離婚を考え始めても、さまざまな事情から実際に行動を移すことが難しいと感じている方も多いのではないでしょうか?
「離婚」の前に「別居」という選択をすることも一つの手段です。
ただし別居をするにあたっては、注意すべき点や事前に準備しておいた方が良いこともありますので、確認しておきましょう。
離婚するためには別居が重要?
別居は、お互いの冷却期間を設ける目的で行うイメージがありますが、離婚目的で別居をする夫婦もいることをご存知でしょうか。
別居をすると、裁判において離婚が認められる可能性が高まるためです。
離婚は夫婦の意見が一致していれば、協議離婚が成り立ちます。
しかし、どちらか一方が離婚に同意していない場合は、民法で決められた離婚事由が必要です。
離婚事由の一つである「その他婚姻を継続し難い重大な事由」は、別居の有無・期間が重要なポイントになります。
長期にわたる別居で夫婦関係が破綻していると判断されると、相手の同意がなくても離婚請求が認められる可能性が出てきます。
離婚を成立させるために必要な別居期間は?
どのくらいの別居期間があれば、調停や裁判で離婚を認めてもらうことができるのでしょうか。
夫婦の年齢や同居期間など個別の事情も影響するため、一概に何年であると言い切ることはできません。
ただし、一般的には3〜5年程度別居をしていれば、離婚請求が認められることが多いようです。
また、相手のDV行為があった場合は、夫婦関係が破綻していると認められる可能性が高くなります。
DVやモラハラを受けているケースで相手が離婚に同意しない場合、なるべく早く別居に進むことを検討しましょう。
別居のメリット・デメリット
ここでは別居をするメリットとデメリットについて、確認しておきましょう。
別居するメリット
- 別居期間が長期に及べば、調停や裁判で離婚請求が認められる可能性が高くなる
- 離婚の意思が固いことを示せるので、相手が真剣に受け止めるようになる
- 婚姻費用の支払いを減らすために、早めに離婚に応じる可能性がある
- 同居によるストレスから解放され、精神的に安定する
- DV行為から逃れることができる
- 落ち着いて離婚の準備を進められる
別居するデメリット
- 離婚を考え直した時に復縁が難しくなる
- 相手の有責行為の証拠集めが難しくなる
- 相手が財産隠しをする可能性がある
- 新しい仕事や住居を探す労力が必要になる
- 子どもの環境が変わったり精神的に不安定になったりする可能性がある
- 同居時よりも経済的に苦しくなる
有責行為:夫婦間における離婚原因となる行為のことであり、不貞行為や暴力行為などの配偶者の肉体面や精神的に被害を与えるもの。
「家庭内別居」や「単身赴任」は離婚理由として認められる?
家庭内別居の場合
家庭内別居とは、婚姻関係は解消しておらず同じ家で暮らしているけれど夫婦関係は冷え切っており、互いに干渉せずに暮らしている状態のことです。
この場合、夫婦の会話が全くなかったとしても、同居しているため離婚が認められるのは難しいでしょう。
ただし相手のDVが原因で家庭内別居に至った場合や家計が別々で家事分担をしていないような場合は、離婚請求が通る可能性もあります。
単身赴任の場合
単身赴任は、仕事の都合による別居なので、基本的に離婚事由に該当する「別居」とみなされることはありません。
ただし、単身赴任中の不貞行為や赴任期間が終わっても自宅に帰らなかった場合は、離婚原因になり得ます。
別居するにあたって気を付けること
感情的にならずに焦らずに、別居は計画的に準備しましょう。
やみくもに家を飛び出さないように気を付けることが大切です。
一方的な別居に注意
夫婦は同居する義務があるので、別居する時は原則として配偶者の合意が必要です。
ただし、相手からのDVやモラハラを受けていて合意が難しい場合や相手方に不貞などの明確な非がある場合、何度話し合っても平行線のままの場合などは、合意がなくても別居ができることもあります。
別居中の不貞行為に注意
別居中であっても、婚姻関係が続いている以上は貞操義務を守らなければなりません。
貞操義務:具体的に法律で定められているわけではないが、婚姻中に配偶者以外の第三者と性的関係を結ぶと、離婚事由の一つである「不貞行為」に該当
ただし、別居によりすでに夫婦関係が破綻している状態と認められれば、不倫をしたとしても法律上の不貞行為に至らず慰謝料は発生しません。
別居中に生活費はもらえるの?
別居期間中で夫婦である限り、請求できるお金があるので参考にしてみてくださいね。
経済面での不安から別居に踏み出せない方も多いのではないでしょうか?
