が証拠を隠滅したり、浮気相手と口裏を合わせたりする時間を与えてしまいます。
浮気発覚直後は、できる限り冷静さを保ち、まずは確実な証拠を収集することを最優先に考えるべきです。感情的な対応は、証拠収集が完了してからでも遅くはありません。
証拠収集を最優先する
浮気に気づいた時点で、すぐに証拠収集を開始することが重要です。配偶者が浮気に気づかれたことを察知すると、証拠を隠滅したり、浮気をやめて関係を解消したりする可能性があります。そうなると、後から証拠を集めることが非常に困難になります。
この段階では、配偶者に浮気の件を問い詰めたり、怒りをぶつけたりせず、あくまでも気づいていないふりを続けることが賢明です。普段通りに接しながら、裏では証拠を集めていくというのが基本的な戦略になります。
日常の変化を記録する
浮気をしている配偶者には、日常生活において様々な変化が現れることが多いものです。帰宅時間が遅くなる、出張や残業が増える、休日の外出が多くなる、スマートフォンを肌身離さず持ち歩くようになる、身だしなみに気を使うようになるなど、こうした変化を日記やメモに記録しておくことをお勧めします。
これらの記録自体は直接的な証拠にはなりませんが、不貞行為の状況証拠として補強材料になりますし、後から振り返る際にも役立ちます。日付、時間、具体的な出来事を詳細に記録しておくと良いでしょう。
配偶者とのコミュニケーション記録
浮気について配偶者と会話をする場合は、その内容を記録に残すことが重要です。特に、配偶者が浮気を認めるような発言をした場合、それは非常に有力な証拠になります。
会話を録音する方法もありますが、自分が参加している会話の録音は法律上問題ありませんので、スマートフォンの録音機能などを活用すると良いでしょう。LINEやメールでのやり取りも、スクリーンショットを撮って保存しておきます。
ただし、この段階ではまだ決定的な証拠が揃っていない可能性が高いので、問い詰めすぎて警戒されないように注意が必要です。
生活への影響を考える
浮気発覚後、同じ屋根の下で生活を続けることが精神的に耐えられないという方も多いでしょう。別居を検討する場合は、そのタイミングや方法についても慎重に考える必要があります。
特に子どもがいる場合、急な別居は子どもの生活環境に大きな影響を与えます。また、不用意に家を出てしまうと、後の親権争いで不利になる可能性もあります。別居を考える場合は、弁護士に相談してから行動することをお勧めします。
経済的な面でも、別居後の生活費や住居費をどう確保するか、事前に計画を立てておく必要があります。婚姻費用の請求など、法的に認められている権利についても理解しておくべきでしょう。
3. 離婚手続きの流れ
日本の離婚制度には、大きく分けて協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3つの方法があります。それぞれの特徴と手続きの流れについて理解しておくことが重要です。
協議離婚
協議離婚は、夫婦が話し合いによって離婚の合意に至り、離婚届を提出することで成立する離婚方法です。日本の離婚の約90%がこの協議離婚によるもので、最も一般的な離婚形態といえます。
協議離婚の最大のメリットは、手続きが簡単で、費用も時間もかからない点です。離婚届に必要事項を記入し、証人2名の署名をもらって市区町村役場に提出すれば、離婚が成立します。裁判所を通す必要がないため、プライバシーも守られやすいでしょう。
しかし、協議離婚には注意すべき点もあります。口頭での約束だけで離婚してしまうと、後から慰謝料や養育費の支払いが滞ったときに困ることになります。そのため、離婚協議書を作成し、さらにそれを公正証書にしておくことが強く推奨されます。
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公文書のことです。公正証書に「強制執行認諾条項」を入れておけば、相手が約束を守らなかった場合に、裁判を経ずに強制執行(給与の差し押さえなど)ができるようになります。
