はじめに|DVシェルターとは
ドメスティックバイオレンス(DV)は、配偶者や恋人など親密な関係にある人からの暴力や精神的苦痛を与える行為のことです。日本では年間約10万件以上のDV相談が寄せられており、深刻な社会問題となっています。
DVシェルターとは、こうしたDV被害者とその子どもが一時的に安全に暮らすことができる避難施設のことです。加害者からの暴力や脅迫から身を守るための重要な保護機能を果たしており、被害者の生命と安全を最優先に考えた支援体制が整えられています。
シェルターの運営主体
DVシェルターは主に以下の組織によって運営されています:
自治体運営
- 都道府県や市区町村が直接運営
- 女性相談支援センター(旧婦人相談所)が中心
- 公的な資金による運営で比較的安定した支援が可能
民間団体・NPO運営
- 女性支援に特化したNPO法人
- 宗教団体や市民団体による運営
- より柔軟で個別性の高い支援が特徴
いずれの施設も、入所者の安全確保を最優先とし、所在地や連絡先などの情報は厳格に秘匿されています。これは、加害者による追跡や報復を防ぐための重要な措置です。
シェルターが提供する基本的な機能
DVシェルターは単なる宿泊施設ではありません。被害者の心身の回復と自立に向けた総合的な支援を提供する場所として機能しています。
安全な住環境の提供 24時間体制での安全管理と、プライバシーが守られた生活空間を提供します。多くの施設では、母子での利用が可能で、子どもの年齢や性別に配慮した部屋割りが行われています。
専門スタッフによる支援 心理カウンセラー、社会福祉士、看護師などの専門職員が常駐し、被害者一人ひとりの状況に応じた個別支援計画を策定・実行します。
関係機関との連携 警察、裁判所、弁護士会、医療機関、福祉事務所など、多くの関係機関と連携し、被害者の問題解決に向けた包括的なサポートを提供します。
シェルター利用の条件
DVシェルターの利用には一定の条件があります。これらの条件は、限られた収容能力の中で最も支援を必要とする人々を優先的に保護するために設けられています。
基本的な利用条件
DV被害の事実または可能性 現在進行形でDV被害を受けている人、または今後被害を受ける具体的な危険性がある人が対象となります。身体的暴力だけでなく、精神的暴力、経済的暴力、性的暴力なども含まれます。
具体的な被害例:
- 殴る、蹴るなどの身体的暴力
- 怒鳴る、無視する、人格を否定するなどの精神的暴力
- 生活費を渡さない、働くことを禁止するなどの経済的暴力
- 性的行為の強要などの性的暴力
- 子どもへの虐待やその脅し
原則として女性と子ども 多くのDVシェルターは女性とその子どもを対象としています。これは、DV被害者の多くが女性であることと、女性専用施設の方が安全性とプライバシーを確保しやすいためです。
ただし、近年では男性DV被害者への支援も重要視されており、男性専用のシェルターや一時保護施設も徐々に整備が進んでいます。
利用可否の判断基準
危険度の評価 被害者の身体的・精神的な危険度が評価されます。特に以下の要因がある場合は、緊急性が高いと判断されます:
- 加害者から殺害や重傷害の脅迫を受けている
- 過去に重篤な身体的暴力を受けた経験がある
- 加害者が武器を所持している、または使用を示唆している
- 被害者が自殺願望を示している
- 子どもも被害を受けている、または受ける可能性が高い
加害者の追跡リスク 加害者による執拗な追跡や嫌がらせの可能性も重要な判断要素です。特に以下の場合は注意深く検討されます:
- 加害者が被害者の行動を常に監視している
- GPS機能付きの機器で位置を把握されている
- 職場や家族を通じて居場所を探ろうとしている
- ストーカー行為をエスカレートさせている
空き状況と地域事情 シェルターには収容人数の制限があるため、空き状況も利用可否に影響します。満室の場合は、他地域のシェルターへの紹介や、ホテル等での一時保護も検討されます。
子どもの年齢制限
多くのシェルターでは、男児の年齢制限を設けています。これは女性専用施設としての性格と、他の利用者への配慮によるものです。
一般的な年齢制限
- 男児:小学校低学年(6〜8歳)まで
- 女児:年齢制限なし
ただし、施設によって基準は異なり、個別の事情によって柔軟な対応が取られる場合もあります。年齢制限に該当する場合でも、まずは相談してみることが重要です。
