1. 導入:不倫慰謝料とは何か
配偶者の不倫が発覚したとき、多くの方が直面するのが「慰謝料をどう請求すればいいのか」という問題です。精神的なショックに加えて、法的な手続きや金額の妥当性について判断しなければならず、混乱してしまうのも無理はありません。
不倫慰謝料とは、配偶者や不倫相手の不貞行為によって受けた精神的苦痛に対して支払われる損害賠償金のことです。法律上、不倫は「不法行為」として扱われ、被害を受けた配偶者には慰謝料を請求する権利が認められています。
しかし、実際に慰謝料を請求しようとすると、さまざまな疑問が浮かんできます。「相場はいくらなのか」「どうやって金額を計算するのか」「誰に、どのような手順で請求すればいいのか」など、わからないことだらけという方がほとんどでしょう。
本記事では、不倫慰謝料について知っておくべき基本知識を網羅的に解説します。具体的には、以下の内容を詳しく取り上げます。
本記事で解説する内容
- 不倫慰謝料の法的根拠と請求できる理由
- 実際の相場と金額の幅について
- 慰謝料額を左右する具体的な要因
- 金額の計算方法と算定の考え方
- 請求の具体的な流れと手順
- 必要な証拠とその集め方
- 時効や注意すべきポイント
- 支払われない場合の対処法
不倫慰謝料の請求は、感情的になりやすい場面でありながら、冷静に法的手続きを進める必要があります。適切な知識を持つことで、正当な権利を守りつつ、より有利な解決につなげることができます。
この記事を読むことで、不倫慰謝料に関する全体像を理解し、ご自身のケースにどう対応すべきかの指針を得られるはずです。それでは、まず法的な根拠から見ていきましょう。
2. 不倫慰謝料の法的根拠
不倫慰謝料を請求できる根拠は、日本の民法に明確に定められています。感情的な問題だけでなく、法律によって保護された権利であることを理解しておくことが重要です。
民法709条による不法行為責任
不倫慰謝料請求の最も基本となるのが、民法第709条の「不法行為責任」です。この条文は次のように規定しています。
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
婚姻関係にある夫婦には、互いに配偶者としての権利があります。この権利には、配偶者から貞操を守られる権利、円満な夫婦生活を営む権利が含まれます。不倫行為は、まさにこの配偶者の権利を侵害する行為に該当するため、不法行為として損害賠償責任が発生するのです。
法律上、不倫は「不貞行為」と呼ばれます。具体的には、配偶者以外の者と自由な意思に基づいて性的関係を持つことを指します。この不貞行為が認められた場合、被害を受けた配偶者は加害者に対して慰謝料を請求できる法的根拠を得ることになります。
配偶者と不倫相手の「共同不法行為」としての責任
不倫慰謝料の特徴的な点は、不倫をした配偶者だけでなく、その不倫相手にも請求できるという点です。これは民法第719条の「共同不法行為」の規定に基づいています。
不倫は、配偶者と不倫相手の二人が関与して初めて成立する行為です。そのため、両者は共同して不法行為を行ったとみなされ、連帯して損害賠償責任を負うことになります。
共同不法行為のポイント
- 連帯責任:配偶者と不倫相手は連帯して責任を負うため、被害者はどちらか一方に全額を請求することも、両方に分けて請求することも可能です。
- 求償権:例えば不倫相手が慰謝料全額を支払った場合、不倫相手は配偶者に対して「求償権」を行使し、負担割合に応じた金額の返還を求めることができます。
- 不倫相手の認識が重要:ただし、不倫相手が相手が既婚者であることを知らなかった場合や、知らないことに過失がなかった場合には、不法行為責任を問えないケースもあります。
離婚原因としての不貞行為
さらに、不倫は民法第770条で定められた「法定離婚事由」の一つにも該当します。同条第1項第1号では「配偶者に不貞な行為があったとき」と明記されており、不倫を理由に離婚を求めることができます。
この場合、離婚に伴う慰謝料請求も可能となり、離婚しない場合と比べて慰謝料額が高額になる傾向があります。不倫によって婚姻関係が破綻し、離婚という重大な結果に至った場合、精神的苦痛がより大きいと判断されるためです。
婚姻関係の保護という法の趣旨
このように不倫に対して法的責任が問われるのは、婚姻関係を法的に保護するという民法の基本的な考え方に基づいています。婚姻は単なる私的な関係ではなく、社会の基礎単位として法的に保護される制度です。
不倫によってこの婚姻関係が侵害された場合、被害を受けた配偶者の精神的苦痛を金銭的に補償することで、法的な救済を図るのが慰謝料制度の目的なのです。
次の章では、この法的根拠に基づいて実際に認められる慰謝料の相場について、具体的に見ていきましょう。
3. 不倫慰謝料の相場
不倫慰謝料を請求する際、最も気になるのが「実際にいくらもらえるのか」という点でしょう。慰謝料の金額は個別の事情によって大きく変わりますが、過去の判例や実務上の経験から、一定の相場が形成されています。
一般的な相場:50〜300万円程度
不倫慰謝料の一般的な相場は、50万円から300万円程度とされています。この幅が非常に大きいのは、不倫の態様や婚姻関係への影響度によって金額が大きく変動するためです。
実務上、以下のような傾向が見られます。
相場の目安
- 50万円〜100万円:不倫が一度きり、または短期間で、婚姻関係の破綻には至らなかったケース
- 100万円〜200万円:数ヶ月から1年程度の不倫関係があり、婚姻関係に深刻な影響を与えたが離婚には至らなかったケース、または離婚に至ったが不倫期間が短いケース
- 200万円〜300万円:長期間の不倫関係があり、その結果として離婚に至ったケース
- 300万円以上:極めて悪質な不倫で、子どもへの影響が深刻、妊娠・出産に至った、経済的損失も大きいなど、特別な事情があるケース
ただし、これはあくまで目安であり、個別の事情によっては相場を超える金額が認められることもあれば、相場より低くなることもあります。
相場が上がるケース
慰謝料額が高額になりやすいのは、以下のような要素が認められる場合です。
1. 離婚に至った場合
不倫が原因で離婚に至った場合、婚姻関係が完全に破綻したことを意味するため、慰謝料額は大幅に上昇します。離婚という重大な結果を招いた精神的苦痛は、婚姻関係を継続する場合と比べて格段に大きいと評価されるためです。
2. 不倫期間が長期にわたる場合
不倫関係が数年にわたって続いていた場合、被害者の精神的苦痛も長期間継続していたとみなされます。特に3年以上の長期不倫は、慰謝料額を押し上げる大きな要因となります。
3. 不倫の頻度が高い場合
単発的な不倫ではなく、頻繁に会って関係を持っていた場合、不法行為の程度が重いと判断されます。週に何度も会っていた、旅行を繰り返していたなどの事情は、慰謝料増額の理由になります。
4. 妊娠・出産に至った場合
不倫相手が妊娠し、出産に至った場合は、婚姻関係への影響が極めて深刻であるため、慰謝料額は大幅に上昇します。場合によっては300万円を超えることもあります。
5. 悪質な隠蔽工作があった場合
不倫の事実を隠すために嘘を重ねたり、証拠を隠滅したり、被害者を騙し続けたりした場合、その悪質性が慰謝料額に反映されます。
6. 不倫によって精神疾患を発症した場合
不倫発覚により被害者がうつ病やPTSDなどの精神疾患を発症し、通院や投薬が必要になった場合、精神的苦痛が客観的に証明されるため、慰謝料額は高くなります。
7. 幼い子どもがいる場合
未成年の子ども、特に幼い子どもがいる家庭での不倫は、子どもの養育環境を破壊する行為として重く見られます。子どもの年齢が低いほど、慰謝料額が上昇する傾向があります。
8. 加害者の社会的地位や経済力が高い場合
加害者が高収入であったり、社会的地位が高かったりする場合、支払能力があると判断され、慰謝料額が高めに設定されることがあります。