協議離婚で決めておくべき事項としては、慰謝料の金額と支払い方法、財産分与の内容、子どもの親権者、養育費の金額と支払い方法、面会交流の方法などがあります。これらをすべて文書化し、公正証書にしておくことで、将来のトラブルを防ぐことができます。
調停離婚
協議で離婚の合意ができない場合、次のステップとして家庭裁判所に離婚調停を申し立てることになります。日本の法律では、いきなり離婚訴訟を起こすことはできず、必ず調停を先に行わなければならないという「調停前置主義」が採用されています。
調停では、家庭裁判所の調停委員(通常は男女1名ずつ)が間に入り、夫婦それぞれから事情を聴きながら、離婚や離婚条件について話し合いを進めていきます。調停は原則として月に1回程度のペースで行われ、通常は数ヶ月から1年程度かかります。
調停のメリットは、第三者である調停委員が間に入ることで、感情的になりがちな夫婦間の話し合いが冷静に進められる点です。また、裁判に比べて手続きが簡易で、費用も比較的安く抑えられます。
調停で双方が合意に至れば、調停調書が作成され、離婚が成立します。調停調書には確定判決と同じ効力があるため、公正証書と同様に強制執行が可能です。
しかし、調停はあくまでも話し合いの場であり、双方が合意しなければ成立しません。一方が離婚を拒否し続けた場合や、離婚条件で折り合いがつかない場合は、調停不成立となり、裁判へと進むことになります。
調停を申し立てるには、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または夫婦が合意した家庭裁判所に、調停申立書と必要書類(戸籍謄本など)を提出します。費用は収入印紙1,200円と郵便切手代程度です。
裁判離婚
調停が不成立に終わった場合、最終手段として離婚訴訟を提起することになります。裁判離婚は、裁判官が証拠に基づいて離婚を認めるか否かを判断する手続きです。
裁判では、原告(離婚を求める側)が法定離婚原因の存在を立証する必要があります。不貞行為を理由とする場合は、配偶者の不貞行為があったこと、それによって婚姻関係が破綻したことを証拠によって証明しなければなりません。
裁判の流れとしては、まず訴状を裁判所に提出し、その後、答弁書の提出、口頭弁論、証人尋問などを経て、最終的に判決が下されます。裁判には通常1年から2年程度の期間がかかります。
裁判のメリットは、相手が離婚に同意しなくても、法定離婚原因が認められれば離婚できる点です。また、裁判所が慰謝料や財産分与の金額を判断してくれるため、不当に低い条件で妥協する必要がありません。
一方、デメリットとしては、時間と費用がかかること、裁判は公開されるためプライバシーが守られにくいこと、精神的な負担が大きいことなどが挙げられます。弁護士に依頼する必要がほぼ不可欠で、弁護士費用として数十万円から100万円以上かかることも珍しくありません。
裁判で離婚が認められるためには、証拠が非常に重要になります。不貞行為の証拠が不十分な場合、離婚請求が棄却される可能性もあるため、証拠収集の段階から弁護士のアドバイスを受けることが推奨されます。
和解による離婚
裁判の途中で和解が成立し、離婚に至るケースもあります。裁判官が和解を勧告し、双方が条件に合意すれば、和解調書が作成されて離婚が成立します。和解による離婚は、判決を待つよりも早期に解決できるというメリットがあります。
4. 浮気の証拠収集方法
離婚や慰謝料請求を有利に進めるためには、不貞行為を証明する確実な証拠が必要です。ここでは、具体的な証拠収集の方法について詳しく解説します。
探偵による調査
浮気の証拠収集において最も確実で有力なのが、探偵事務所による調査です。探偵は専門的な技術と経験を持ち、尾行や張り込みによって配偶者と浮気相手の行動を記録します。
探偵による調査報告書には、調査日時、場所、対象者の行動が写真や動画とともに詳細に記録されます。特に、ホテルや浮気相手の自宅への出入りの瞬間を撮影した写真は、不貞行為を推認させる強力な証拠となります。
探偵の調査報告書が法的に有力な証拠として認められる理由は、第三者である専門家が客観的に作成した記録であるという点にあります。素人が撮影した写真よりも、信憑性が高いと判断されるのです。