利用方法(ステップ)
DVシェルターの利用は、段階的なプロセスを経て行われます。緊急性が高い場合でも、適切な手続きを経ることで、より安全で効果的な保護を受けることができます。
ステップ1:相談窓口への連絡
DV相談+(全国共通:#8008) 24時間365日対応の全国共通相談ダイヤルです。携帯電話、固定電話、公衆電話のいずれからでも無料で利用できます。
相談対応の特徴:
- 匿名での相談が可能
- 多言語対応(英語、中国語、韓国語、タガログ語、タイ語、ポルトガル語、スペイン語、ベトナム語)
- 聴覚障害者向けのメール・FAX相談も実施
- 男性向けDV相談も対応
警察署の生活安全課 緊急性が高い場合や、身体的危険が切迫している場合は、最寄りの警察署に相談できます。
警察相談のメリット:
- 24時間対応可能
- 即座に安全確保措置を取れる
- 加害者への警告や接近禁止措置も可能
- 被害届の受理や保護命令申立ての支援
市区町村の女性相談支援センター 各自治体に設置されている専門相談機関で、最も包括的な支援を受けることができます。
女性相談支援センターのサービス:
- 専門カウンセラーによる相談
- 一時保護の手配
- 法的支援の紹介
- 生活再建支援の調整
- 同行支援(裁判所、病院等への付き添い)
民間団体・NPO より専門的で個別性の高い支援を提供する団体も多数あります。
主要な民間支援団体:
- 全国女性シェルターネット
- 女性の安全と健康のための支援教育センター
- 各地域のDV防止・被害者支援団体
ステップ2:緊急避難の調整
相談を受けた機関では、被害者の現在の状況と安全確保の緊急度を詳細に聞き取ります。
安全確保の緊急度判定 以下の項目について詳しく確認されます:
- 現在の身体的・精神的状態
- 加害者の現在の所在と行動パターン
- 子どもの有無と年齢、現在の状況
- 経済的状況と持参可能な物品
- 加害者以外の支援者や相談先の有無
搬送手配 危険度が高い場合は、安全を確保しながらシェルターまで搬送する手配が行われます。
搬送方法:
- 支援員による車両での迎え
- タクシーでの移動(料金は自治体負担)
- 警察による護送(極めて危険度が高い場合)
- 自力での移動(比較的安全な場合)
持参物の指導 安全確保を最優先としつつ、今後の手続きに必要な最小限の物品について指導されます。
ステップ3:入所手続き
シェルター到着後は、速やかに入所手続きが行われます。
基本情報の聞き取り
- 本人および子どもの氏名、生年月日
- 住所、連絡先
- 加害者との関係性
- DV被害の具体的内容と期間
- 健康状態(怪我、病気、服薬状況等)
施設利用の説明
- 施設内のルールとマナー
- 安全確保のための注意事項
- 生活に必要な設備とサービス
- スタッフとの連絡方法
- 緊急時の対応方法
個別支援計画の策定 被害者一人ひとりの状況に応じた支援計画が策定されます。この計画には、短期的な安全確保から長期的な自立支援まで、包括的な内容が含まれます。
滞在中の生活支援
DVシェルターでの生活は、被害者とその子どもが心身を回復し、新しい生活への準備を整えるための重要な期間です。施設では多角的な支援プログラムが提供されます。
宿泊・食事の提供
住環境 個室または家族単位での部屋が提供されます。プライバシーが確保された安全な環境で、鍵付きの個人ロッカーや最低限の家具も用意されています。
施設の基本設備:
- 個室または家族室(鍵付き)
- 共用のリビングスペース
- キッチン・食堂
- 浴室・洗面所
- 洗濯室
- 子どもの学習スペース
食事提供 施設によって食事提供の形態は異なりますが、栄養バランスを考慮した食事が確保されます。
食事提供パターン:
- 完全給食制(3食とも施設で調理・提供)
- 一部自炊制(朝食のみ自炊、昼夕食は提供等)
- 完全自炊制(食材支給、調理は利用者)
アレルギーや宗教上の食事制限がある場合は、個別に対応されます。また、離乳食や子ども向けの食事も用意されます。
心理的ケア(カウンセリング)
DV被害者の多くは、長期間の暴力により深刻な心理的トラウマを抱えています。専門的な心理ケアは回復の重要な要素です。
個別カウンセリング 臨床心理士や公認心理師による個別のカウンセリングセッションが定期的に実施されます。