9. 不倫相手が配偶者の友人や同僚だった場合
信頼関係を裏切る形での不倫は、その背信性の高さから慰謝料額が上がる要因となります。特に配偶者の親友や親族との不倫は、極めて悪質とみなされます。
相場が低めになるケース
逆に、以下のような事情がある場合、慰謝料額は相場より低くなる傾向があります。
1. 一度きりの不倫の場合
一度だけの肉体関係で、継続的な関係ではなかった場合、精神的苦痛の程度が比較的軽いとみなされ、慰謝料額は低めになります。
2. 婚姻関係が既に破綻していた場合
不倫が始まる前から夫婦関係が冷え切っており、実質的に婚姻関係が破綻していたと認められる場合、慰謝料請求自体が認められないか、認められても金額は大幅に減額されます。別居が長期間続いていた、家庭内別居状態だったなどの事情がこれに該当します。
3. 不倫期間が短い場合
不倫関係が1〜2ヶ月程度の短期間で終わった場合、長期間の不倫と比べて慰謝料額は低くなります。
4. 不倫相手が既婚と知らなかった場合
不倫相手が相手が既婚者であることを知らず、独身だと信じていた場合で、そう信じることに合理的な理由があった場合には、不倫相手への請求額は大幅に減額されるか、請求自体が認められないこともあります。
5. 被害者側にも婚姻関係悪化の一因があった場合
DVやモラハラ、長期間の性交渉拒否など、被害者側にも婚姻関係を悪化させる原因があった場合、過失相殺的な考え方で慰謝料額が減額されることがあります。
6. 示談交渉で早期に解決した場合
訴訟まで至らず、当事者間の示談交渉で早期に解決した場合、訴訟費用や時間の節約という意味で、相場よりやや低めの金額で合意されることがあります。
7. 既に別の形で補償がなされている場合
不倫した配偶者が既に家を出て財産分与で大きく譲歩した、高額の解決金を支払ったなど、他の形で補償がなされている場合、慰謝料額は調整されることがあります。
相場を知ることの重要性
慰謝料の相場を知っておくことは、請求する側にとっても、請求される側にとっても重要です。
請求する側は、相場を踏まえて現実的な金額を設定することで、交渉をスムーズに進めることができます。逆に、相場を大きく超える過大な請求をすると、相手が交渉に応じず、訴訟になってしまう可能性が高まります。
請求される側は、相場を知ることで、提示された金額が妥当かどうかを判断でき、不当に高額な請求に対して適切に反論することができます。
次の章では、この相場を決定する具体的な要因について、さらに詳しく見ていきましょう。
4. 慰謝料金額を決める要因
不倫慰謝料の金額は、前章で見た相場を基準としながらも、個別の事情によって大きく変動します。裁判所が慰謝料額を決定する際、あるいは当事者間の示談交渉で金額を決める際には、さまざまな要因が総合的に考慮されます。
ここでは、慰謝料額に影響を与える主要な要因を詳しく解説します。
不倫期間や頻度
不倫期間の長さは、慰謝料額を決める最も重要な要因の一つです。
不倫関係が長期間続いていたということは、それだけ被害者が精神的苦痛を受け続けていた期間が長いことを意味します。また、長期間の不倫は、一時的な過ちというより計画的・継続的な背信行為とみなされ、悪質性が高いと評価されます。
- 1〜3ヶ月程度:短期間の不倫として、慰謝料額は低めに設定される傾向
- 6ヶ月〜1年程度:中期的な関係として、標準的な慰謝料額
- 1年〜3年:長期的な関係として、慰謝料額は高めに設定される
- 3年以上:極めて長期の不倫として、慰謝料額は大幅に上昇
不倫の頻度も重要な考慮要素です。同じ期間の不倫でも、月に1回会っていたケースと、週に何度も会っていたケースでは、後者の方が慰謝料額は高くなります。
頻繁に会っていたということは、それだけ婚姻生活がないがしろにされていたことを示し、配偶者に対する背信の度合いが大きいと判断されるためです。
被害者が離婚に至ったかどうか
離婚の有無は、慰謝料額に最も大きな影響を与える要因です。
不倫によって婚姻関係が完全に破綻し、離婚に至った場合、被害者の精神的苦痛は極めて大きいと評価されます。離婚は人生の大きな転機であり、経済的にも社会的にも大きな影響を受けるためです。
離婚した場合
- 慰謝料相場:150万円〜300万円程度
- 長年の婚姻関係が破綻した場合や、子どもがいる場合は、より高額になる傾向
- 被害者が離婚を望まなかったにもかかわらず、不倫が原因で離婚せざるを得なくなった場合は、特に高額
離婚しなかった場合
- 慰謝料相場:50万円〜150万円程度
- 婚姻関係は継続されるため、離婚した場合と比べて慰謝料額は低めに設定される
- ただし、不倫が原因で夫婦関係が著しく悪化し、家庭内別居状態になったような場合は、金額が上がることもある
なお、別居が長期化しているものの、まだ正式に離婚していない場合は、実質的な婚姻関係の状態によって判断されます。形式的には婚姻関係が続いていても、実質的に破綻していると認められれば、慰謝料額は離婚に準じた金額になることもあります。
不倫相手の認識(既婚と知っていたか)
不倫相手が相手が既婚者であることを知っていたかどうかは、特に不倫相手に慰謝料を請求する場合に重要な要因となります。
既婚と知っていた場合
不倫相手が相手が既婚者であることを明確に認識していながら関係を持った場合、故意の不法行為として、慰謝料責任が全面的に認められます。この場合、請求できる金額も相場の範囲内で決まります。
既婚と知らなかった場合
不倫相手が相手が既婚者であることを知らず、独身だと信じていた場合で、そう信じることに過失がなかった場合は、不法行為責任が成立しないため、慰謝料請求が認められないこともあります。
ただし、「知らなかった」と主張するだけでは不十分で、以下のような事情があると「知らないことに過失があった」と判断され、慰謝料責任が認められることがあります。
- 結婚指輪をしていたのに気づかなかった
- 自宅に招かれたことがあり、家族の気配があった
- SNSに家族との写真が多数投稿されていた
- 平日の夜や週末に会えないことが多かった
- 携帯電話の番号しか知らなかった
既婚と知った後も関係を継続した場合
当初は知らなかったものの、途中で既婚であることを知った後も関係を継続した場合、知った時点以降については慰謝料責任が発生します。この場合、知った後の期間の長さや頻度が慰謝料額の算定に影響します。
被害者が受けた精神的苦痛の大きさ
被害者の精神的苦痛の程度は、慰謝料の本質的な根拠であり、金額決定の重要な要因です。
精神疾患の発症
不倫の発覚によってうつ病、適応障害、PTSDなどの精神疾患を発症し、通院や投薬が必要になった場合、精神的苦痛が客観的に証明されるため、慰謝料額は大幅に上昇します。
診断書や通院記録、処方箋などが証拠となり、慰謝料の増額を裏付ける重要な資料となります。
社会生活への影響
精神的苦痛によって仕事を休職・退職せざるを得なくなった、社会生活に支障が出たなどの事情も、慰謝料額に反映されます。
子どもへの影響
不倫が子どもに与えた影響も考慮されます。子どもが不倫の事実を知ってショックを受けた、親の離婚によって転校を余儀なくされた、精神的に不安定になったなどの事情は、慰謝料増額の要因となります。
羞恥心や屈辱感
不倫の事実が周囲に知られてしまい、恥ずかしい思いをした、地域や職場で噂になったなどの事情も、精神的苦痛の大きさを示す要素として考慮されます。
加害者の経済力や社会的地位
加害者の経済力や社会的地位も、慰謝料額の決定に一定の影響を与えます。
経済力の考慮
加害者に高い支払能力がある場合、慰謝料額は高めに設定されることがあります。逆に、加害者の経済力が低い場合、現実的に支払可能な金額に調整されることもあります。
ただし、経済力は慰謝料額を決める主要な要因ではありません。あくまで精神的苦痛の程度が主たる基準であり、経済力は副次的な調整要素として考慮されるにすぎません。
社会的地位の影響
加害者が医師、弁護士、会社経営者など社会的地位が高い場合、以下の理由で慰謝料額が高めになることがあります。