ただし、探偵への依頼には費用がかかります。調査内容や期間によって異なりますが、一般的には数十万円から100万円以上の費用が必要になることもあります。複数の探偵事務所から見積もりを取り、料金体系や実績を比較して選ぶことが重要です。
また、探偵を選ぶ際は、公安委員会に届出をしている正規の業者であることを確認しましょう。届出番号は探偵業法に基づき表示が義務付けられています。悪質な業者に依頼してしまうと、高額な料金を請求されたり、違法な手段で証拠を収集されたりするリスクがあります。
写真や動画の撮影
自分で証拠を収集する方法として、配偶者と浮気相手が一緒にいる場面を撮影するという方法があります。ホテルへの出入り、浮気相手の自宅への出入り、親密な様子での外出など、不貞行為を推認できる場面を記録します。
撮影する際は、日時が分かるように設定しておくことが重要です。また、複数回にわたって撮影できれば、継続的な関係があることを示す証拠になります。
ただし、自分で尾行や張り込みを行う場合は、相手に気づかれないように十分注意する必要があります。また、プライバシーの侵害や住居侵入などの違法行為にならないよう、撮影場所や方法にも配慮が必要です。
LINEやメールのやり取り
配偶者と浮気相手とのLINEやメールのやり取りは、重要な証拠になります。特に、性的な内容を含むメッセージや、「愛してる」などの恋愛感情を示すメッセージ、ホテルや旅行の約束をしているメッセージなどは、不貞行為を示す証拠として有効です。
これらのメッセージを証拠として残すには、スクリーンショットを撮影して保存しておくことが基本です。その際、日付や送信者・受信者が分かるように画面全体を撮影することが重要です。
配偶者のスマートフォンからメッセージを確認する場合、本人が席を外した隙にこっそり見るという方法が一般的です。ただし、後述するように、不正アクセスにあたる方法でメッセージを取得すると、証拠として認められなくなる可能性があるため注意が必要です。
クレジットカードの利用明細
クレジットカードの利用明細から、ホテルや飲食店の利用履歴を確認することができます。特に、家族で行くような場所ではない高級レストランやホテルの利用、出張や残業と言っていた日時の不審な利用などは、浮気を疑わせる間接証拠になります。
利用明細だけでは不貞行為の直接的な証拠にはなりませんが、他の証拠と組み合わせることで、状況証拠として活用できます。例えば、LINEのメッセージで会う約束をしていた日に、ホテルのクレジットカード利用履歴があれば、実際に会っていたことを裏付ける証拠になります。
レシートや領収書
配偶者の財布やカバン、車の中などから、ホテルのレシートや飲食店の領収書が見つかることがあります。これらも浮気の証拠として有効です。
特にラブホテルのレシートは、不貞行為を強く推認させる証拠となります。複数回分のレシートがあれば、継続的な関係を示すことができます。
レシートや領収書を見つけた場合は、写真に撮って記録しておきます。可能であれば原本を保管することが望ましいですが、配偶者が紛失に気づいて警戒する可能性もあるため、状況に応じて判断する必要があります。
交通系ICカードの履歴
SuicaやPASMOなどの交通系ICカードの利用履歴から、配偶者の移動経路を把握することができます。仕事で行くはずのない場所への移動、浮気相手の自宅近くの駅での乗降記録などは、浮気の状況証拠になります。
ICカードの履歴は、駅の券売機で直近20件まで印字することができます。また、カードと一緒にコピーを保存しておくことも有効です。
GPS機器による位置情報の記録
配偶者の車にGPS機器を取り付けて位置情報を記録するという方法もあります。これにより、ラブホテルや浮気相手の自宅への訪問を証明することができます。
ただし、GPS機器の使用については法的な問題点もあります。夫婦共有の車であれば問題ありませんが、配偶者の専用車に無断で取り付けた場合、プライバシーの侵害とされる可能性があります。また、浮気相手の車に取り付けることは違法行為になります。
GPS機器を使用する場合は、法的リスクを理解した上で、慎重に判断する必要があります。
複数の証拠を組み合わせる重要性