カウンセリングの内容:
- トラウマ体験の整理と処理
- 自尊心と自信の回復
- 将来への希望と目標設定
- 対人関係スキルの再構築
- 子どもとの関係性改善
グループカウンセリング 同じような体験を持つ女性同士でのグループセッションも行われます。
グループカウンセリングの効果:
- 孤独感の軽減
- 体験の共有による癒し
- 相互支援関係の構築
- 社会性の回復
- ピアサポート(当事者同士の支援)の学習
子どもの心理ケア 子どもも深刻な心理的影響を受けているため、年齢に応じた専門的ケアが提供されます。
- プレイセラピー(遊戯療法)
- アートセラピー(芸術療法)
- 学習支援と生活指導
- 同年代の子どもとの交流機会
法律相談
DVから脱出し新しい生活を始めるためには、様々な法的手続きが必要になります。シェルターでは、専門的な法律相談を受けることができます。
離婚手続き支援
- 調停離婚の申立て方法
- 必要書類の準備支援
- 弁護士の紹介
- 裁判所への同行支援
慰謝料・財産分与
- 慰謝料請求の妥当性と金額算定
- 財産分与の対象と評価方法
- 強制執行手続きの説明
- 相手方との交渉支援
親権・面会交流
- 親権争いへの対策
- 子どもの福祉を最優先とした判断支援
- 面会交流の安全性確保
- 監護者指定や子の引渡し請求
保護命令申立て DV防止法に基づく保護命令の申立て支援も重要なサービスです。
保護命令の種類:
- 接近禁止命令(6ヶ月間有効)
- 退去命令(2ヶ月間有効)
- 子への接近禁止命令
- 親族等への接近禁止命令
- 電話等禁止命令
就労・生活再建支援
経済的自立は、DV被害者の根本的な問題解決に不可欠です。シェルターでは、就労と生活再建に向けた総合的な支援が行われます。
職業訓練・スキルアップ
- ハローワークとの連携による職業相談
- 職業訓練校の紹介と申込み支援
- パソコンスキルや資格取得の支援
- 履歴書作成や面接練習
具体的な訓練内容:
- 事務系(ワード、エクセル、簿記等)
- 介護・福祉系(介護職員初任者研修等)
- 美容・理容系(美容師、エステティシャン等)
- 製造・技術系(工場作業、軽作業等)
住宅確保支援 安全で安定した住まいの確保は、自立への大きな課題です。
住宅支援の内容:
- 公営住宅への優先入居申請
- 民間賃貸住宅の紹介
- 保証人問題の解決支援
- 敷金・礼金等初期費用の援助制度紹介
- 母子生活支援施設への入所相談
経済的支援制度の活用 各種公的支援制度の申請手続きを支援します。
主な支援制度:
- 生活保護
- 児童扶養手当
- 児童手当
- 住宅扶助
- 医療扶助
- 母子父子寡婦福祉資金貸付
子どもの支援
DVのある家庭で育った子どもたちは、様々な困難を抱えています。子どもの健全な発達を支援するための専門的なプログラムが用意されています。
学校との連絡調整 転校手続きや学習継続のための調整が行われます。
具体的な支援内容:
- 転校先学校の選定と手続き
- 学習遅れへの対応策検討
- いじめ防止のための配慮要請
- スクールカウンセラーとの連携
- 就学援助制度の申請支援
学習支援 学習環境の変化に適応できるよう、個別の学習支援が提供されます。
- 基礎学力の補強
- 宿題や予習復習のサポート
- 進学相談
- 奨学金制度の紹介
心理的支援 子ども専門のカウンセラーによる継続的な心理的サポートが行われます。
- 家族間暴力の目撃による心的外傷への対応
- 自己肯定感の回復支援
- 社会性とコミュニケーション能力の向上
- 将来への希望と目標設定の支援
安全確保支援
シェルター滞在中も、加害者による追跡や嫌がらせのリスクは続きます。継続的な安全確保措置が重要です。
保護命令申立て支援 必要に応じて保護命令の申立てを支援します。申立ての準備から裁判所への同行まで、全面的にサポートされます。
警察との連携 地域の警察署と連携し、パトロールの強化や緊急時の対応体制を整備します。
- 緊急通報システムの設置
- 定期的な安全確認
- 加害者の動向監視
- 必要に応じた警護措置
情報管理の徹底 被害者の個人情報と居所の秘匿を徹底します。
- 住民票の閲覧制限措置
- 郵便物の転送停止
- 各種手続きでの住所秘匿
- 関係機関での情報共有制限
滞在期間とその後