- 高い社会的地位にある者は、より高い倫理観が求められる
- 高収入であるため、支払能力がある
- 不倫の発覚によって被害者が受ける社会的な恥辱感が大きい
職場不倫の場合の加重
特に、職場の上司と部下、取引先との関係など、力関係に差がある中での不倫は、その優越的地位を利用した悪質な行為とみなされ、慰謝料額が上がる要因となります。
その他の考慮要素
上記以外にも、以下のような要素が慰謝料額に影響します。
婚姻期間の長さ
長年連れ添った夫婦関係が不倫によって破綻した場合、失われたものの大きさから慰謝料額は高くなります。特に20年以上の長期婚姻の場合、この傾向が顕著です。
被害者の年齢
被害者が高齢で、離婚後に再婚の可能性が低い場合、将来にわたる精神的・経済的不安が大きいため、慰謝料額が高めになることがあります。
不倫の態様の悪質性
- 家族ぐるみの付き合いがある相手との不倫
- 配偶者の親友との不倫
- 自宅での不倫
- 家族旅行と偽っての不倫旅行
- 生活費を不倫に費やした
などの事情がある場合、その悪質性・背信性の高さから慰謝料額は上昇します。
これらの要因は、個別に評価されるのではなく、総合的に考慮されて最終的な慰謝料額が決定されます。次の章では、これらの要因をどのように金額に反映させるか、具体的な計算方法を見ていきましょう。
5. 慰謝料の計算方法
不倫慰謝料の計算は、単純な数式で機械的に算出できるものではありません。しかし、実務上は一定の算定基準や考え方が確立されており、それに基づいて金額が決定されています。
この章では、慰謝料がどのように計算されるのか、その仕組みと考え方を解説します。
判例や実務での算定基準
不倫慰謝料の金額は、過去の裁判例の蓄積によって一定の相場が形成されており、実務上はこの相場を基準として算定されます。
裁判所の判断基準
裁判所が慰謝料額を決定する際には、前章で述べた様々な要因を総合的に考慮して、「この事案では○○万円が相当である」という判断を下します。
この判断は、過去の類似事案でどの程度の金額が認められているかを参考にしながら、個別の事情を加味して行われます。そのため、同じような事案であれば、ある程度似た金額に収斂していく傾向があります。
実務での算定パターン
実務上、多くの弁護士や裁判官は、以下のような大まかな枠組みで慰謝料額を考えています。
- 基本的なケース分類
- 離婚あり・長期不倫 → 200〜300万円
- 離婚あり・短期不倫 → 100〜200万円
- 離婚なし・長期不倫 → 100〜200万円
- 離婚なし・短期不倫 → 50〜100万円
- 加算要素・減算要素の検討 この基本額に対して、個別の事情による加算・減算を行います。
これはあくまで大まかな目安であり、実際には事案ごとに細かく検討されますが、このような枠組みで考えることで、おおよその金額感を把握することができます。
「基本額 + 加算・減算要素」で決まる仕組み
慰謝料の計算は、「基本額」を設定し、そこに「加算要素」と「減算要素」を加味して最終額を決定するという考え方で整理できます。
STEP 1: 基本額の設定
まず、離婚の有無と不倫期間という二つの大きな要素から、基本となる金額を設定します。
- 離婚あり・長期不倫(1年以上) → 基本額 200万円
- 離婚あり・短期不倫(1年未満) → 基本額 150万円
- 離婚なし・長期不倫(1年以上) → 基本額 120万円
- 離婚なし・短期不倫(1年未満) → 基本額 80万円
STEP 2: 加算要素の検討
基本額に対して、以下のような事情がある場合は金額を増額します。
- 不倫期間が非常に長い(3年以上) → +30〜50万円
- 不倫の頻度が非常に高い → +20〜30万円
- 妊娠・出産に至った → +50〜100万円
- 幼い子どもがいる → +20〜50万円
- 被害者が精神疾患を発症した → +30〜50万円
- 悪質な隠蔽工作があった → +20〜40万円
- 不倫相手が配偶者の友人・同僚だった → +20〜30万円
- 自宅での不倫など態様が悪質 → +20〜40万円
- 加害者の社会的地位・収入が高い → +20〜50万円
- 婚姻期間が長い(20年以上) → +20〜30万円
STEP 3: 減算要素の検討
逆に、以下のような事情がある場合は金額を減額します。
- 不倫期間が極めて短い(1〜2ヶ月) → -20〜30万円
- 一度きりの不倫 → -30〜50万円
- 婚姻関係が既に悪化していた → -30〜70万円
- 不倫相手が既婚と知らなかった → -50〜100万円(または請求不可)
- 被害者側にも婚姻関係悪化の一因があった → -20〜50万円
- 示談で早期解決した → -10〜20万円
STEP 4: 最終調整
加算・減算を行った後、最終的に社会通念上妥当と言える金額に調整します。計算上は高額になっても、不倫慰謝料として過去に認められた最高額(概ね300〜500万円程度)を大きく超えることは稀です。
簡易的な計算イメージ
具体的な事例で、この計算方法を見てみましょう。
【事例1】離婚あり・2年間の不倫・子ども2人(小学生)
- 基本額(離婚あり・長期不倫):200万円
- 加算:不倫期間2年 → +30万円
- 加算:幼い子ども2人 → +30万円
- 加算:被害者がうつ病発症 → +40万円
- 合計:300万円
この事例では、離婚に至り、子どもへの影響も大きく、被害者が精神疾患を発症したという重大な事情があるため、慰謝料の上限に近い300万円が妥当と判断されます。
【事例2】離婚なし・6ヶ月の不倫・子どもなし
- 基本額(離婚なし・短期不倫):80万円
- 加算:頻繁に会っていた(週2〜3回) → +20万円
- 減算:示談で早期解決 → -10万円
- 合計:90万円
この事例では、離婚には至らず、不倫期間も半年と比較的短いため、基本額は低めです。ただし頻度が高かったという事情で若干増額され、最終的に90万円程度が妥当と判断されます。
【事例3】別居中の不倫・1年間の関係
- 基本額(離婚あり・長期不倫):200万円
- 減算:別居後の不倫で婚姻関係は既に破綻 → -100万円
- 合計:100万円
この事例では、形式的には婚姻関係が続いていますが、別居中の不倫であり、既に婚姻関係は実質的に破綻していたため、大幅に減額されます。場合によっては慰謝料請求自体が認められないこともあります。
【事例4】離婚あり・5年間の不倫・不倫相手との間に子どもが生まれた
- 基本額(離婚あり・長期不倫):200万円
- 加算:不倫期間5年 → +50万円
- 加算:妊娠・出産 → +100万円
- 加算:悪質な隠蔽工作 → +30万円
- 合計:380万円 → 調整後350万円
この事例は極めて悪質なケースです。計算上は380万円となりますが、不倫慰謝料としての一般的な上限を考慮して、350万円程度に調整されることが考えられます。
【事例5】離婚なし・3ヶ月の不倫・不倫相手は既婚と知らなかった
不倫した配偶者への請求:
- 基本額(離婚なし・短期不倫):80万円
- 減算:期間が短い → -20万円
- 合計:60万円
不倫相手への請求:
- 既婚と知らなかったことに過失がない場合 → 請求不可
- または、知らないことに過失があった場合 → 30〜50万円程度
この事例では、配偶者には60万円程度の慰謝料請求が可能ですが、不倫相手が既婚と知らなかった場合、不倫相手への請求は認められないか、大幅に減額されます。
計算の限界と個別性
ここまで計算方法を説明してきましたが、重要なのは慰謝料額の計算には明確な数式が存在しないということです。
上記の計算方法はあくまで金額感を把握するための目安であり、実際には以下のような点に注意が必要です。
1. 総合的な判断
裁判所は、個別の要素を機械的に加算・減算するのではなく、すべての事情を総合的に考慮して、「この事案ではこの金額が相当である」という判断を下します。
2. 事案の個別性