婚姻費用の請求ができる
結婚生活を送るために必要な生活費のことを婚姻費用といいます。
衣食住にかかるお金、教育費、医療費、養育費、娯楽費などが含まれます。
夫婦が同じレベルの生活ができるよう、収入の高い側が多く支払い、離婚が成立するまでは収入の低い側は収入の高い側に婚姻費用を請求する権利があります。
婚姻費用の金額に決まりはなく、夫婦の間で話し合って決めるのが原則です。
家庭裁判所のホームページに掲載されている養育費・婚姻費用算定表を参考に、金額を決めると良いでしょう。
別居して相手方には生活費として「婚姻費用」を請求できますが、「婚姻費用」は一般的に離婚後にもらう「養育費」よりも一般的に数万円金額が高くなります。
相手方の立場から見ると、別居期間中は、養育費よりも毎月数万円高い金額を支払い続ける義務が発生することになりますので、別居期間が長引けば長引くほど、経済的な負担が重くなります。
相手にとっては早く離婚した方が経済的な負担が軽くなりますので、「離婚も致し方なし」と諦めて離婚に応じてくれるケースも出てきます。
婚姻費用の支払い義務が生じるのは「請求した時点から」とされています。ただし、口頭で「支払って欲しい」と伝えただけでは「請求した時点」にカウントされることは難しいでしょう。
実務上は、「婚姻費用の調停申立て」をするか、または、少なくとも「婚姻費用の具体的な金額を示して内容証明郵便で請求する」ことが必要になります。
したがって、別居をしたらまずは「婚姻費用の調停申立て」を家庭裁判所にすることを検討しましょう。申立てが遅れれば遅れるほど、婚姻費用の総額が少なくなることを踏まえると、相手が支払いに躊躇したら、すぐに家庭裁判所に行きましょう。この時点で弁護士に「無料相談」することもお勧めしますが、弁護士に着手金を支払うと数十万円単位になりますので、自分で調停手続きすることをお勧めします。
「調停申立て」より以前に遡った分は財産分与の中で請求することもケースバイケースでできることもありますが、全額認められるとは限らないので注意しましょう。
別居中に利用できる手当や助成金
子どもを連れて別居した場合は、児童手当や児童扶養手当を利用できる可能性があるため、確認しておきましょう。
児童手当とは
中学卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している人に対して支給されます。
児童手当は原則として所得の高い方の配偶者が受け取ることになっていますが、離婚を前提に別居している場合、離婚協議中であることがわかる書類を役所に提出すれば、子どもと同居している方を受給者として変更手続きができます。
弁護士が離婚事件を受任しているケースでは役所が認めてくれるケースが多いですが、単純に当事者同士で離婚協議をしている状況では、役所に提出する書類を準備することは難しいケースが多いです。係争が長引く場合には、離婚調停の申立てをしておくことをお勧めします。
児童扶養手当とは
ひとり親家庭で、18歳の誕生日後の最初の3月31日までの間にある児童を養育している人を対象に支給されます。
親が離婚している児童だけでなく、「父または母から1年以上遺棄されている児童」「父または母が裁判所からのDV保護命令を受けた児童」等も対象となるので、別居中であっても受け取れる可能性があります。
ただし、通常は、別居中かつ離婚調停中であっても児童扶養手当をもらえることはありません。児童扶養手当の開始するためには、離婚を早期に決着させる必要があります。
別居前に準備しておくこと
離婚ではなく別居といえど、新たな生活の始まりです。
事前にしっかりと準備をしておきましょう。
別居時にやることリスト
- 住まいの確保
- 専業主婦(夫)の場合は仕事探し
- 別居中の生活費の確保
- 夫婦の財産を把握
- 不貞行為やDV行為などの証拠を集める
- 住民票を移す
別居する時の主な持ち物
結婚後に夫婦で使っていた物は、合意の上で持ち出すようにしましょう。
荷物は別居した後に渡してもらうよう請求できると思われがちですが、実際には裁判で物の引き渡しを請求することはほぼ不可能です。
自分の貴重品はなるべく忘れずに持って出るようにしましょう。
- 現金
- 自分名義の通帳・キャッシュカード
- 運転免許証、パスポート(身分証明)
- 不倫、DVの場合はその証拠(写真、動画、診断書など)
- 印鑑
- 携帯電話、スマートフォン
- 健康保険証、年金証書
- 配偶者名義の預貯金通帳・不動産権利書のコピー(財産を証明する資料)
- 子どもの持ち物
置き手紙の書き方
相手が不在のうちに家を出る際は、別居の経緯についての証拠を残すため、置き手紙を残しましょう。
- 別居の理由を書く
- あとで証拠になることも考え、事実を淡々と書く
- 相手を非難する感情的な言葉は書かない
- 特に別居理由がDVの場合は、連絡先や移転先を知らせる必要はない
まとめ
すぐに離婚に踏み切れない場合だけでなく、離婚事由として扱うためにも有意に働く「別居」。
今すぐ離れて暮らしたいと思っても、やみくもに家を飛びだすのではなく、計画的に行うようにしましょう。
特に子どもを連れて別居する場合は、注意が必要です。
子どもは生活環境が大きく変わることでストレスを感じてしまうため、子どもの心にも配慮しながら新しい生活をスタートさせましょう。