DVシェルターでの滞在は一時的なものですが、被害者の状況によって期間は大きく異なります。短期間で自立できる場合もあれば、より長期的な支援が必要な場合もあります。
緊急一時保護期間
標準的な滞在期間 原則として2週間から1ヶ月程度が基本的な滞在期間とされています。この期間中に、今後の生活設計と支援計画を具体的に策定します。
期間中の主な活動:
- 心身の回復と安定化
- 法的手続きの開始
- 就労・住宅等の具体的検討
- 子どもの学校等の手続き
- 支援ネットワークの構築
期間延長の条件 以下のような場合には滞在期間の延長が検討されます:
- 身体的・精神的な回復に時間を要する
- 加害者による追跡・嫌がらせが継続している
- 住居や就労の確保に時間がかかっている
- 法的手続きが長期化している
- 子どもの状況を考慮する必要がある
長期保護施設への移行
シェルターでの一時保護期間終了後も継続的な支援が必要な場合は、以下のような施設への移行が検討されます。
母子生活支援施設 18歳未満の子どもを養育している母親とその子どもが利用できる施設です。より長期的な滞在が可能で、自立に向けた段階的な支援を受けられます。
母子生活支援施設の特徴:
- 滞在期間:原則2年間(延長可能)
- 個別の居室とプライバシーの確保
- 職員による24時間体制の支援
- 子どもの学校通学継続可能
- 就労支援と自立準備プログラム
自立支援住宅 民間アパート等を借り上げて提供される住宅で、一定期間の家賃補助と生活相談を受けながら自立を目指します。
自立支援住宅のメリット:
- 一般住宅での生活により自立感を養える
- 近隣住民との自然な関係構築
- 就労・就学に有利な立地選択
- 段階的な支援の縮小による自立促進
自立後の継続支援
シェルター退所後も、完全に支援が終了するわけではありません。アフターケアとして様々な継続支援が提供されます。
定期的な面談・相談 月1〜2回程度の定期面談により、生活状況の確認と必要に応じた支援の提供が継続されます。
相談内容例:
- 就労上の困りごと
- 子どもの学校での問題
- 経済的な困窮
- 元配偶者からの嫌がらせ
- 孤独感や不安の相談
同行支援サービス 重要な手続きや面談に支援員が同行するサービスも継続されます。
- 裁判所での手続き
- ハローワークでの相談
- 子どもの学校との面談
- 医療機関での診察
ピアサポートグループ 同じような経験を持つ女性同士の交流と支援の場が定期的に開催されます。
- 月1回程度の交流会
- 情報交換と相互支援
- 講演会や学習会の開催
- 子どもも参加できるイベント
利用時の注意点
DVシェルターは被害者の安全を最優先とする施設であるため、利用に際しては厳格なルールと注意事項があります。これらを守ることで、すべての利用者の安全と快適な共同生活が確保されます。
居場所・連絡先の秘匿
絶対的な秘匿義務 シェルターの所在地や電話番号などの連絡先は、いかなる理由があっても外部に漏らしてはいけません。これは自分自身だけでなく、他の利用者の安全にも関わる最も重要なルールです。
禁止される行為:
- 家族・友人への施設情報の開示
- SNSへの位置情報や施設の特徴を示す投稿
- 外部からの電話での施設名の口外
- 郵便物や宅配物での施設住所の使用
通信手段の制限 加害者による居場所特定を防ぐため、通信手段にも一定の制限があります。
- 携帯電話のGPS機能オフ
- SNSの利用制限または監視
- メールの内容確認
- 通話相手の事前申告
持ち込み禁止物
安全な共同生活を維持するため、危険物や問題を引き起こす可能性のある物品の持ち込みは禁止されています。
危険物の禁止
- 刃物類(包丁、カッター、ハサミ等)
- 工具類(金づち、ドライバー等)
- 薬品類(洗剤、漂白剤等の大容量)
- ライター・マッチ類の大量持込み
嗜好品の制限
- アルコール類の持込み・飲酒
- タバコ(施設内完全禁煙)
- ギャンブル用品
- 過度に高価な貴重品
電子機器の管理
- パソコンやタブレットの利用は要相談
- ゲーム機等の娯楽機器
- 撮影機能付き機器の制限
- 充電器等の共用時の注意
外出制限
利用者の安全確保のため、外出には一定の制限があります。
事前申告制 外出時には以下の項目を事前に施設スタッフに報告する必要があります:
- 外出目的と行き先
- 同行者の有無と関係性
