ひとり親になると、仕事と育児の両立をしなければなりません。
ある程度の収入が必要なのに、まだ小さい子どもがいると正規雇用ではなくパートやアルバイトでしか働けなかったり、思っている額の収入が得られなかったりします。
そこで積極的に利用していきたいのが、国からの公的支援や手当です。
どのような支援や手当があるのか、確認しておきましょう。
数字で見るひとり親家庭の困窮化
令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果報告によると、母子家庭の86.3%が就労していますが、「正規の職員・従業員」は48.8%、「パート・アルバイト等」は38.8%となっています。
母子世帯の母自身の令和2年の平均年間収入は 272 万円、母自身の平均年間就労収入は 236 万円となっています。
平均収入:生活保護法に基づく給付、児童扶養手当等の社会保障給付金、就労収入、 別れた配偶者からの養育費、親からの仕送り、家賃・地代などを加えた全ての収入の額のこと。
自身の収入:母子世帯の母自身又は父子世帯の父自身の収入のこと。
また、養育費の取り決めをしている離婚母子家庭は46.7%ですが、養育費を現在も受給している家庭は28.1%に留まっています。
ひとり親家庭の相対的貧困率は、48.1%です。
相対的貧困: 等価可処分所得 (世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って 調整した所得) の中央値の半分に満たない世帯員の割合
ひとり親家庭に貧困が多い理由
「ひとり親世帯」の貧困問題が顕著化していますが、その要因は複数あります。
どのようなことが貧困要因となっているか、確認してみましょう。
収入が少ない
親が一人ということは、その分収入が減ります。
特に夫婦どちらかの収入に頼ってきた場合は、離婚後に極端な貧困に陥る家庭も少なくありません。
欧米をはじめとした先進国の中でも、日本は相対的貧困率が高いことが問題となっています。
子育てと仕事の両立が難しい
小さい子どもがいるひとり親家庭は、フルタイムで仕事がしにくい現状があります。
子どもが小さいうちは体調を崩しやすかったり家事に追われたりして、非正規雇用を選んだり、そもそも正規雇用されにくいといった要因があったりと、貧困家庭に陥りやすいです。
ワーキングプアの状態
正社員または非正規社員としてフルタイムで働いているにも関わらず、生活保護の水準以下の収入しか得られない低所得者層をワーキングプアと言います。
「働く貧困層」とも呼ばれ、日々の生活で精一杯の状態となってしまいます。
夫婦2人で働いていれば両方の収入で日々の生活に必要な生活費を補うことができますが、ひとり親世帯では難しい状況です。
病気やケガで収入がゼロになる
ひとりの収入で生活をしている場合、当人が急な病気やケガで働けなくなった場合は収入がゼロもしくは激減します。
緊急時に収入を補える環境がないひとり親世帯は、一気に収入を失うこととなります。
特にシングルマザーの貧困率が高い理由は?
シングルマザーとシングルファザーを比べると、前者の方が貧困率が高い傾向にあります。
就業率には大きな差はないのに、なぜシングルマザーの貧困率が高いのでしょうか。
正規雇用されにくい
シングルファザーの男性は、離婚前から働いている場合が多いですが、出産を機に退職して専業主婦などになった女性は、離婚後に新たにキャリアを築く必要があります。
シングルマザーは子育てを一人で担いながら仕事もしなければならないため、正規雇用に就くのは難しい状況にあります。
また企業側も、シングルマザーの雇用を敬遠する場合があります。
また子どもとの時間を大切にしたいと考えるシングルマザーは、フルタイム勤務や正規雇用を希望しない場合もあると言われています。
養育費がもらえない
シングルマザーとなる理由の多くが離婚です。
離婚相手である父親から養育費を受け取る権利があるにも関わらず、養育費を受け取っている家庭は28.1%と低い数字です。
そもそも養育費の取り決めをしないで離婚したケースが半数以上となっています。
養育費の取り決めをしなかった理由は、
・相手と関わりたくない
・相手に支払う意思がないと思った
が上位です。
養育費をもらうためには、毎月いくら養育費を支払うという金額の合意を離婚当事者間でしなければならないというルールになっており、別れた夫とは「会話が成立しない」「話し合える関係でない」「話し合いを求めても聞いてもらえない、聞く耳と持たない、逆上する」などのケースの場合は、そもそも養育費の金額を決めることを諦めてしまっているケースも多いです。
また、せっかく協議をしても、離婚後15年も20年も相手と関わり合いを持って養育費を回収しなければならない、ということが大きな精神的な負担になることも多く、離婚後は子どもにも関わって欲しくないので、「養育費は諦める」といった選択をしてしまうシングルマザーも多いのが実情です。
シングルマザーの貧困による苦悩
シングルマザーは、貧困による様々な苦悩を抱えています。
代表的な例は以下の5つです。
・貯蓄ができない
・食事が困る
・習い事や旅行に行けない