一つの証拠だけでは不貞行為を証明することが難しい場合でも、複数の証拠を組み合わせることで、肉体関係があったことを推認できるようになります。
例えば、LINEで「会いたい」というメッセージのやり取りがあり、その日にホテルのクレジットカード利用履歴があり、さらにホテルからの出入りを撮影した写真があれば、これらを総合的に判断して不貞行為があったと認定される可能性が高くなります。
証拠は量も質も重要です。一回限りの行為よりも、継続的に会っていたことを示す証拠の方が、慰謝料の金額も高くなる傾向があります。可能な限り多くの証拠を収集し、時系列に整理しておくことが推奨されます。
5. 証拠収集における注意点
証拠収集は重要ですが、その方法を誤ると、証拠としての価値を失うだけでなく、自分が法的責任を問われる可能性もあります。ここでは、証拠収集における注意点について詳しく解説します。
違法な手段による証拠収集
証拠収集において最も注意すべきは、違法な手段を用いないことです。違法に取得された証拠は、裁判で証拠能力が否定される可能性があります。また、証拠収集の方法自体が犯罪行為にあたる場合、逆に訴えられるリスクもあります。
具体的に避けるべき違法行為としては、以下のようなものがあります。
盗聴器の設置 配偶者の部屋や車に盗聴器を仕掛けて会話を録音する行為は、電波法違反や盗聴行為として違法とされる可能性があります。盗聴器の使用は、プライバシー権の侵害にもあたります。
不正アクセス 配偶者のパソコンやスマートフォンに、本人の許可なくパスワードを使ってログインする行為は、不正アクセス禁止法に違反する可能性があります。たとえ夫婦であっても、無断でアクセスすることは違法です。
勝手にパスワードを調べて他人のメールやSNSアカウントにログインすることも、同様に不正アクセスにあたります。LINEのアカウントに他のデバイスからログインする行為も注意が必要です。
住居侵入 浮気相手の自宅に無断で侵入することは、住居侵入罪にあたります。証拠を得るためであっても、許されません。
盗撮 公共の場所での撮影は基本的に問題ありませんが、トイレや更衣室など、プライバシーが強く保護されるべき場所での撮影は盗撮として違法になります。
個人情報保護法との関係
個人情報保護法は、事業者による個人情報の取り扱いを規制する法律ですが、証拠収集の際にも関連する場合があります。
探偵事務所などの事業者に依頼する場合、その事業者は個人情報保護法を遵守する義務があります。違法な方法で情報を取得した探偵事務所に依頼すると、依頼者も共犯として責任を問われる可能性があります。
また、取得した個人情報を不適切に利用したり、第三者に漏洩したりすることも問題になります。証拠は離婚手続きや慰謝料請求のためにのみ使用し、SNSで公開したり、周囲に言いふらしたりしないよう注意が必要です。
プライバシー権の侵害
過度な証拠収集は、相手のプライバシー権を侵害するとして、逆に損害賠償請求をされる可能性があります。
例えば、GPS機器を使った追跡も、やりすぎるとプライバシーの侵害とされる場合があります。また、浮気相手の自宅や職場に押しかけて騒ぎ立てたり、浮気相手の家族や職場の同僚に浮気の事実を言いふらしたりする行為は、名誉毀損やプライバシー権の侵害になります。
証拠収集は、あくまでも離婚や慰謝料請求のために必要な範囲内で、社会通念上許容される方法で行うべきです。
夫婦間の証拠収集の特殊性
夫婦間においては、一定の範囲内であれば、相手の私物を確認することが許容されることがあります。例えば、配偶者が置いていったスマートフォンを見ることや、共有スペースにある書類を確認することは、直ちに違法とはされません。
ただし、明確に個人の領域とされている場所(鍵付きの引き出しなど)を無理やり開けることや、パスワードを解除して中身を見ることは、違法性が高いと判断される可能性があります。
また、自分が参加している会話を録音することは問題ありませんが、自分がいない場所での配偶者の会話を無断で録音することは、プライバシーの侵害になる可能性があります。
証拠の保全方法
収集した証拠は、改ざんされていないことを証明できるよう、適切に保全する必要があります。