不倫事案は千差万別であり、同じような事情に見えても、細かい部分で大きく異なることがあります。したがって、類似の事案であっても、認められる金額が異なることは珍しくありません。
3. 立証の重要性
いくら重大な事情があっても、それを証拠によって立証できなければ、慰謝料額の算定に反映されません。例えば、「精神疾患を発症した」と主張するだけでなく、診断書や通院記録によって裏付ける必要があります。
4. 交渉と裁判の違い
当事者間の示談交渉では、必ずしも裁判所の基準どおりの金額で合意する必要はありません。早期解決のために相場より低い金額で合意することもあれば、相手が高額な支払いに同意することもあります。
一方、裁判になった場合は、裁判所が過去の判例に基づいて客観的に金額を判断するため、相場の範囲内に収まることがほとんどです。
弁護士による金額査定
実際に慰謝料を請求する際には、弁護士に相談して金額を査定してもらうことをお勧めします。
経験豊富な弁護士であれば、過去の類似事例と照らし合わせて、「このケースであれば○○万円程度が妥当である」という具体的なアドバイスを受けることができます。
また、示談交渉の段階では相場より高めの金額を提示し、交渉の中で適正額に近づけていくという戦略もあります。弁護士はこうした交渉戦術にも精通しているため、より有利な解決につながる可能性が高まります。
次の章では、実際に慰謝料を請求する具体的な方法と手順について解説します。
6. 慰謝料請求の方法
不倫慰謝料の金額が決まったら、次は実際に請求する手順に移ります。慰謝料請求には複数の方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
一般的には、まず任意の交渉から始め、それが不調に終わった場合に法的手続きに移行するという流れが取られます。
任意交渉 → 内容証明郵便での請求
慰謝料請求の第一段階は、当事者間の任意交渉です。いきなり裁判を起こすのではなく、まずは話し合いによる解決を目指すのが通常です。
直接交渉
最も簡単な方法は、不倫した配偶者や不倫相手に直接連絡を取り、慰謝料の支払いを求めることです。電話、メール、直接会って話すなど、方法は様々です。
ただし、この方法には以下のような問題点があります。
- 感情的になりやすく、冷静な話し合いが難しい
- 相手が支払いを拒否したり、無視したりすることがある
- 口頭でのやり取りでは、後で「言った・言わない」の争いになりやすい
- 脅迫や恐喝と誤解されるような言動をしてしまうリスクがある
内容証明郵便による請求
より確実な方法は、内容証明郵便で慰謝料請求書を送付することです。
内容証明郵便とは、「いつ、誰が、誰に、どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる郵便サービスです。以下のようなメリットがあります。
- 請求の事実が証拠として残る
- 正式な請求であることが相手に伝わり、心理的プレッシャーを与えられる
- 時効の中断(後述)に有効
- 弁護士名で送付すれば、さらに効果的
内容証明郵便に記載すべき内容
- 差出人(請求者)と受取人(相手方)の情報
- 不倫(不貞行為)の事実
- 不倫の期間、場所、頻度など具体的事実
- 不倫によって受けた損害(精神的苦痛、離婚に至った事実など)
- 慰謝料請求の法的根拠(民法709条など)
- 請求する慰謝料の金額
- 支払期限(通常は1〜2週間程度)
- 支払方法(振込先口座など)
- 期限までに支払いがない場合の対応(法的措置を取る旨)
内容証明郵便のサンプル構成
- 通知書
- 前略
- 私は、○○(配偶者の氏名)の配偶者である○○(差出人氏名)です。
- 貴殿は、令和○年○月頃から令和○年○月頃まで、私の配偶者である○○と不貞関係を持ち、複数回にわたり性的関係を持ちました。
- 貴殿のこの行為は、民法第709条に定める不法行為に該当し、私は多大な精神的苦痛を被りました。この不倫が原因で、私たち夫婦は令和○年○月に離婚するに至り、家庭は崩壊しました。
- よって、貴殿に対し、慰謝料として金○○○万円の支払いを請求いたします。
- つきましては、令和○年○月○日までに、下記口座に上記金額を振り込んでください。
- 【振込先】○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
- 口座名義:○○○○
- 期限までにお支払いいただけない場合は、法的措置を取らせていただきますので、ご承知おきください。
- 草々
- 令和○年○月○日
- 住所:○○○○
- 氏名:○○○○ 印
配偶者と不倫相手の両方に請求する場合
不倫した配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求することができます。ただし、両方から満額を受け取れるわけではなく、合計で慰謝料額を超えて受け取ることはできません(不当利得になるため)。
実務上は、以下のようなパターンがあります。
- 配偶者と不倫相手に対して、それぞれ同額を請求する(連帯責任のため)
- どちらか一方が全額を支払った場合、その者は他方に対して求償できる
- 配偶者とは離婚協議の中で処理し、不倫相手にのみ慰謝料を請求する
示談交渉の流れと注意点
内容証明郵便を送付した後、相手から何らかの反応があれば、示談交渉に入ります。
示談交渉の流れ
- 相手からの連絡 内容証明郵便送付後、相手から電話やメールで連絡が来ることが多いです。相手が弁護士を立てている場合は、弁護士から連絡が来ます。
- 金額や条件の交渉 請求額に対して、相手が「高すぎる」と主張することもあります。ここで金額の交渉が始まります。
- 分割払いの要望に応じるか
- 支払時期をどうするか
- 接触禁止などの条件を付けるか などを話し合います。
- 示談条件の確定 双方が合意できる条件がまとまったら、示談成立です。
示談交渉の注意点
① 感情的にならない 不倫問題は感情的になりやすいですが、冷静に交渉することが重要です。感情的な言動は、後で脅迫や恐喝と主張される可能性もあります。
② すべてを記録に残す 交渉内容は、できる限りメールやLINEなど記録が残る方法で行うか、電話の場合は通話内容を記録(メモ)しておきましょう。
③ 安易に金額を下げない 相手が「払えない」と主張しても、安易に大幅な減額に応じる必要はありません。相手の経済状況を確認し、分割払いなどの方法も検討しましょう。
④ 口頭での約束は危険 「来月必ず払います」という口約束だけで示談書を作成せずにいると、後で「そんな約束はしていない」と言われるリスクがあります。必ず書面化しましょう。
⑤ 弁護士への依頼を検討 自分で交渉するのが難しい場合や、相手が不誠実な対応をする場合は、早めに弁護士に依頼することをお勧めします。弁護士が入ることで、相手の態度が変わることも多いです。
示談書作成と公正証書化
示談が成立したら、必ず**示談書(合意書)**を作成します。口約束だけでは、後でトラブルになる可能性が高いためです。
示談書に記載すべき事項
- 当事者の氏名・住所
- 不倫の事実関係の確認
- 慰謝料の金額
- 支払方法(一括/分割、振込先など)
- 支払期限
- 遅延した場合の遅延損害金
- 接触禁止条項(不倫相手と配偶者が今後一切接触しないこと)
- 秘密保持条項(示談内容を第三者に漏らさないこと)
- 清算条項(この示談で不倫に関する一切の債権債務が解決したこと)
- 署名・押印・日付
示談書のサンプル
- 示談書
- ○○(以下「甲」という)と○○(以下「乙」という)は、乙と甲の配偶者である○○との不貞行為に関し、以下のとおり合意した。
- 第1条(不貞行為の確認)
- 乙は、令和○年○月から令和○年○月まで、甲の配偶者である○○と不貞関係にあったことを認め、甲に謝罪する。
- 第2条(慰謝料)
- 乙は、甲に対し、不貞行為による慰謝料として金○○○万円の支払義務があることを認める。