- 外出時間と帰所予定時刻
- 緊急連絡先
外出許可の条件
- 生活に必要な用事(買い物、病院等)
- 就職活動や各種手続き
- 子どもの学校行事への参加
- 法的手続きへの出廷
無断外出の禁止 安全確保のため、無断での外出は原則として禁止されています。緊急時であっても、可能な限りスタッフへの報告が求められます。
子どもに関する注意事項
学校・友人への連絡 子どもの学校や友人関係について、安全性を十分に考慮した上で慎重に対応する必要があります。
学校連絡時の注意:
- 担任教師にのみ状況を説明
- 他の保護者への情報開示禁止
- 緊急連絡先としてシェルター番号は使用不可
- 学校行事参加時の写真・動画配布の辞退
友人関係の管理
- 友人宅への外泊禁止
- 友人の施設見学・訪問禁止
- SNSでの友人とのやりとり制限
- 位置情報を特定されるような連絡の禁止
共同生活のルール
生活時間の規律
- 起床・就寝時間の目安遵守
- 食事時間の厳守
- 共用スペース利用時間の制限
- 夜間の騒音防止
清掃・整理整頓
- 個人部屋の清掃義務
- 共用スペースの清掃当番
- ゴミ出しルールの遵守
- 洗濯室・浴室利用後の清掃
他の利用者への配慮
- プライバシーの尊重
- 子どもの声や音への配慮
- 共用物品の適切な使用
- 互いの価値観の尊重
健康管理
服薬管理 精神的な不調や身体的な症状で服薬している場合は、適切な管理が必要です。
- 処方薬の自己管理
- 服薬状況の定期報告
- 薬剤の他者への譲渡禁止
- 医師の指示通りの服用
医療機関受診 体調不良時の医療機関受診についても一定のルールがあります。
- 受診前のスタッフへの相談
- 同行支援の要請
- 診療情報の施設との共有
- 緊急時の連絡体制確認
費用負担について
DVシェルターの利用に関する費用負担については、施設の運営主体や利用者の経済状況によって異なります。
基本的な滞在費用 多くの公的シェルターでは、滞在費用は無料または非常に低額に設定されています。
- 宿泊費:無料~日額1,000円程度
- 食費:無料~日額1,500円程度
- 光熱費:基本的に無料
自己負担が発生する項目
- 個人的な日用品(化粧品、衣類等)
- 嗜好品(お菓子、飲料等)
- 交通費(就職活動、通院等)
- 子どもの学用品
- 携帯電話料金
経済的困窮時の支援 経済的に困窮している場合は、生活保護の申請や各種手当の受給により、必要最小限の費用も賄うことができます。
まとめ|DV被害時はためらわず避難を
DVは決して個人的な問題ではなく、社会全体で取り組むべき重要な人権問題です。被害者が一人で悩みを抱え込む必要はありません。適切な支援を受けることで、安全で尊厳のある生活を取り戻すことができます。
命の安全が最優先
DV被害において最も重要なことは、被害者とその子どもの生命と安全を確保することです。「まだ大丈夫」「もう少し我慢すれば」といった思考は非常に危険です。
危険性の判断基準 以下のような状況がある場合は、直ちに避難を検討すべきです:
- 暴力がエスカレートしている
- 殺害や重傷害の脅迫を受けている
- 武器を使用された、または使用を示唆されている
- 子どもも被害を受けている
- 自分自身が自殺を考えるほど追い詰められている
これらの状況では、「話し合いで解決できる」「相手も反省している」といった希望的観測は捨て、現実的な危険性を受け入れることが重要です。
シェルターの総合的な支援機能
DVシェルターは単なる避難場所ではなく、被害者の人生再建を支援する総合的な機能を持った施設です。
段階的な支援プログラム
- 第1段階:安全確保と心身の安定化
- 第2段階:問題の整理と将来設計
- 第3段階:具体的な自立準備
- 第4段階:社会復帰と継続的フォロー
多職種連携による専門支援 心理カウンセラー、社会福祉士、弁護士、医師、保健師など、多くの専門職が連携して包括的な支援を提供します。一人の利用者に対して複数の専門家がチームを組み、個別のニーズに応じたオーダーメイドの支援計画を策定・実行します。
早期相談と証拠保全の重要性
DVからの根本的な脱出と生活再建のためには、早期の相談と適切な証拠保全が不可欠です。
早期相談のメリット
- 選択肢の多様性確保
- 支援制度の最大活用
- 心理的ダメージの最小化
- 子どもへの影響軽減
- 法的手続きの有利な展開