デジタルデータの保全 写真やスクリーンショットなどのデジタルデータは、撮影日時が記録されるように設定しておきます。また、複数の記録媒体(USBメモリ、クラウドストレージなど)にバックアップを取っておくことで、データの紛失を防ぎます。
原本の保管 レシートや手紙など、紙媒体の証拠は原本を保管することが望ましいです。写真やコピーだけでは、改ざんの疑いをかけられる可能性があります。
日付と状況の記録 証拠を収集した日付、場所、状況などを詳細に記録しておきます。後から証拠の説明をする際に、記憶が曖昧だと信憑性が疑われる可能性があります。
第三者による確認 可能であれば、弁護士などの専門家に早い段階で証拠を確認してもらい、法的に有効かどうかアドバイスを受けることが推奨されます。証拠能力がない資料を集め続けても、時間と労力の無駄になってしまいます。
証拠収集のタイミング
証拠収集は、配偶者に気づかれる前にできるだけ早く行うことが重要です。浮気を疑っていることが相手に伝わると、証拠隠滅や口裏合わせをされる可能性が高くなります。
また、浮気が継続している時期に証拠を集める方が、過去の浮気を遡って証明するよりも容易です。「いま浮気をしている」という現在進行形の証拠の方が、説得力があります。
ただし、焦って違法な手段に手を出すことのないよう、冷静に判断することが大切です。確実で合法的な証拠を少しずつ積み上げていく姿勢が求められます。
6. 離婚時に整理すべき事項
浮気を理由に離婚する場合、離婚そのものだけでなく、様々な付随事項について取り決めをする必要があります。ここでは、離婚時に整理すべき主要な事項について解説します。
慰謝料請求
不貞行為は、配偶者に対する重大な裏切りであり、精神的苦痛を与える不法行為です。そのため、不貞行為を行った配偶者および浮気相手に対して、慰謝料を請求することができます。
慰謝料の相場 浮気による慰謝料の金額は、様々な要因によって変動しますが、一般的には以下のような相場があります。
- 離婚しない場合:50万円~200万円程度
- 離婚する場合:100万円~300万円程度
ただし、これはあくまでも目安であり、個別の事情によって金額は大きく変わります。
慰謝料の金額を左右する要因 慰謝料の金額は、以下のような要因によって決まります。
婚姻期間が長いほど、慰謝料は高額になる傾向があります。長年連れ添った配偶者に裏切られた精神的苦痛は大きいと評価されるためです。
不貞行為の期間や回数も重要な要素です。一度限りの過ちよりも、長期間にわたって継続的に浮気をしていた場合の方が、悪質性が高いと判断され、慰謝料も高額になります。
子どもの有無も考慮されます。子どもがいる家庭で浮気をした場合、子どもの生活や心理的な影響も考慮され、慰謝料が増額される傾向があります。
不貞行為の主導性も影響します。配偶者の方から積極的に誘惑した場合と、浮気相手から誘惑された場合では、前者の方が責任が重いと判断されます。
反省の態度も考慮されることがあります。発覚後に反省し、関係を清算した場合と、開き直って浮気を継続した場合では、後者の方が慰謝料が高くなる可能性があります。
不貞行為によって離婚に至ったか、婚姻関係を継続したかも重要です。離婚に至った場合は、失われた家庭の価値も含めて慰謝料が算定されるため、金額が高くなります。
配偶者と浮気相手への請求 慰謝料は、配偶者と浮気相手の双方に請求することができます。両者は共同不法行為者として、連帯して責任を負うことになります。
ただし、実務上は、慰謝料を二重に受け取ることはできません。配偶者から100万円、浮気相手から100万円の計200万円を受け取れるわけではなく、総額として例えば200万円が認められた場合、その範囲内で双方から回収することになります。
浮気相手に請求する場合、浮気相手が既婚者であることを知っていたか否かが重要になります。配偶者が独身だと偽っていて、浮気相手が既婚者であることを知らなかった場合は、浮気相手に慰謝料請求できない可能性があります。
慰謝料請求の時効 慰謝料請求には時効があります。不貞行為および加害者を知った時から3年、または不貞行為の時から20年で時効になります。