- 第3条(支払方法)
- 乙は、前条の慰謝料を、令和○年○月○日までに、甲の指定する下記口座に振り込んで支払う。振込手数料は乙の負担とする。
- 【振込先】○○銀行 ○○支店 普通預金 口座番号○○○○○○○
- 第4条(遅延損害金)
- 乙が前条の期限までに支払いを怠った場合、乙は甲に対し、支払期限の翌日から完済まで年14.6%の割合による遅延損害金を支払う。
- 第5条(接触禁止)
- 乙は、今後甲の配偶者○○と一切接触しないことを約束する。万一この約束に違反した場合は、違約金として金○○万円を甲に支払う。
- 第6条(秘密保持)
- 甲及び乙は、本示談の内容を第三者に開示又は漏洩してはならない。ただし、法令に基づく開示義務がある場合はこの限りでない。
- 第7条(清算)
- 甲及び乙は、本示談書に定めるもののほか、甲乙間には何らの債権債務がないことを相互に確認する。
- 以上、本示談成立の証として、本書2通を作成し、甲乙各1通を保有する。
- 令和○年○月○日
- 甲 住所○○○○
- 氏名○○○○ 印
- 乙 住所○○○○
- 氏名○○○○ 印
公正証書にするメリット
示談書をより強力なものにするために、公正証書として作成することをお勧めします。
公正証書とは、公証役場で公証人に作成してもらう公的な文書です。以下のようなメリットがあります。
- 強制執行が可能:「強制執行認諾文言」を入れておけば、相手が支払いを怠った場合、裁判を起こさずに直接強制執行(給与差押えなど)ができます
- 証拠力が高い:公的な文書であるため、後で「署名していない」などと争われにくい
- 心理的プレッシャー:公正証書にすることで、相手に「これは重大な約束だ」という認識を持たせられる
特に、分割払いの合意をする場合は、公正証書にしておくことを強くお勧めします。
公正証書作成の手順
- 当事者間で示談内容を合意
- 公証役場に連絡し、予約を取る
- 必要書類(本人確認書類、示談内容のメモなど)を準備
- 公証役場で公証人と内容を確認
- 当事者双方が公証役場に出向き、署名・押印
- 公正証書が作成され、正本・謄本を受け取る
費用は慰謝料額に応じて数万円程度かかりますが、後のトラブルを防ぐ投資と考えれば決して高くありません。
調停や訴訟に移行するケース
任意の示談交渉がまとまらない場合、法的手続きに移行します。
調停(民事調停)
調停とは、裁判所で調停委員を介して話し合いを行う手続きです。訴訟より費用が安く、手続きも比較的簡単です。
- メリット:訴訟より費用・時間が少ない、柔軟な解決ができる、調停調書は判決と同じ効力がある
- デメリット:相手が出席しない、または合意しない場合は不成立になる、強制力はない
調停を申し立てるには、相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に「調停申立書」を提出します。
訴訟(民事訴訟)
調停が不成立の場合、または最初から訴訟を提起することもできます。
訴訟では、裁判官が証拠に基づいて判決を下します。相手が欠席しても判決が出るため、相手が非協力的な場合でも解決できます。
- メリット:強制力がある、相手が協力しなくても判決が出る、判決は強制執行の根拠となる
- デメリット:費用がかかる(弁護士費用含む)、時間がかかる(半年〜1年以上)、公開法廷で審理される
訴訟を提起するには、相手方の住所地または不法行為地を管轄する地方裁判所(請求額140万円以下の場合は簡易裁判所)に「訴状」を提出します。
訴訟の流れ
- 訴状提出
- 第1回口頭弁論期日の指定
- 相手方への訴状送達
- 口頭弁論(主張・立証)
- 和解勧試(裁判所が和解を勧めることが多い)
- 和解成立または判決
実際には、訴訟の途中で裁判所の和解勧告により和解で解決することも多いです。
次の章では、訴訟や調停で重要となる「証拠」について詳しく解説します。
7. 請求に必要な証拠
不倫慰謝料を請求する際、最も重要なのが証拠です。いくら「不倫があった」と主張しても、それを証明できる証拠がなければ、慰謝料請求は認められません。
特に、示談交渉が決裂して訴訟になった場合、証拠の有無が勝敗を分けます。
不貞を立証できる有力な証拠
不倫(不貞行為)を立証するためには、「配偶者と不倫相手が性的関係を持った」ことを証明する必要があります。
ただし、性行為そのものを撮影した写真や動画が必要というわけではありません。「性的関係を持ったと推認できる」証拠があれば十分です。
最も有力な証拠
① ホテルへの出入りの写真・動画
ラブホテルや宿泊施設に二人で入り、数時間後に出てくる様子を撮影した写真や動画は、最も有力な証拠です。
- ラブホテルへの出入り → 1回でも強力な証拠
- ビジネスホテルや旅館への宿泊 → できれば複数回の証拠があると良い
- 日時が特定できる証拠(タイムスタンプ付き)が望ましい
② 探偵による調査報告書
探偵事務所に依頼して作成してもらった調査報告書は、裁判でも有力な証拠として認められます。
- 尾行調査による行動記録
- ホテル出入りの写真・動画
- 日時、場所の詳細な記録
- 複数回の調査による継続的な関係の立証
探偵の調査報告書は、専門的で客観的な証拠として高く評価されます。
③ 性的関係を認める発言の録音・メール・LINE
- 「昨日のホテルは良かったね」というようなメッセージ
- 「また会いたい」「愛している」などの親密なやり取り
- 不倫を認める謝罪のメールや音声
- 性的な内容を含むメッセージ
これらは、性的関係があったことを裏付ける重要な証拠になります。
その他の有力な証拠
④ クレジットカードの利用明細
- ラブホテルでのカード決済記録
- 避妊具やアダルトグッズの購入履歴
- 二人で利用したレストランや旅行の決済記録
⑤ 交通ICカードの履歴
不倫相手の自宅付近への移動記録、深夜の帰宅記録などは、状況証拠として有効です。
⑥ GPS記録やスマートフォンの位置情報
配偶者のスマートフォンの位置情報履歴から、ラブホテルや不倫相手宅への訪問が証明できることがあります。
⑦ 写真や動画(性行為以外)
- 二人で親密に食事している写真
- 旅行先でのツーショット写真
- 手をつないでいる、抱き合っているなどの写真
これらは単独では弱い証拠ですが、他の証拠と合わせることで、不倫関係を補強する材料になります。
⑧ 妊娠・出産の事実
不倫相手が妊娠し、配偶者との子であることが DNA鑑定などで証明された場合、これ以上ない決定的な証拠となります。
⑨ 第三者の証言
不倫を目撃した人の証言や陳述書も証拠になります。ただし、利害関係のない第三者の証言でないと、証拠価値は低くなります。
⑩ 配偶者や不倫相手の自白
本人が不倫を認めた場合の供述書、念書、謝罪文なども有力な証拠です。特に、自筆で署名・押印されたものは証拠価値が高いです。
証拠収集の注意点(違法手段はNG)
証拠を集める際には、違法な方法を用いてはいけません。違法に収集した証拠は、裁判で証拠として認められない可能性があるだけでなく、逆に あなた自身が法的責任を問われることもあります。
やってはいけないこと
① 住居侵入
配偶者や不倫相手の自宅に無断で侵入して証拠を探すことは、住居侵入罪に該当します。
- 不倫相手の自宅に侵入 → 完全に違法
- 自分と配偶者の自宅でも、配偶者の私物を漁る行為は問題になる可能性がある
② 盗聴器の設置
相手の自宅や車に無断で盗聴器を設置することは違法です。
ただし、自分名義の車や、自宅内での会話を録音することは、原則として許容されると考えられています(ただし、グレーゾーンであり、慎重な判断が必要)。
③ GPSの無断設置
配偶者の車に無断でGPS機器を取り付けて行動を監視することは、プライバシー侵害として違法と判断される可能性が高いです。
最高裁判例でも、GPS捜査が令状なしでは違法とされており、私人による無断GPS設置も同様に違法性が高いと考えられています。
④ 不正アクセス