・協力を仰ぎにくい
・特に負担になっているのは住居費、食費
貯蓄ができない
貯蓄ができない点も、貧困で苦しむシングルマザーの悩みの一つです。
日々の生活を賄うことで精一杯で、貯蓄まで回せない現状があります。
食事が困る
収入を増やすために仕事をしても、帰りが遅くなったり疲れが溜まったりすることで、自炊の時間をとることができない日も増えてきます。
結果、子どもの栄養バランスが崩れることに繋がります。
また自炊よりもお金がかかってしまうため、ますます貧困から抜け出せない要因となります。
最近はこの問題を解決するために、無料で食事を提供する「こども食堂」のような取り組みが普及してきました。
習い事や旅行ができない
子どものやりたいことや欲しいものに捻出するお金がないと感じているシングルマザーも多いです。
友だちや周りの家庭と比べてしまい、辛い思いをする人もいます。
協力を仰ぎにくい
離婚家庭は年々増えていますが、シングルマザーに対する偏見が多くストレスを抱えてしまう場合があります。
辛いのに協力を仰ぐことができず、孤立感を感じています。
教育費の心配
保育園・幼稚園から高校・大学まで、トータルで考えると高額になる教育費。
収入が少なく、子どもの希望している学校に通わせてあげられない、子どもの将来の選択肢を狭めてしまうなどの不安を抱えています。
ひとり親家庭への公的支援
貧困家庭が多いひとり親家庭には、様々な公的支援があります。
ひとり親家庭に向けた自立支援制度は、「子育て・生活支援」「就業支援」「養育費確保支援」「経済支援」の4本柱で推進されています。
それぞれ、どのような支援なのか確認していきましょう。
子育て・生活支援
「子育て・生活支援」は、ひとり親家庭が置かれる子どもについての問題を改善できるように行われる支援のことです。
例えば母子・父子自立支援員による相談支援やヘルパーの派遣、保育所の優先入所、子どもの生活・学習支援事業などによる子供への支援、母子生活支援して施設の機能拡充などが行われています。
就業支援
「就業支援」は、母子または父子の自立支援プログラムの策定やハローワークなどの連携による就業支援の推進が行われています。
その他にも母子家庭など就業・自立支援センター事業の推進や、能力開発などの給付金の支給も就業支援の事業です。
養育費確保支援
「養育費確保支援」は、養育費相談支援センターや地方自治体における養育費に関する相談支援が行われています。
養育費をきちんと支払われていないひとり親、特に母子家庭が多いことが現状です。
また、養育費の支払いを確保するためには「公正証書」という法的執行力を有する書面を作成することが有効ですが、多くの自治体で公正証書の作成費用を全額補助しています。
さらに、近年では、自分で養育費を回収することの精神的な負担や支払停止のリスクが注目されており、養育費の回収を自分で行うのではなく、民間業者に任せるという取り組みも行われているます。
具体的には、養育費の回収を全て任せられて、支払停止時も保証を受けられる手段として、養育費支払保証サービスの利用ケースも増えています。自治体によっては、養育費支払保証サービスの初回契約金(上限5万円)の全額を補助している自治体も増えていますので、確認してみるといいでしょう。
経済的支援
「経済的支援」によって支給される手当は、経済支援による児童扶養手当や特別児童扶養手当、児童育成手当、児童手当があります。
児童手当は、ひとり親家庭に関わらず、子どものいる世帯が受けられる給付金です。
ひとり親家庭への主な手当
児童扶養手当
児童扶養手当は、ひとり親家庭の子どものために地方自治体から給付される手当です。
子どもが満18才になる年の年度末まで受給可能ですが、所得が一定水準以下であることが条件です。
児童扶養手当の審査は、書類と面談によって行われるのが一般的です。
面談では、家庭状況、就労状況、養育費のことなどを聞かれます。
また、児童扶養手当を受給していると、JR通勤定期券の割引や都営交通無料乗車券の発行、自治体によっては上下水道の基本料金の減免を受けることができます。
母子父子寡婦福祉資金
母子父子寡婦資金は、ひとり親家庭に対して自治体が、生活資金、高校や大学などの就学資金や貸し付けを行う制度です。
原則、無利子・連帯保証人不要で借りることができます。
貸付けには、書面や面談による審査があります。
審査では、貸付けが自立につながるか、返済が可能かの2点が重視されます。
返済が滞ると違約金が課せられるので、必ず期限を守りましょう。
まとめ
ひとり親になると、子育てと仕事を両立していかなければなりません。
しかし正規雇用を受けることができず、パートやアルバイトで生計を立てているため収入が少なく生活が苦しい家庭がほとんどです。
ひとり親家庭を対象にした優遇制度は、他にもあります。
何をどう相談すれば良いのかわからない人は、まずは住所のある市区町村役場に確認をしてみることをおすすめします。
支援や手当を知り、積極的に利用していきましょう。
また、公的支援以外にもNPO法人など民間団体の支援活動もたくさんあります。
情報収集や情報交換の場として活用することもできるので、ひとりで悩まず各機関に相談してみましょう。