そのため、浮気が発覚したら、できるだけ早く慰謝料請求の手続きを進めることが重要です。時効が迫っている場合は、内容証明郵便で請求書を送ることで時効を一時的に中断させることができます。
親権と監護権
子どもがいる夫婦が離婚する場合、必ずどちらか一方を親権者として定める必要があります。日本では共同親権が認められていないため、離婚後はどちらか一方の親が親権者となります。
親権者の決定基準 親権者を決める際には、「子の利益」が最も重要な基準とされます。具体的には、以下のような要素が総合的に考慮されます。
これまでの監護実績が重視されます。どちらの親が主に子どもの世話をしてきたか、子どもとの結びつきが強いかが考慮されます。
子どもの意思も尊重されます。15歳以上の子どもについては、家庭裁判所は必ず子どもの意見を聴かなければなりません。15歳未満でも、子どもの年齢や成熟度に応じて意見が考慮されます。
親の監護能力も判断材料になります。心身の健康状態、経済力、居住環境、子どもへの愛情などが総合的に評価されます。
現状維持の原則も適用されることがあります。現在子どもが安定した生活を送っている場合、その環境を変えないことが子どもの利益になると判断されることがあります。
兄弟姉妹不分離の原則も考慮されます。兄弟姉妹は一緒に育てられる方が望ましいとされ、よほどの理由がない限り分離されることはありません。
浮気と親権の関係 配偶者が浮気をしたという事実は、直接的には親権者の決定に大きな影響を与えないとされています。浮気は配偶者に対する裏切りであっても、必ずしも親としての適格性を否定するものではないと考えられているためです。
ただし、浮気に夢中になって子どもの世話を疎かにしていた場合や、子どもの前で浮気相手と会っていた場合など、子どもの福祉に悪影響を及ぼしていた場合は、親権者として不適格と判断される可能性があります。
また、離婚後に浮気相手と再婚する予定がある場合、その相手が子どもとうまくやっていけるかどうかも考慮されることがあります。
監護権の分離 親権と監護権を分離し、親権者と監護権者を別にすることも法律上は可能ですが、実務上はあまり行われていません。分離すると子どもの養育に関する意思決定が複雑になるためです。
養育費
親権者とならなかった親も、子どもの養育費を負担する義務があります。養育費は、子どもが成人するまで(または大学卒業まで)継続的に支払われるものです。
養育費の金額 養育費の金額は、裁判所が作成した「養育費算定表」を参考に決められることが一般的です。算定表では、両親の年収と子どもの人数・年齢に応じて、標準的な養育費の金額が示されています。
例えば、支払う側の年収が500万円、受け取る側の年収が200万円で、子どもが一人(0~14歳)の場合、月額4~6万円程度が目安となります。
ただし、算定表はあくまでも標準的なケースを想定したものであり、個別の事情に応じて増減されることがあります。子どもの特別な教育費や医療費が必要な場合、金額が増額されることもあります。
養育費の取り決め 養育費については、金額だけでなく、支払い方法(振込先口座)、支払い時期(毎月何日)、増額・減額の条件なども明確に定めておくことが重要です。
また、養育費の取り決めは必ず書面に残し、できれば公正証書にしておくことが強く推奨されます。公正証書に「強制執行認諾条項」を入れておけば、支払いが滞った場合に給与の差し押さえなどの強制執行が可能になります。
養育費の変更 一度決めた養育費も、事情の変更があれば増額または減額を請求することができます。例えば、支払う側が失業した場合や、子どもが病気になって医療費がかかるようになった場合などです。
ただし、単に「お金が足りない」というだけでは変更は認められません。決定時には予見できなかった事情の変更が必要です。
養育費の不払い問題 日本では、養育費の取り決めをしても、実際には支払われないケースが非常に多いという問題があります。厚生労働省の調査によると、養育費を現在も受けている母子世帯は全体の約24%に過ぎません。
養育費の支払いが滞った場合、まずは相手に支払いを求める書面を送ります。それでも支払われない場合は、家庭裁判所に履行勧告や履行命令を申し立てることができます。