配偶者や不倫相手のメールアカウント、SNS、スマートフォンに無断でアクセスすることは、不正アクセス禁止法違反となります。
- パスワードを無断で使ってログイン → 違法
- 勝手にスマートフォンのロックを解除 → グレーゾーン
⑤ 盗撮
不倫相手の自宅内など、プライバシーが保護されるべき場所での盗撮は違法です。
ただし、公道やホテルの出入口など公共の場所での撮影は、一般的には適法とされています。
⑥ 暴力や脅迫による自白の強要
暴力を振るったり、脅迫したりして不倫を自白させることは、当然ながら違法です。得られた自白も証拠として認められません。
適法な証拠収集方法
では、どのようにして証拠を集めればよいのでしょうか。
① 自分のスマートフォンや共有財産の確認
- 自分名義のスマートフォンの通話履歴やメッセージ
- 共有のパソコンに残された履歴
- 自分が契約者の電話料金明細、クレジットカード明細
これらは自分の財産・契約なので、確認すること自体は問題ありません。
② 配偶者のスマートフォンの確認
配偶者のスマートフォンを見ることは、厳密には本人の同意が必要ですが、夫婦間では一定の範囲で許容されると考えられています。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 日常的に見られる状態になっているものを見る程度なら許容される可能性が高い
- ロックを不正に解除する、パスワードを盗み見るなどの行為は違法性が高い
- 見た内容を撮影・コピーすることは慎重に判断すべき
実務上は、配偶者のスマートフォンから得た証拠が裁判で使われることもありますが、取得方法によっては証拠能力が争われることもあります。
③ 探偵への依頼
最も確実で適法な方法は、探偵事務所に調査を依頼することです。
探偵は探偵業法に基づいて営業しており、適法な範囲で調査を行います。
- 尾行・張り込みによる行動確認
- 公共の場所での撮影
- 聞き込み調査
これらの方法で得られた証拠は、裁判でも十分な証拠能力が認められます。
費用は事務所や調査期間によって異なりますが、一般的に30万円〜100万円程度かかります。しかし、決定的な証拠を得るためには必要な投資と言えるでしょう。
④ 相手の自白を促す
相手に不倫を認めさせ、その内容を録音したり、書面にしてもらったりすることも有効です。
- 冷静に話し合い、事実確認をする
- 「やり直したいから本当のことを教えてほしい」というトーンで聞く
- 録音する場合は、相手に知られないように行う(自分が当事者の会話を録音することは適法)
- 可能であれば、不倫を認める内容の念書や謝罪文を書いてもらう
ただし、脅迫や強要にならないよう注意が必要です。
⑤ 公共の場所での観察・撮影
公道、駅、ホテルの出入口など、公共の場所で二人の様子を観察したり撮影したりすることは、原則として適法です。
ただし、執拗につきまとう行為はストーカー規制法に抵触する可能性があるため、注意が必要です。
証拠の保全方法
証拠を見つけたら、適切に保全することが重要です。
デジタル証拠の保全
- 写真で撮影:スマートフォンの画面に表示されたメッセージなどは、別のカメラやスマートフォンで撮影して保存
- スクリーンショット:画面をスクリーンショットで保存
- バックアップ:データは複数の場所に保存(クラウド、USBメモリなど)
- タイムスタンプ:日時が分かるように保存
- 改変不可能な形式:可能であればPDF化するなど、後で改変できない形で保存
物的証拠の保全
- 原本の保管:念書、手紙などの原本は大切に保管
- コピーの作成:原本は保管し、コピーを交渉などで使用
- 写真撮影:念のため、全体と細部を写真撮影しておく
証拠の整理
証拠は時系列で整理し、「いつ、どこで、何があったか」が明確に分かるようにしておくと、訴訟になった際にスムーズです。
証拠一覧表を作成し、各証拠に番号を付けて管理することをお勧めします。
証拠がない場合の対処法
決定的な証拠がない場合でも、諦める必要はありません。
状況証拠の積み重ね
単独では弱い証拠でも、複数を組み合わせることで不倫を立証できることがあります。
- 頻繁なメッセージのやり取り
- 深夜の外出や帰宅の記録
- 二人きりで会っている写真
- 親密な関係を示唆する会話の録音
- クレジットカードの不審な利用履歴
これらを総合的に見て、「不倫があったと推認できる」と判断される場合もあります。
相手の反応を利用
証拠が不十分でも、内容証明郵便で慰謝料請求をすると、相手が慌てて不倫を認める返答をしてくることがあります。その返答自体が証拠になります。
探偵への依頼を検討
証拠が不十分な段階でも、探偵に依頼すれば決定的な証拠を掴める可能性があります。すでに不倫の兆候があるなら、探偵による調査は非常に有効です。
次の章では、慰謝料請求にあたって注意すべき「時効」について解説します。
8. 時効と注意点
不倫慰謝料には請求できる期限があります。時効が成立すると、どんなに正当な請求でも認められなくなってしまうため、時効について正しく理解しておくことが重要です。
慰謝料請求権の消滅時効は「不倫を知った時から3年」
不倫慰謝料の請求権には、消滅時効があります。民法第724条に基づき、以下の二つの時効期間が定められています。
① 主観的起算点からの3年
「損害及び加害者を知った時から3年」で時効が成立します。
これは、被害者が以下のことを知った時点から起算されます。
- 配偶者が不倫をしたこと(損害)
- 不倫相手が誰であるか(加害者)
重要なのは、**「不倫があったことを知った時」**が起算点になるという点です。不倫が実際に行われた時点ではありません。
具体例
- 2020年に不倫が行われた
- 2023年5月に不倫の事実が発覚した
- → 時効は2026年5月まで(発覚から3年)
「知った時」の判断
「知った」というのは、単なる疑いや噂ではなく、確実に不倫があったと認識した時点を指します。
- 不倫の決定的な証拠(ホテル出入りの写真など)を見た時
- 配偶者や不倫相手が不倫を認めた時
- 探偵の調査報告書を受け取った時
ただし、実務上は「いつ知ったか」が争点になることもあります。「2年前から薄々気づいていたが、確証を得たのは最近」というようなケースでは、時効の起算点が問題になります。
不倫相手への請求の場合
不倫相手への請求の場合、「不倫相手が誰か」を知った時が起算点になります。
配偶者の不倫は知っていたが、相手が誰かは最近まで知らなかった場合、相手を知った時から3年間は請求できます。
20年経過で完全に消滅する「除斥期間」
② 客観的起算点からの20年(除斥期間)
「不法行為の時から20年」で権利が消滅します。
これは、被害者が知っていたかどうかに関わらず、不倫行為そのものが行われた時から20年で権利が完全に消滅するという規定です。
これを除斥期間と呼びます。
具体例
- 2005年に不倫が行われた
- 2024年に初めて不倫の事実を知った
- → すでに19年が経過しているため、2025年には除斥期間により請求できなくなる
ただし、実際には20年前の不倫を立証することは困難なため、除斥期間が問題になるケースは稀です。
時効中断の方法
時効が完成する前に、時効を中断(リセット)させる方法があります。正確には、2020年の民法改正により「時効の更新」「時効の完成猶予」という用語に変わりましたが、実質的な意味は同じです。
① 請求(裁判上の請求)
訴訟を提起することで、時効は中断(更新)されます。訴訟で判決が確定すれば、新たに判決確定時から10年の時効が開始します。
② 裁判外の請求(催告)
内容証明郵便で慰謝料を請求することで、6ヶ月間だけ時効の完成が猶予されます。
ただし、この6ヶ月以内に訴訟提起などの正式な手続きを取らないと、時効は猶予されなかったことになります。
つまり、内容証明郵便は時効を一時的に止める効果しかないため、時効が近い場合は速やかに訴訟提起を検討する必要があります。
③ 承認