重要な証拠の種類 被害の事実を客観的に証明できる証拠を日頃から保全しておくことが重要です:
医学的証拠
- 診断書、治療記録
- 怪我の写真(日時入り)
- レントゲン写真
- 薬の処方記録
物的証拠
- 壊された物品の写真
- 脅迫文やメール
- 通話記録
- 家計簿や経済的DVの記録
証言等の証拠
- 日記やメモ(被害の詳細記録)
- 目撃者の証言
- 相談記録(警察、相談機関等)
- 録音・録画データ(違法性に注意)
子どもへの配慮と支援
DV被害において、子どもは「もう一人の被害者」です。適切な時期に適切な支援を受けることで、子どもの将来への悪影響を最小限に抑えることができます。
子どもが受ける影響
- 心的外傷(PTSD)
- 学習能力の低下
- 対人関係の困難
- 自己肯定感の低下
- 将来の暴力の世代間継承リスク
子どもの回復を支える要素
- 安全で安定した生活環境
- 信頼できる大人との関係
- 年齢に応じた説明と理解
- 専門的な心理ケア
- 同年代との健全な交流
社会復帰への道のり
シェルターでの生活は、新しい人生のスタートラインです。完全な回復と自立には時間がかかりますが、適切な支援を受けながら段階的に進歩していくことができます。
回復のプロセス
- 危機脱出期(避難直後)
- 安全確保と基本的な生活の確立
- 混乱した感情の整理
- 当面の生活に必要な手続き
- 安定化期(1-3ヶ月)
- 心身の回復と安定
- 将来への具体的な計画策定
- 必要な知識とスキルの習得
- 再構築期(3-12ヶ月)
- 新しい生活環境での適応
- 経済的自立の実現
- 社会関係の再構築
- 統合期(1年以降)
- 過去の経験の意味づけ
- 安定した生活の維持
- 他者支援への参加
支援を求めることの意味
DV被害から脱出し、シェルターで支援を求めることは、決して恥ずかしいことでも負けることでもありません。それは、自分と子どもの人権と尊厳を守るための勇気ある選択です。
支援を求める権利 すべての人には、暴力を受けない権利があります。そして、困難な状況にある時に社会からの支援を受ける権利もあります。DVシェルターやその他の支援制度は、この基本的人権を保障するために社会が用意したセーフティネットです。
回復と成長の可能性 多くのDV被害者が、適切な支援を受けることで心身の回復を遂げ、新しい人生を築いています。中には、自らの経験を活かして他の被害者の支援活動に携わったり、社会啓発に取り組んだりする人もいます。
相談先の再確認
最後に、DV被害にお悩みの方が今すぐ連絡できる主要な相談先を再確認しておきましょう。
24時間対応の相談窓口
- DV相談+(プラス):#8008(はれれば)
- 24時間365日無料相談
- 10ヶ国語対応
- 匿名相談可能
- 警察相談専用電話:#9110
- 生活安全に関する相談全般
- 緊急時は迷わず110番
地域の専門相談機関 各都道府県・市区町村の女性相談支援センターでは、平日日中を中心に専門的な相談を受け付けています。インターネットで「お住まいの地域名+女性相談」で検索すると、最寄りの相談機関を見つけることができます。
オンライン相談の活用 近年では、メールやチャットでの相談も増えています。電話で話すことが困難な状況でも、文字でのやりとりなら安全に相談できる場合があります。
最後に伝えたいこと
DV被害に苦しんでいるあなたは、決して一人ではありません。社会には、あなたとあなたの子どもを支えるための制度と人々が存在します。完璧な準備ができてから相談するのではなく、不安や迷いがあっても、まずは一歩を踏み出してください。
その一歩が、新しい人生の始まりとなるはずです。そして、いつか振り返った時に、「あの時勇気を出して良かった」と思える日が必ず来ます。
一人ひとりの被害者が安全で尊厳のある生活を取り戻し、その子どもたちが健やかに成長できる社会の実現に向けて、私たち全体で取り組んでいかなければなりません。あなたの勇気ある一歩は、そうした社会づくりの大切な一部なのです。

佐々木 裕介(弁護士・行政書士)
「失敗しない子連れ離婚」をテーマに各種メディア、SNS等で発信している現役弁護士。離婚の相談件数は年間200件超。協議離婚や調停離婚、養育費回収など、離婚に関する総合的な法律サービスを提供するチャイルドサポート法律事務所・行政書士事務所を運営。