公正証書や調停調書、判決などがある場合は、強制執行(給与の差し押さえなど)を申し立てることもできます。2020年の民事執行法改正により、相手の勤務先が分からない場合でも、裁判所を通じて勤務先情報を取得できるようになり、養育費の回収がしやすくなりました。
財産分与
離婚する際には、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を分けることになります。これを財産分与といいます。
財産分与の対象 財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産です。具体的には、以下のようなものが含まれます。
預貯金、株式、投資信託などの金融資産、不動産(自宅、投資用物件など)、自動車、生命保険の解約返戻金、退職金(近い将来に受け取る予定がある場合)、家財道具などです。
一方、結婚前から持っていた財産(特有財産)や、婚姻中であっても相続や贈与によって取得した財産は、財産分与の対象外となります。
借金については、生活費や住宅ローンなど、夫婦の生活のために作った借金は財産分与の対象となり、マイナスの財産として分与されます。一方、個人的なギャンブルや浪費による借金は、原則として財産分与の対象外です。
財産分与の割合 財産分与の割合は、原則として2分の1ずつとされています。これは「2分の1ルール」と呼ばれ、たとえ一方が専業主婦(夫)であっても、家事労働によって配偶者の仕事を支えたとして、平等に分けるという考え方です。
ただし、特別な事情がある場合は、2分の1以外の割合になることもあります。例えば、一方が特殊な才能や努力によって高額な収入を得ていた場合、その寄与度が大きいとして6:4や7:3などの割合になることもあります。
浮気と財産分与の関係 浮気をした側だからといって、財産分与の割合が減らされるわけではありません。財産分与は夫婦の経済的な清算であり、慰謝料とは性質が異なるためです。
ただし、浮気相手との交際のために夫婦の財産を大量に使い込んでいた場合は、その分を考慮して財産分与の割合が調整されることがあります。
財産分与の方法 財産分与の方法には、いくつかのパターンがあります。
現物分与は、財産をそのままの形で分ける方法です。例えば、預貯金を分けたり、それぞれが使っていた車を取得したりします。
代償分与は、一方が財産を取得する代わりに、他方に金銭を支払う方法です。例えば、夫が自宅を取得する代わりに、妻に住宅の評価額の半分を現金で支払うようなケースです。
換価分与は、財産を売却して現金化し、そのお金を分ける方法です。不動産など簡単に分けられない財産を処分する際に用いられます。
住宅ローンが残っている場合 自宅に住宅ローンが残っている場合は、特に注意が必要です。自宅の評価額からローン残高を引いた純資産額(オーバーローンの場合はマイナス)を基に財産分与を考えます。
オーバーローン(ローン残高が住宅の価値を上回っている状態)の場合、その負債をどう分担するかが問題になります。通常は、住宅を取得する側がローンも引き継ぐことになりますが、金融機関の承諾が必要です。
また、夫婦の一方が連帯保証人になっている場合、離婚後も保証人の地位は継続するため、注意が必要です。
財産分与の請求期限 財産分与の請求は、離婚後2年以内に行う必要があります。この期間を過ぎると、請求権が消滅してしまいます。
離婚時に財産分与を決めておかなかった場合でも、2年以内であれば後から請求できますが、時間が経つと財産の把握が難しくなるため、できれば離婚時に決めておくことが望ましいです。
年金分割
2007年4月以降に離婚する場合、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する「年金分割制度」を利用することができます。
年金分割には「合意分割」と「3号分割」の2種類があります。
合意分割は、夫婦の合意または裁判所の決定により、婚姻期間中の厚生年金記録を分割する制度です。分割割合は最大2分の1までです。
3号分割は、2008年4月以降の第3号被保険者期間(専業主婦(夫)だった期間)について、相手の合意なしに自動的に2分の1ずつ分割される制度です。