相手が慰謝料の支払義務があることを認める(承認する)と、時効は中断(更新)されます。
- 「支払います」という書面をもらう
- 慰謝料の一部でも支払ってもらう
- 示談交渉の中で支払義務を認める発言を録音
これらの行為により、承認の時点から新たに3年の時効が開始します。
④ 調停の申立て
調停を申し立てると、調停が終了するまで時効の完成が猶予されます。調停不成立の場合でも、その後6ヶ月間は時効が猶予されます。
時効に関する実務上の注意点
早めに行動する
時効が迫っている場合、「もう少し証拠を集めてから」「もう少し考えてから」と悠長に構えていると、時効が完成してしまいます。
不倫を知ってから2年以上経過している場合は、速やかに弁護士に相談し、少なくとも内容証明郵便を送付して時効を一時的に止めることをお勧めします。
継続的な不倫の場合
不倫関係が長期間続いていた場合、どの時点を基準に時効を計算するかが問題になります。
裁判例では、最後の不倫行為の時点を基準とする考え方が一般的です。つまり、不倫関係が2015年から2023年まで続いていた場合、2023年の最後の不倫行為について知った時から3年間は請求できると考えられます。
離婚後の請求
離婚してから時間が経過した後に、離婚原因が不倫だったことが判明した場合でも、その事実を知った時から3年以内であれば請求できます。
配偶者と不倫相手で時効が異なる場合
配偶者の不倫は早くに知っていたが、不倫相手が誰かを知ったのは最近、というケースでは、配偶者への請求は時効にかかっていても、不倫相手への請求はまだできる、ということもあります。
時効援用の必要性
時効は自動的に成立するわけではなく、相手が「時効を援用する(時効を主張する)」ことで初めて効力が生じます。
ただし、相手が時効を知らずに支払いに応じるケースもあるため、時効期間が経過していても、必ずしも請求できないとは限りません。しかし、これはあくまで相手の無知に乗じるものであり、倫理的にも法的にも望ましい方法ではありません。
次の章では、慰謝料が支払われない場合の対処法について解説します。
9. 慰謝料が支払われない場合の対処
示談が成立し、または裁判で判決が出たにもかかわらず、相手が慰謝料を支払わない場合があります。このような場合、法的手段によって強制的に回収する方法があります。
公正証書・調停調書による強制執行
相手が任意に支払わない場合、強制執行という手続きによって、相手の財産を差し押さえることができます。
ただし、強制執行を行うには、以下のいずれかの債務名義(強制執行の根拠となる公的文書)が必要です。
債務名義の種類
① 判決
訴訟で勝訴し、判決が確定すれば、それが債務名義となります。
② 和解調書
訴訟の途中で和解が成立した場合、裁判所が作成する和解調書が債務名義となります。
③ 調停調書
調停で合意が成立した場合の調停調書も債務名義となります。
④ 強制執行認諾文言付き公正証書
公正証書に「債務者は、本件債務を履行しないときは、直ちに強制執行に服する旨陳述した」という文言(強制執行認諾文言)を入れておけば、訴訟を経ずに強制執行ができます。
これが、示談書を公正証書にするべき最大の理由です。
強制執行の手続き
- 債務名義を取得
- 執行文の付与を受ける(判決などの場合)
- 相手の財産を特定
- 地方裁判所に強制執行の申立て
- 裁判所が差押命令を発令
- 差押えの実行
強制執行は専門的な手続きなので、通常は弁護士に依頼します。
給与・預金の差押え
強制執行の対象となる財産には、様々なものがあります。
給与の差押え
相手が会社員など給与所得者の場合、給与の差押えが最も効果的です。
- 給与の4分の1まで差し押さえ可能(ただし、給与が44万円を超える場合は、33万円を超える部分は全額差押え可能)
- 毎月継続的に回収できる
- 勤務先に差押えの事実が知られるため、心理的プレッシャーが大きい
給与差押えを行うには、相手の勤務先を特定する必要があります。
預金の差押え
銀行口座の預金を差し押さえることもできます。
- 差押え時点の預金残高から回収
- 複数の銀行・支店を対象にできる
- ただし、どの銀行のどの支店に口座があるかを特定する必要がある
相手の口座がある銀行・支店が分からない場合、差押えは困難です。ただし、2020年の民事執行法改正により、裁判所を通じて銀行に口座情報の開示を求める制度が創設され、以前より容易になりました。
その他の財産の差押え
- 不動産(土地・建物)
- 自動車
- 株式などの有価証券
- 生命保険の解約返戻金
- 売掛金・債権
ただし、これらは換価(現金化)に時間がかかることや、手続きが複雑なことから、給与や預金の差押えほど容易ではありません。
相手に資力がない場合の対応
最も困難なのは、相手に全く資力がない場合です。
法的には慰謝料請求権が認められても、「ない袖は振れない」という状況では、実際の回収は困難です。
分割払いの交渉
一括では払えなくても、分割であれば払える可能性があります。
- 月々数万円ずつの分割払い
- ボーナス時に増額払い
- 数年かけての長期分割
分割払いを認める場合は、必ず公正証書にしておくことが重要です。途中で支払いが滞った場合、残額全額について強制執行ができるようにしておきます(期限の利益喪失条項)。
連帯保証人を立てる
相手に資力がない場合、親や兄弟などに連帯保証人になってもらうことも一つの方法です。
配偶者と不倫相手の両方に請求
配偶者と不倫相手は連帯して責任を負うため、どちらか一方に全額を請求することができます。
例えば、不倫した配偶者に資力がない場合、不倫相手に全額を請求し、不倫相手が支払った後に、不倫相手が配偶者に求償するという形になります。
実務上は、資力のある方に請求するのが効率的です。
財産調査の活用
前述のとおり、民事執行法改正により、裁判所を通じて以下の情報を取得できるようになりました。
- 銀行の預金口座情報
- 勤務先情報(給与差押えのため)
- 不動産情報
- 株式・国債などの情報
これにより、相手が財産を隠していても、発見できる可能性が高まっています。
現実的な妥協も必要
残念ながら、相手に本当に資力がない場合、満額の回収は諦めざるを得ないこともあります。
- 減額に応じて早期に確実に回収する
- 現実的な範囲での分割払いで合意する
- 一部でも回収できればよしとする
法的には正当な権利があっても、実際の回収可能性は別問題です。弁護士と相談しながら、現実的な落としどころを探ることも重要です。
時効の管理
分割払いの場合、支払いが滞ったときにすぐに対応しないと、時効が問題になることがあります。
- 定期的に支払状況を確認
- 滞納があれば速やかに督促
- 必要に応じて訴訟提起や強制執行
長期の分割払いの場合、時効管理には特に注意が必要です。
次の章では、これまでの内容をまとめ、実務的なチェックリストを提示します。
10. まとめ・実務チェックリスト
ここまで、不倫慰謝料について、法的根拠から相場、計算方法、請求の流れ、証拠、時効、回収方法まで、幅広く解説してきました。
最後に、実際に慰謝料請求を進める際の実務的なチェックリストとして、重要なポイントをまとめます。
相場を把握して金額をイメージする
✓ 自分のケースがどこに当てはまるか確認
- 離婚するか、しないか
- 不倫期間はどれくらいか
- 子どもはいるか
- 悪質な事情があるか
- 減額要素はないか
✓ おおよその相場を把握
- 離婚あり・長期不倫 → 200〜300万円
- 離婚あり・短期不倫 → 100〜200万円
- 離婚なし・長期不倫 → 100〜200万円
- 離婚なし・短期不倫 → 50〜100万円
✓ 現実的な金額設定
相場を大きく超える請求は、交渉を難航させる原因になります。弁護士に相談して、適正な金額を設定しましょう。
証拠を確保する
✓ 不倫の証拠を集める
- ホテル出入りの写真・動画
- 性的関係を示すメッセージ
- クレジットカード利用明細
- 相手の自白(録音・念書)