年金分割は、離婚後2年以内に年金事務所で手続きをする必要があります。この期限を過ぎると、分割できなくなってしまいます。
面会交流
親権者とならなかった親も、子どもと会う権利(面会交流権)があります。面会交流は子どもの権利でもあり、原則として認められるべきものとされています。
面会交流については、頻度(月1回など)、日時、場所、方法(宿泊の可否、第三者の立ち会いの有無など)を具体的に決めておくことが重要です。
ただし、面会交流が子どもの福祉を害する場合(暴力を振るう、連れ去る恐れがあるなど)は、制限または禁止されることもあります。
浮気をした親であっても、それだけで面会交流が制限されることは通常ありません。ただし、子どもの前で浮気相手と会うことは避けるべきとされることが多いです。
公正証書化の重要性
離婚協議で決めた内容は、必ず書面に残し、できれば公正証書にすることが強く推奨されます。
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公文書のことです。公正証書には高い証明力があり、「強制執行認諾条項」を入れておけば、約束が守られなかった場合に裁判を経ずに強制執行(給与の差し押さえなど)ができます。
特に養育費や慰謝料の分割払いなど、長期間にわたって金銭の支払いが発生する場合は、公正証書にしておくことで履行確保が図れます。
公正証書の作成には、公証役場に予約をして夫婦で出向く必要があります(または一方が代理人を立てることも可能)。費用は公正証書に記載する金額によって異なりますが、数万円程度です。
7. まとめ
配偶者の浮気が発覚したとき、感情的になるのは当然のことです。しかし、離婚を考えるのであれば、冷静に証拠を集め、適切な手続きを踏むことが非常に重要になります。
浮気は民法上の「不貞行為」として、法定離婚原因に該当します。不貞行為があれば、協議、調停、裁判といった手続きを経て離婚することが可能です。協議離婚では双方の合意があれば比較的スムーズに離婚できますが、合意が得られない場合は調停や裁判に進むことになります。
離婚や慰謝料請求を有利に進めるためには、不貞行為を証明する確実な証拠が必須です。探偵による調査報告書、ホテル出入りの写真、LINEやメールのやり取り、クレジットカードの利用明細など、複数の証拠を組み合わせることで、肉体関係があったことを推認できるようにします。
ただし、証拠収集には法的な制約があります。盗聴、不正アクセス、住居侵入など、違法な手段で収集した証拠は証拠能力を失う可能性がありますし、自分が法的責任を問われるリスクもあります。合法的な範囲内で、確実な証拠を収集することが重要です。
離婚時には、離婚そのものだけでなく、慰謝料、親権、養育費、財産分与、年金分割など、様々な事項を整理する必要があります。特に子どもがいる場合は、子どもの福祉を最優先に考えて決定することが求められます。
これらの取り決めは、必ず書面に残し、可能であれば公正証書にしておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。公正証書に強制執行認諾条項を入れておけば、約束が守られなかった場合の履行確保も図れます。
浮気による離婚は、精神的にも経済的にも大きな負担を伴います。しかし、適切な準備と手続きを踏むことで、新しい人生への第一歩を踏み出すことができます。
一人で抱え込まず、弁護士などの専門家に早めに相談することも重要です。弁護士は法的なアドバイスをしてくれるだけでなく、相手との交渉や裁判手続きを代理してくれます。また、精神的なサポートとして、カウンセラーや信頼できる友人・家族に話を聞いてもらうことも大切です。
浮気をされたことは非常につらい経験ですが、それを乗り越えて、自分と子どもの幸せな未来を築いていくことは可能です。冷静に、そして計画的に行動することで、より良い結果を得られるでしょう。
離婚は人生の大きな転換点ですが、終わりではなく新しい始まりでもあります。将来を見据えた準備をしっかりと行い、前向きに一歩ずつ進んでいくことが大切です。

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。