✓ 探偵への依頼を検討
証拠が不十分な場合、探偵に調査を依頼することで決定的な証拠を得られる可能性があります。
✓ 証拠の保全
- デジタルデータはバックアップ
- 日時が分かるように保存
- 時系列で整理
✓ 違法な証拠収集は避ける
- 住居侵入
- 不正アクセス
- 無断GPS設置
- 盗聴
これらの方法で得た証拠は使えないだけでなく、自分が法的責任を問われる可能性があります。
内容証明で請求 → 示談交渉
✓ 内容証明郵便を作成・送付
- 不倫の事実
- 慰謝料の金額
- 支払期限
- 振込先
を明記した内容証明郵便を送付します。
✓ 相手の反応を待つ
- 支払いに応じる
- 減額交渉を申し出る
- 無視する・拒否する
✓ 示談交渉
- 冷静に交渉する
- 記録を残す(メール・LINE)
- 安易に大幅減額しない
- 分割払いも検討
✓ 示談書の作成
合意ができたら、必ず書面化します。
- 慰謝料額
- 支払方法・期限
- 接触禁止条項
- 清算条項
✓ 公正証書化を検討
特に分割払いの場合は、公正証書にすることを強くお勧めします。
不調なら調停・訴訟へ
✓ 示談が不調の場合の選択肢
- 調停を申し立てる
- 訴訟を提起する
✓ 弁護士への依頼
調停や訴訟になる場合は、弁護士に依頼することをお勧めします。
- 手続きが複雑
- 専門的な主張・立証が必要
- 弁護士が入ることで相手の態度が変わることも
✓ 訴訟の覚悟
訴訟には時間(半年〜1年以上)と費用(弁護士費用など)がかかります。その覚悟と準備が必要です。
✓ 和解の可能性
訴訟の途中で裁判所が和解を勧めることが多く、実際には和解で終わることも多いです。柔軟に対応しましょう。
時効に注意して早めに行動する
✓ 時効期間の確認
- 不倫を知ってからどれくらい経過しているか
- 3年が近づいていないか
✓ 時効が近い場合の対応
- 速やかに内容証明郵便を送付(6ヶ月の猶予)
- その間に訴訟提起の準備
- 必要に応じて調停・訴訟を申し立てる
✓ 時効の中断(更新)
- 相手が支払義務を認める(承認)
- 一部でも支払ってもらう
- 訴訟・調停を申し立てる
✓ 早めの行動が重要
「いつか請求しよう」と先延ばしにしていると、時効が成立してしまいます。不倫を知ったら、できるだけ早く行動を起こしましょう。
その他の重要チェックポイント
✓ 感情のコントロール
不倫問題は感情的になりやすいですが、冷静に対応することが重要です。
- 脅迫・恐喝と取られる言動は避ける
- 暴力は絶対にダメ
- SNSでの誹謗中傷も避ける
✓ プライバシーへの配慮
不倫の事実を周囲に言いふらすと、名誉毀損やプライバシー侵害で逆に訴えられる可能性があります。
- 職場や近所への通知は慎重に
- SNSへの投稿は避ける
- 示談書に秘密保持条項を入れる
✓ 子どもへの配慮
子どもがいる場合、子どもへの影響を最小限にすることを考えましょう。
- 子どもの前で激しく争わない
- 子どもを巻き込まない
- 養育環境の確保を優先
✓ 離婚するか否かの判断
不倫慰謝料だけでなく、離婚するかどうかも重大な決断です。
- 慰謝料だけもらって婚姻継続
- 離婚して慰謝料+財産分与+養育費
- 一度冷静になって考える時間を取る
✓ 専門家への相談
不倫慰謝料は法律問題であり、専門的な知識が必要です。
- 弁護士への相談(初回無料相談を活用)
- 法テラスの利用(経済的に困難な場合)
- 自治体の法律相談窓口
✓ 記録を残す習慣
請求を始めた時点から、すべての経過を記録に残しましょう。
- 相手とのやり取り(メール・LINE・電話内容)
- 送付した文書のコピー
- 相手の反応や発言
- 交渉の経過
- 支払状況
後で争いになったときに、これらの記録が重要な証拠になります。
✓ 精神的ケアも忘れずに
不倫問題は精神的に大きなダメージを受けます。
- 必要に応じてカウンセリングを受ける
- 信頼できる人に相談する
- 一人で抱え込まない
- うつ症状などがあれば医療機関を受診
精神的なダメージの記録(診断書・通院記録)は、慰謝料増額の根拠にもなります。
最終的なアドバイス
不倫慰謝料の請求は、法的権利の行使であると同時に、精神的な区切りをつけるプロセスでもあります。
冷静さと戦略性が成功の鍵
感情的になるのは当然ですが、慰謝料請求を成功させるには、冷静に戦略的に進めることが重要です。
- 証拠をしっかり集める
- 相場を踏まえた現実的な金額を設定する
- 適切な手順で請求する
- 時効に注意する
- 必要に応じて専門家の力を借りる
完璧を求めすぎない
「相場より少し低いが、早期に確実に回収できる」という選択肢も、時には合理的です。完璧な解決を追求するあまり、時間と労力を浪費し、結局何も得られないという事態は避けたいものです。
前を向いて進む
慰謝料請求は重要ですが、それがすべてではありません。請求を通じて一定の区切りをつけたら、前を向いて新しい人生を歩んでいくことも大切です。
- 離婚して新しい人生をスタートする
- 夫婦関係を再構築する
- 子どもの幸せを最優先に考える
慰謝料請求はその一つの手段であり、最終的な目標は、あなた自身とあなたの家族が幸せになることです。
ケース別の対応フローチャート
最後に、状況別の対応フローを簡単にまとめます。
【ケース1】証拠十分・相手も認めている・離婚予定
- 弁護士に相談し、適正な慰謝料額を確認
- 内容証明郵便で請求(200〜300万円程度)
- 示談交渉(離婚協議と並行)
- 公正証書で示談書作成
- 離婚届提出・慰謝料受領
【ケース2】証拠不十分・相手は否定
- 探偵に依頼して決定的な証拠を入手
- 証拠を揃えてから内容証明郵便で請求
- 相手が認めたら示談交渉へ
- 認めない場合は訴訟を検討
【ケース3】証拠十分・相手が支払拒否・婚姻継続
- 内容証明郵便で請求
- 拒否されたら調停申立て
- 調停不成立なら訴訟提起
- 判決取得後、強制執行
【ケース4】不倫発覚から2年半経過・これから請求
- 時効が迫っているため、速やかに内容証明郵便送付
- 6ヶ月以内に訴訟または調停を申立て
- 並行して証拠収集
- 訴訟で判決取得
【ケース5】配偶者とは示談済み・不倫相手にも請求したい
- 配偶者から受領した慰謝料を確認
- 不倫相手に対し、差額または全額を請求
- 不倫相手が支払った場合、配偶者に求償する権利がある(相手間の問題)
- 被害者は合計で慰謝料額を超えて受け取ることはできない
本記事のまとめ
不倫慰謝料は、法律に基づいた正当な権利です。しかし、その請求を成功させるには、以下のポイントを押さえることが重要です。
重要ポイント再確認
- 法的根拠:民法709条の不法行為責任に基づく
- 相場:50〜300万円程度(離婚の有無、期間、悪質性による)
- 証拠:ホテル出入り写真、メッセージ、探偵報告書など
- 請求方法:内容証明郵便→示談交渉→調停・訴訟
- 時効:不倫を知ってから3年(除斥期間は20年)
- 回収:公正証書作成、強制執行の準備
行動を起こす前に
- 冷静に状況を整理する
- 証拠を確保する
- 弁護士に相談する
- 自分の目標を明確にする(離婚するか、婚姻継続か)
- 時効を確認する
請求を進める際に
- 現実的な金額を設定する
- 感情的にならず冷静に交渉する
- すべてを記録に残す
- 示談書は必ず書面化・公正証書化
- 必要に応じて法的手段を取る
そして最後に
不倫慰謝料の問題は、法律的な側面だけでなく、あなたの人生の重要な転機でもあります。
適切に権利を行使することは大切ですが、それ以上に大切なのは、この辛い経験を乗り越えて、あなた自身が幸せになることです。
慰謝料請求は、その一つのステップに過ぎません。専門家の力も借りながら、冷静に、そして戦略的に進めていってください。
そして、この困難な時期を乗り越えた先には、必ず新しい人生が待っています。

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。